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立ち上がりでエンジンを使ってトラクション(グリップ)をつくろう
スポーツライディングにおいて気になるエンジンの使い方は、コーナー立ち上がりでのエンジン回転数やスロットルの開け方だろう。立ち上がりでいかにトラクション(グリップ感や安定性)をつくるかは、走りの醍醐味や気持ちよさを得る上でとても大切なファクターになる。
トラクションをつくれるようになると、コーナー立ち上がりでライダーが安心できるライン取りや意のままに操れている状態をつくり出すことが可能に。この状態でいられる時間が長いほど、バイク任せに走らせる時間は少なくなる。スロットルを開けて安定する感覚や後輪がグリップする感覚が掴めるようになると、どこからがリスクで、どこまでがマージンかも判断しやすくなる。
スロットル操作でトラクションをつくれるようになるとコーナーの立ち上がりで方向安定性=旋回力を高めることが可能。スロットルを開けて曲がれる感覚がわかるとバイクを操っている感覚が強まる。
そもそもトラクションって何? トラクションの意味を調べると、牽引力や駆動力と出るが、バイク用語としては駆動力の意味。旋回中の慣性力のみでタイヤと路面がバランスしている状態と比べ、スロットルを開けてトラクションをかけた状態は、それが直線なら直進力、旋回中なら方向安定性になる。今回はこのトラクションをいかに上手く引き出して使うか、というのがテーマ。
ゆっくり開けてもトラクションは生まれない
たとえばビッグバイクでスロットル開度を1/4 くらいのままでキープして3000~ 4000rpm で走り続けたとする。スロットル開度を一定にしてしまうと、トラクションが弱まる方向になるのはなんとなく想像できるはず。いわゆる開けても閉めてもいないパーシャルと呼ばれる状態は、バイクを不安定にしてしまうのだ。
ではどのようにするとトラクションは生まれるのだろう。簡単な実感の仕方は、Vol.1で紹介したトルクが立ち上がる回転域で、スロットルを大きく素早く開けてみること。直線部分でこれを試してみよう。ジワ〜とゆっくり開けると回転がゆっくり上がってしまうので、エンジンがついてこないくらい大きくガバッと開けるのが習得のコツ。
スロットルを開けると、安定感が増すことを感じられるはず。直線でこの感覚を掴んだらコーナーの立ち上がりなどで試してみよう。ライダーの様々な操作に対し、バイクがどのように反応するかを知ることはとても重要だ。
トラクションの意味をもっとも理解しやすいのは、上りと下りの違い。大抵の人が上りの方が安心するのは、スロットルを開けてトラクションがかかっているからだ。上りコーナーで感じている安心感を常に得られたら走りが変わるはず。
回転域は Vol.1 で紹介したトルクが立ち上がる領域を意識。ここからスロットルを2段階で大きく開ける。1段階目は微開。2段階目はかなり全開域近くまで開ける。大きく開けるなんて無理、と思いがちだがこの開け方だとエンジンがバランスするまでに時間がかかる(ついてこない)ので、こちらの方が加速区間が長く、回転の上がり方も穏やかになるのだ。
ジワ、ジワ、ジワッと開けていくとエンジンが常にバランスしているためレスポンスが鋭くなってしまう。スロットルを開ける度にエンジン回転とスピードがどんどん上がってしまい加速区間を長く取れなくなってしまうのだ。コーナー立ち上がりだとどんどん膨らんでしまう。
スロットルを上手く開けられると、安定感を感じるはず!
進入では『【ライテク上達講座#4】ブレーキは引きずる? 引きずらない?』で紹介したブレーキングを意識して、ビッグバイクなら立ち上がりでトルクが立ち上がる回転をキープできる4速か3速で進入。立ち上がりではバイクを起こすことを意識しつつ、スロットルを2段階で大きめに開けてみよう。
これで自分の意図したラインで走れたり、安心感や安定感が得られれば成功。スロットルを開けて安定する感覚がわかると、下りコーナーでもしっかり減速して開けながら立ち上がっていく走りができるようになる。
もし立ち上がりでスロッルを開けた時に回転が高くなりすぎる場合は、すぐにシフトアップしてトルクの立ち上がる回転をキープしよう。
コーナーの立ち上がりで回転が上がってしまったら、Vol.1で紹介したコツを意識して旋回中でもシフトアップ。常にトラクションの強い回転で走るコツは直線でも練習できるので意識してみよう。
スロットルは意外と待ってから開ける
コーナー立ち上がりでは少しでも早くスロットルを開けたくなるのがライダーの心情だが、じつはベテランほど待ってから(バイクの向きが変わってから)開けている。開けるタイミングよりもいかに閉めたまま我慢できるかが重要なのだ。
コーナリングの途中でパーシャルにしていると旋回力は弱まるし、加速でもトラクションが得にくい状況になってしまうのだ。なので、できる限り待ってから開けるのが強いトラクション得るコツでもある。この時に回転が高すぎるとエンジンブレーキが効き過ぎて減速しすぎてしまうので、低い回転を使うのが得策である。
立ち上がりで安心したグリップを得て、思い描くラインを通れるようになるとバイクの操っている感は飛躍的に向上する。いちばん重要なのは、ライダーが思い通りに操っている実感を得ること。これが結果的に気持ちよさと速さ、そしてバイクをコントロールしている醍醐味に直結するのだ。
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投稿者プロフィール
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1974年、東京都生まれ。18歳からバイクライフをスタート。出版社に入社後、 20年以上バイク雑誌一筋で編集者生活を送り、バイク誌の編集長を8年ほど
経験。編集人生のモットーは、「自分自身がバイクに乗り、伝える」「バイクは長く乗るほど楽しい!」。過去 には、鈴鹿4耐などの様々なイベ
ントレースにも参戦。海外のサーキットで開催される発表会に招待いただくことも 多く、現地で試乗して感じたことをダイレクトに誌面やWEBに展開してきた。
2022年、フリーランスのモーターサイクルジャーナリストとして始動。