最近ラジアルマスターってよく聞きますよね。ラジアルポンプ、ラジポンなんて言われたりもします。新型車に純正で採用されるケースも増えてきました。
ラジアルマスターはコントロール性が良い、という評価で人気ですが、本当にそんなに違うの?そもそもコントロール性って?と、色々と疑問があるライダーも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ブレーキには並々ならぬこだわりをもつ元車両開発関係者の私が、このラジアルマスターについてお話しましょう。
ラジアルマスターのしくみ
ラジアルマスター登場以前のフロントブレーキのマスターシリンダーは、横置きタイプが主流でした。というか、それしかありませんでした。
現在のバイクで一般的な油圧式ブレーキは、ブレーキレバーを操作することによりマスターシリンダー内のピストンを押し、発生した油圧によって制動力を発生させます。
ラジアルとか、横置きというのは、マスターシリンダー内部のピストン配置のことを指します。なぜラジアルは英語で横置きは日本語なのかわかりませんが、日本では一般的にこう呼ばれています。不思議ですね。
ブレーキレバーを握ると、レバーは手前に近づいてきます。それまでの横置きではこのレバーの前後の動きを、横方向に変換してピストンを押していました。それに対し、ラジアルマスターはレバーの前後の動きをそのまま縦方向のピストンの動きとして利用します。
そのため、方向を変換することによるレバーストロークに対するフィーリングの変化が少なく、これがコントロール性が良い、という評価を得る要因となっています。また、テコの原理を有効に使えることによるレバーの軽さも人気の一因となっています。
ラジアルマスター、使ってみると?
ラジアルマスターを実際に使ってみると、確かに軽い力でブレーキをかけることができます。横置きマスターとハッキリ違うのはブレーキの利き始めの堅さと、強くかける際の握り込んでからのレバーの重さです。レバーを同じ位置まで操作するのに必要な力が軽いため、細かいコントロールはしやすくなります。とはいっても、純正でラジアルマスターが採用されている車種の場合、それほど横置きマスターと極端な違いはありません。これは、横置きマスターに慣れているライダーが乗り換えても違和感を持たないようにするためです。逆に言えば、純正採用の場合はラジアルマスターの持ち味をフルに発揮できていないとも言えます。明確に違いを感じるのはサーキットでのフルブレーキ時くらいでしょう。どちらがいい、悪いではなく、本来はそれくらいフィーリングが違うものだということです。
コントロール性って必要?
ラジアルマスターのメリットはコントロール性の良さと言われていますが、公道を走る際にブレーキのコントロール性を意識することはあまり無いと思います。
ですがサーキットではブレーキのコントロール性はとても重要で、ブレーキは減速と同時に、タイヤのグリップ力を引き出すための荷重コントロールを行う装置でもあるからです。
この考え方を応用すると、公道ではより安全に走ることができます。ブレーキを使ってしっかりとタイヤを路面に押し付け、グリップ力を有効に使うことを意識すると、ただ速度を調節するだけの走り方よりもタイヤが滑りにくい状態で走ることができ、より安全にバイクに乗ることができます。こんな走り方をする際に、ブレーキのコントロール性はとても重要になります。
ただし当然、バンク角が深い状態で強くブレーキをかけると転倒につながりますので、細心の注意が必要です。
ラジアルマスターへカスタム!の場合の注意点
ラジアルマスターはカスタムパーツとしても人気です。それほど高価でもなく、変化がわかりやすい部品だからでしょう。しかし、ブレーキ関係は重要保安部品、命に直結する部品ですので、交換作業には細心の注意が必要です。良く分からないけどネットを見ながらやってみた、とかは絶対にダメな部分です。試しに乗ってみて出来ているように思えても、何度もブレーキを使用しているうちに損傷が蓄積し、いざと言う時に急ブレーキをかけたら一気に破損、全くブレーキが効かずに大事故に、なんていう例も実際にあります。交換作業はプロにお願いするのが基本だと考えてください。
横置きからラジアルに交換する場合は形状が違うため、特にカウル付きの場合は干渉して取り付けが不可能な車種もあります。また、ブレーキホースの接続位置が横置きとは違うため、ほとんどの場合はホースもセットで交換することになります。ラジアルマスター単体の価格だけでなく、ホース代や工賃も必要になりますので、事前によく確認してください。
