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【元車両開発関係者が解説】奥が深いスイングアームの話

スイングアームって、足まわりの構成部品の中でもフロントフォークやホイールに比べると、大きさのわりには注目を集めることの少ない部品ではないでしょうか。 今回はそんな目立たないけれども実は乗り心地や操縦性に大きな影響のある、スイングアームに関するお話です。

スイングアームに求められるものはチェーンやシャフトなどの駆動方式によって違ってくるため、今回はチェーン駆動のバイクに絞ってお話していきたいと思います。

スイングアームの進化の歴史

スイングアームは大きく分けてピボット部分アーム部分から構成されています。 昔のバイクのスイングアームは鉄製の丸パイプを組み合わせて造られた物が一般的でした。そこから剛性を高めるためにアーム部分が鉄製の角パイプになり、やがてアルミ製のスイングアームが登場します。スイングアームのアルミ化は、フレームのアルミ化よりも早く一般化していましたが、初期の物はアーム部分が押し出し材と呼ばれる角パイプを曲げ、溶接して組み立てたもの一択でした。現在ではプレス成型したアルミ材をモナカ合わせに溶接するペリメーター式が最先端となっています。

一部ではアルミ鋳造で成型されたものもありますし、過去には最適な剛性を求めて片側が押し出し材、もう片側はペリメーターなんていう構造もありました。特殊なものではカーボン製も存在しますが、まだ一般的ではありませんね。

下の画像の左はアルミ製ペリメーター、右は鉄製角パイプ。それぞれの形式が微妙に違う特性を持っているため、現在でも車両の求める特性に応じて様々な形式が採用されています。

引用元:右 カワサキ公式サイト

スイングアームに求められるものの変化

スイングアームに求められることは、サスペンションシステムの一部として正確に機能することで、第一条件としてリアタイヤの上下動を正確にショックユニットに伝えることが要求されます。スイングアームがたわんでしまうとリアタイヤの上下動が正確にショックユニットに伝わりませんので、まずは大きな入力にもたわまない剛性確保を目的として形状や材質が進化してきました。様々な形状の補強が編み出されたのも同様の目的です。

そしてサスペンションシステムがツインショックからモノショックに進化することによって、スイングアームに求められるものが変化していきます。ツインショックではスイングアームにたわみやねじれが生じると左右のショックユニットがバラバラの動きをしてしまうため、とにかく剛性確保が最優先されていました。

ショックユニットの取り付け部が中央にあるモノショックの場合は、スイングアームのたわみやねじれがショックユニットの動きに与える影響が少ないため、リアタイヤの上下の動きを正確に伝えるための縦方向の剛性を確保しつつ、アーム部分の横方向のたわみねじれを上手く使って旋回性を上げる方法が追求されていきます。そのための剛性のコントロールに最も適しているのがペリメーター式です。縦、横方向のたわみやねじれをそれぞれ上手くバランスさせながら設計できる利点を利用し、現在のレース車両やスーパースポーツ系の車両ではペリメーター式が主流となっています。
このあたりの進化の方向性はフレームの進化と似ています。

CBR1000RR-RのスイングアームのCG画像 引用元:ホンダ公式サイト

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スイングアームと駆動力の関係

スイングアームにはもうひとつ、リアホイールを保持するという大切な役割があります。このリアホイール、エンジン出力が伝達される駆動輪であることがポイントです。リアホイールの支持にはチェーンを使って伝達されるエンジンからの出力に耐えうるだけの強靭な剛性が必要になります。剛性が足りないとスイングアームがねじれてしまい、ドライブスプロケットとドリブンスプロケットの整列が崩れ、チェーンによるフリクションの増大や、スプロケットやチェーンの耐久性に問題が発生してしまいます。
そのため、内蔵されるピボット部のベアリングが左右で違う構造になっているスイングアームなどもあります。

たとえば下の画像はCB1300SFのスイングアームですが、左側は駆動力の影響が大きいため、大きな荷重に耐えられるニードルベアリングが1個(18番)、右側は抵抗の小さいボールベアリングを、左側のニードルベアリングと同じ幅に近づけるために2個(19番)使用しています。

この駆動力に負けない剛性も要求されるため、フレームやステムに比べると、たわませると言ってもあまり自由度は大きくないのがスイングアームの特徴です。

スイングアームの長さの理由

アクセルを開けて加速するとき、リアタイヤのグリップ力が不足すると空転やスライドをおこしてしまい危険です。

バイクにはそんな危険を減らすため、加速時にはリアタイヤを強く路面に押し付けてグリップ力を増す、アンチスクワットという機構が備わっています。タイヤはある程度荷重をかけ、路面に押し付けられているほうが高いグリップ力を発揮することは【元車両開発関係者が解説】足つき性って元々良くなるように設計できないの?でお話させていただきました。

