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【元車両開発関係者が解説】意外と簡単?グリスの種類と使い分け方

バイク用品店や、バイク関連のネットショップなどでは様々なグリスが販売されています。正直、こんなにいろんな種類必要?と思いますよね。そもそも5-56などの浸透潤滑剤ではダメなの?とか、疑問はたくさんあると思います。今回はグリスってなに?から始まり、どんなことをする時にどのグリスを買えばいいか、といった基本的な知識をお話してみようと思います。

グリスに関する基礎知識

グリスは主に潤滑に使われるもので、半固体の、基本的には可動部分に使う油だと思ってもらってかまいません。NLGIやJISといった規格でちょう度(硬さ)が決められていますが、一般に流通しているものは2番がほとんどですので、規格にはあまり気を使わなくてもよいでしょう。

浸透潤滑剤などはオイル、液体ですので、塗布した場所から流れ出しやすいのですが、半固体のグリスは流れ出しにくく、潤滑効果が長続きするのが特徴です。
ただし長続きするとはいえ、時間が経つと成分中の液体が分離して乾燥状態となってしまうため、永久に効果が持続するものではありません。
この液体の分離は新品でも長期間放置すると起きる現象ですので、時間が経ったグリスは使用前によくかき混ぜる必要があります。チューブタイプの容器に入った製品は分離した液体だけが出てきてしまうことがあるので、別の容器に移してよくかき混ぜてから使用する必要があります。新品であればチューブ容器のほうがゴミや異物が混入しにくいので、分離し始めるまではチューブで使い、分離し始めたら別の密閉できる容器に移して使うと良いと思います。

グリスの種類とそれぞれの使用箇所

正確な使用箇所は必ずサービスマニュアルを良く読んで確認してください。結構細かく指示がありますので、読むだけでも意外と楽しめると思いますよ。

マルチパーパスグリス

色は緑、赤、薄茶色など。一番メジャーなグリスです。日本語では万能グリスと呼ばれています。他のグリスを使用しなければならない部分もありますので実際に万能ではありませんが、かなり幅広い範囲に使用できることからこの名称となっています。
成分によってリチウム系ウレア系があり、ウレア系のほうが耐熱、耐水の面で優れているとされていますが、バイクに使用する限り明確な差がでるほどの違いはありません。

強い力がかかりながら可動する箇所でも油膜を保持する能力に優れた極圧添加剤入りのものも存在し、サービスマニュアルではステムベアリング、スイングアームピボットなどに使用が指定されることが多いので指示に従いましょう。

一般のライダーはこのマルチパーパスグリスの、スプレータイプのものがお勧めです。すでにグリスが塗布されている箇所に浸透潤滑剤を使用するとグリスを洗い流してしまいますが、スプレータイプのグリスは噴射直後は液状に近い状態で浸透し、時間が経つと半固形になりますので、塗布されているグリスを洗い流すことがありません。ただし、浸透するとはいっても浸透潤滑剤ほどの浸透力はありませんし、古くなったグリスも残ったままになりますので、定期的に分解、清掃してのグリスアップは必要となります。
ロングツーリングで雨に降られ続けたりした場合、出先で動きが渋くなったレバーやペダル、スタンドの付け根などに軽く吹くだけでかなり快適になりますので、ツーリングのお供に加えると便利です。

モリブデングリス

色は黒。一般的にはマルチパーパスグリスにモリブデン成分を加えたものです。滑りが良いのが長所、流れ出しやすいのが短所です。流れ出しやすいため、一般的な整備で使うことはあまりありません。新車のエンジン組み立てやエンジンオーバーホール時に、モリブデンペースト、モリブデン溶液と共に多用されます。滑りが良いことを利用し、初期馴染みが出るまでの金属部品同士の磨耗を防ぐことが目的です。余談ですが、新車の慣らし運転が終わったあとのオイル交換時に排出させるオイルが真っ黒なのは、組み立て時に塗布された大量のモリブデン成分がエンジンオイルに混入するためです。金属粉等ではありません。

ボルト類の締め付け時に使用すると滑りの良さがねじ山の摩擦を減少させてしまい、同じトルクで締め付けてもオーバートルクになってしまうため、部品やボルトを破壊する原因となります。サービスマニュアル上で指示のある部分以外には使用しないよう注意しましょう。

締め付けトルクに関しては【元車両開発関係者が解説】サンデーメカも絶対欲しい!トルクレンチの使い方で簡単にお話しておりますので、是非ご覧ください。

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シリコングリス

色は白、赤など。樹脂やゴムに与える影響が少ないのが最大の特徴です。樹脂製やゴム製の部品、パッキン類などの取り付け時に使用します。耐熱温度の違いでラバーグリスと呼ばれるものも使用目的は同じです。