ここで重要なのは、交換後のフィーリングが好みではない、と感じた場合、元の仕様に戻す判断も必要だということです。ラジアルマスターに交換すると確実にフィーリングは変化しますが、その変化が全てのライダーにマッチするとは限りません。フィーリングの好みは十人十色です。違和感が無いほうが、ライダーの意思に忠実に減速できて安全なのは間違いありません。せっかくお金をかけて交換したから、こっちのほうがかっこいいから、といった理由で安全を犠牲にすることがないよう、しっかり判断しましょう。
ラジアルマスターをお勧めする人、しない人
数あるカスタムパーツの中で、コンスタントな人気なのがブレーキレバーです。特に手が小さいライダーに、純正より調整範囲が広いレバーが人気ですが、この調整式のブレーキレバー、一番手前に設定すると、組み合わせるグリップラバーによっては、ブレーキをしっかりかけられなくなる物も存在します。これはレバー単体の問題ではなく、組み合わせの問題です。
一見普通に乗れるように感じられますが、実はきちんと急ブレーキがかけられない、なんていう車両も実際に見受けられます。こんな場合にはラジアルマスターに交換すると少ない力でブレーキレバーを操作でき、より安全にバイクを楽しむことができます。
手が小さいといっても全くレバーに指が届かない場合は稀だと思います。手が小さくて上手くブレーキ操作ができないという場合、実際にはレバー遠いことが問題ではなく、力が入りづらいことが問題なことがほとんどです。こんな場合にはラジアルマスターの軽い力で操作できるメリットが最大限に生かせますのでお勧めです。ただし、交換することによってどれくらいのレバーストロークと重さに変化するかを見極めるのにはノウハウが必要となります。信頼できるお店と相談しながらカスタムを進めてください。
反対にお勧めしないのは、従来の横置きマスターでの微妙なブレーキコントロールに自信のあるベテランライダーです。ブレーキレバーの操作は、どれくらいレバーを動かす、と意識して操作するものではなく、どれくらいの力でレバーを握るか、という意識でコントロールします。そこでレバー操作に必要な力が極端に変化してしまうと、自分の感覚と実際のブレーキ効力が著しくずれてしまい、危険な状態となります。
ラジアルマスターの長所であるコントロール性も、横置きマスターで繊細なコントロールができるのであれば、ラジアルに変更すればさらに繊細になるというものでもなく、ただ慣れるのに時間がかかるだけとなってしまいます。
ベテランライダーには意外とラジアルマスターを嫌うライダーも多く、純正でラジアルマスターを採用している車種でも、あえて横置きマスターに交換するケースもあります。
そんなベテランライダーにはフィーリングは横置きに近く、コントロール性はラジアルに近いセミラジアルマスターがお勧めです。ラジアルマスターのニセモノのような扱いで一般的にはあまり人気がありませんが、好みに合わせるための選択肢のひとつとして隠れたお勧めです。
まとめ
ラジアルマスターはブレーキ性能を向上させる部品ではなく、コントロール性、フィーリングを変えるための部品です。使えば性能が良くなるという部品ではないのは、発売される新型車が全てラジアルマスターを採用しているわけではないことでもおわかりいただけると思います。
ラジアルのほうが新しく開発されたのでもてはやされ、横置きは安物のような印象を与える情報も多くありますが、使用目的や車種、ライダーによっては横置きのほうが適している場合も多くあります。最新のほうが優れている、と言い切れる部品ではないことに注意が必要です。
ラジアルマスターに注目することによって、ブレーキを速度調節の道具だけではなく、荷重コントロールの道具としても意識するきっかけとなってもらえればと思います。バイクを単なる移動の道具としてではなく、コントロールすることが面白い乗り物として捉えることができるようになると、バイクに乗ることがどんどん楽しくなりますよ。
モトコネクトでは元車両開発関係者のNTMworksさんの様々なバイクに関する記事が公開されているので、ぜひチェックして見て下さい!
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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