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チェーンによって伝達されるエンジンの出力はリアタイヤを回転させますが、その力はリアタイヤを前方へ引き寄せようとする力でもあります。スイングアームにはあらかじめ下に向かって角度が付けられているため、リアタイヤを前方へ引き寄せようとする力はスイングアームをさらに下に向かって押し下げる力となり(下図左右)、リアタイヤは路面に強く押し付けられます。これがアンチスクワットです。

リアホリールは前後に可動しないため、前方へ移動させるにはスイングアームを下方へ可動させる必要があります。

駆動力はリアホイールを前方に移動させる方向の力でもあるため、結果的にスイングア-ムを下方へ押し下げる力となります。

大幅に脱線してしまうので今回はアンチスクワットの詳しい解説は省きますが、スイングアームの長さはこのアンチスクワットと密接な関係があります。タイヤを路面に押し付ける効果の大きさは、スイングアームの長さ垂れ角と、ドライブスプロケットとチェーンの接点スイングアームピボットチェーンとドリブンスプロケットの接点が作る三角形の形で決まり、これらに注目して車両を見ると、アクセルオン、オフでの挙動がある程度想像できてきます。このあたりに注目して様々な車種を見てみると、結構車種によって違いがあって面白いですよ。

アンチスクワットは正義?

素晴らしい機構に思えるアンチスクワットですが、近年のMotoGPや市販車のスーパースポーツのスイングアームの長さと角度、ドライブスプロケット、スイングアームピボット、ドリブンスプロケットの位置関係をみると、アンチスクワットの効果を少なく設定しているようにみえる車種が多くなっています。サスペンションのセッティングによる、走行中のスイングアームの角度に大きく影響されるので断言はできませんが。

これはなぜかというと、アンチスクワットはタイヤのグリップ力を増す機構ではありますが、リアタイヤを路面に押し付ける力にエンジンパワーを使ってしまい、パワーをロスしてしまう機構だとも言えるからです。
少しでも多くのエンジンパワーをリアタイヤを回転させる力に使おうと考えた場合は邪魔な機構なのですね。ではリアタイヤを路面に押し付ける力はどうやって確保するかというと、コーナリングスピードを上げ、遠心力を使って押し付けることになります。これはライダーにとっては難易度が高く、高い技術を要求されることになります。最近のバイクは電子制御の発達によって乗りやすくなったなんていう意見も耳にしますが、それは低いスピードの場合です。限界近くのスピードで走らせようと思った場合は昔とは違った種類の難しさが要求される方向に進化してきています。

またアンチスクワット効果を生むためのドライブスプロケット、スイングアームピボット、ドリブンスプロケットの位置関係は、スイングアームの可動によってドライブスプロケットとドリブンスプロケットの距離が変化することにもなります。チェーンの遊びというのはこの距離の変化に対応するためのものですが、この寸法変化やアンチスクワットによるパワーロスを嫌ってスイングアームピボットとドライブスプロケットを同軸に配置した車種もありましたが、フィーリング的にライダーに受け入れられにくいようで、あまり普及はしていません。

市販されたピボット同軸モデル 左:Bimota SB2(引用元:MCS)  右:BMW G450X(引用元:Daily Motos

変わり種?片持ちスイングアー

過去にはホンダが積極的に採用していた片持ちスイングアームですが、現在では採用する車種が減少しています。片持ち最大のメリットはホイール交換の簡便さですが、片側にアームがないことを生かしてチャンバーレイアウトの自由度を向上させたNSR250Rのような車種もありました。

専用のスタンドや工具が必要になる整備性の悪さも問題でしたが、アームが片側にしかないため、たわんだり、ねじれたりした場合に左右非対称の動きをしてしまうのが難点として挙げられます。構造的に設計コンセプトの変化に対応できなくなってきたんですね。

ただし、先にお話したとおり、スイングアームはチェーンとの関係上、大きく変形させることができません。たいしてねじれやたわみによる旋回性向上が期待できないのなら、剛性向上に注力すればよい、その方向性なら片持ちでも何の問題も無い、と考えているメーカーもあります。ドゥカティやMVアグスタは現在でも片持ちスイングアームを積極的に採用していますね。

左:MVアグスタ F3 RR(引用元:MV AGUSTA JAPAN公式サイト) 右:ドゥカティ パニガーレV4 (引用元:ドゥカティ公式サイト

まとめ

スイングアームを良く見るだけで、その車両の設計コンセプトが見えてくることがあります。凄い事だと思いませんか?バイクって面白いですよね。
もちろんスイングアームだけで全てがわかるわけではありませんが、スイングアームの長さ、角度、構造などによってどんな乗り方を前提として設計された車両なのかを想像し、方向性を理解してから乗ると、より早く、上手く乗りこなすことができます。
当然上手く乗りこなせれば安全に走ることができますし、なによりも楽しく走ることができます。自分の想像と違った動きをするバイクは乗っていて楽しくないですからね。
バイクの構造を深く理解することはより楽しく走るためにもおおいに役に立ちます。
そのための第一歩として、色々な車種のスイングアームに注目し、乗り味を想像してから乗り比べてみるなんていうのも面白いと思いますよ。

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NTMworks

長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

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