外装部品を締結するボルトのフランジ面などに使用すると部品への攻撃性を少なくできます。ゴム製のグロメットにボスをはめ込んで固定する樹脂製の外装部品などは、グロメットとボスの接触部に塗布することでボスへのストレスを減らし、部品の破損を予防するのに有効です。樹脂部品同士のはめ込み固定部にも同様の効果があります。アンダーカウルなどの外装部品を取り外して洗車することの多いライダーは一本所持していると便利です。

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カッパーグリス

色は茶褐色。銅成分が含まれたグリスです。ボルト類の焼きつき防止、ブレーキパッドの鳴き止め、スイッチ類の接点用などとして販売されていますが、使用方法に注意が必要なグリスです。バイクメーカーが新車の組み立て時にカッパーグリスを使うことはほとんど無いのがよい例でしょう。

ボルト類への塗布に関しては、商品にもよりますがマルチパーパスグリスよりも滑りが良いため、摩擦が変わって締め付けトルクに影響がでるのが問題です。モリブデングリスと同様の問題ですね。また、固着して外れなくなる部分はマルチパーパスグリスの塗布で回避できますし、エンジン関係で高温になる場所ではカッパーグリスでも乾燥してしまいますので効果がありません。
特に問題が大きいのがスパークプラグ、このねじ山に塗布すると効果があるとする情報が多いのですが、締め付け時の軸力への影響はもちろん、近年の4ストロークエンジンは燃焼温度が極めて高いため、その影響を直接受けて乾燥してしまいます。その結果、異物となってスパークプラグ取り外し時にエンジン内部に混入したり、ねじ山に残って締め付けトルクを狂わせたりと良い影響がありません。

ブレーキパッドの鳴き止めに関しては、本来は構成部品に異常な磨耗などがなければブレーキが鳴くことはありません。一部の外車などの特殊な例を除き、慣らしの済んだ新車でブレーキが鳴く車両は見たことがありませんし、そうなるように造ってあります。ブレーキが鳴く場合は消耗した部品を交換するのが正しい対応です。交換部品の供給に問題のある旧車などでは有効な手段ではありますが、あくまでも応急処置的な対応だと考えてください。
ちなみに各ブレーキメーカーは、キャリパーまわりにシール類の組み付け以外でグリス類を塗布することを極端に嫌います。万が一ブレーキパッドとディスクの接触面に飛散した場合はブレーキ性能に問題を抱え、命に関わるトラブルとなります。そのようなリスクのある使用方法であることを認識してください。
社外品のパッドやローターは組み合わせによって鳴きが発生することがありますが、これは部品同士の相性の問題なのでカッパーグリスでは解決しないことが多いパターンです。全ての状況に当てはまるわけではないので試してみる価値はありますが、過剰な期待は持たないでください。

コネクタやスイッチ類などの接点への塗布に関しては、配合された銅成分の電導性の高さにより導通不良を解消する目的があります。しかしすでに接触不良を起こしている場合は、部品を交換するまでのあくまでも一時しのぎとなります。消耗した接点が元の寸法に戻るわけではないので当然ですね。接触不良の予防としての使用は有効ですが、コネクタ等、樹脂部品へは良い影響はありませんので、目的の箇所以外に付着しないよう注意して使用する必要があります。

特殊なグリス

あまり一般的ではない特殊なグリスとしてはチキソグリスがあります。使用方法はマルチパーパスグリスと同様ですが、液体成分が分離しないために長寿命なのが特徴です。難点は高価なこと。価格がネックであまり普及していません。私個人も価格の問題で徹底的なテストができていませんので、あまり詳しくお伝えできないのが残念ですが、懐に余裕のあるかたは試してみてください。

フッ素系のグリスでベタつきの少ないものも販売されています。高い荷重には適しませんが、ゴミなどの付着に神経質にならなくてもよいため、フォークのインナーチューブやショックのダンパーロッドなどに使用できます。一般的な整備に必要なものではありませんが、サスペンションの動きこだわるライダーは使用してみてはいかがでしょうか。

まとめ

グリス類は基本的には分解、清掃、再塗布という手順が必要になる部分に使用されることが多いので、ほとんどはバイク屋さんに作業を任せることになると思います。グリスというのは基本的には油であり、タイヤ、ブレーキなど付着してはいけない部分も多いため、使用には細心の注意が必要です。個人で使用する場合は、スプレー式のマルチパーパスグリスシリコングリスがあればじゅうぶんだと思います。

正確に実験すれば違いはありますが、正直なところ商品の違いで体感できるほど明確な差は無い場合がほとんどですので、目的に応じて気に入ったブランドの商品を選べば良いと思います。自分のバイクへのこだわりって、実はこのメーカーの製品使ってるんだよね、という部分も満足度に結構大きく影響しますからね。

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NTMworks

長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

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