大排気量のハイパワー車はみなリヤに太いタイヤを採用しています。そんなことから、タイヤは太ければ太いほど高性能!と思っているライダーは多いのではないでしょうか。
自分のバイクのリヤタイヤも太くしたいな、と考えるライダーもいると思います。
でも、なぜメーカーは全てのバイクを太いタイヤで売り出さないのでしょう?そんな疑問にお答えするため、今回は車種によってタイヤの太さが違う理由を、リヤタイヤをメインにお話してみましょう。
工学的な理由を全て説明すると膨大な量となってしまいますので、語られることが少ない部分に絞って解説していきたいと思います。
前後でタイヤの太さが違う理由
バイクの前後タイヤは小排気量車を除き、前が細く、後ろが太いのが普通です。そして排気量が大きく、パワーが大きくなるほど前後の太さの差が大きくなります。これはなぜなのでしょうか。まずは、太いリヤタイヤと細いリヤタイヤ、上から見たときのフルバンク状態での車体の角度を見てみましょう。
太いリヤタイヤを装着した車体のほうが、自然と大きく内側を向くことがわかります。
上から見て車体が内側を向くということはタイヤ自体も内側に大きく角度がつくことになり、リヤタイヤが発生するコーナリングフォースはよりコーナー内側へ向くこととなります。そのため細いリヤタイヤより大きな旋回性を発揮することとなります。コーナリングフォースに関しては【元車両開発関係者が解説】バイクは傾けたら傾けただけ曲がるのか?で簡単に解説していますので読んでみてください。
ただしこれはフルバンクの状態でのお話です。公道を制限速度で走る程度のバンク角ではそれほど大きな恩恵を感じることはありませんが、リヤタイヤが太くなると旋回性が高くなるのは間違いありません。こんなメリットのある太いリヤタイヤですが、使いこなすにはいろいろ条件があります。
リヤタイヤは太いほうが高性能?
バイクはコーナリングの際には車体を傾けます。車体を傾ける目的、傾けることによって発生する現象はいろいろあるのですが、遠心力との釣り合いを取るのも大きな目的です。
バイクは遠心力が発生していない状態では車体を大きく傾けることはできません。倒れてしまいますよね。しかし遠心力が大きい状態であれば車体を大きく傾けてもバランスがとれます。そして遠心力というのはスピードが速ければ速いほど、車重が重ければ重いほど大きくなりますので、必然的に傾ける角度が大きくなります。
この状況になってはじめて、リヤタイヤが太いほど旋回性が高くなるという点を有効に生かすことができるようになります。逆に言うと、スピードが遅い、車重が軽い車種では、太いリヤタイヤのメリットを生かすことができません。これが車種によってタイヤの太さに違いがあるひとつの理由です。
今度は、太いタイヤと細いタイヤ、断面図でフルバンクまでの接地点の移動距離を見てみましょう。
太いタイヤのほうが移動距離が長くなることがわかります。同じバンク角まで持っていくのに長い距離を移動させなければならないということはより多くの時間が必要となるということで、これを細いタイヤと同じ時間でこなそうとすると余計なエネルギーが必要となります。ライダーの感覚としては寝かしこむのが重い、という感覚となります。
そこで車重の重さを逆手にとり、車体を傾けるのに必要となる余計なエネルギーを、重い車重を利用することによって生み出しているのが大排気量のハイパワー車です。
軽い車体でリヤタイヤを太くしてしまうと、車体を傾けるためのエネルギーが少ないために遠心力と釣り合いがとれるバンク角に持って行くのが難しく、結果的に旋回速度を上げづらい車両になってしまいます。
つまり、リヤタイヤが太いから高性能なわけではなく、重い車体だから太いタイヤを有効に活用することができるのです。
また寝かしこむのが重いという感覚は、安定性があると捉えることもできます。性能的な面とは別に、アメリカンなどでは安定感のあるフィーリングを作り出すためにリヤタイヤを太く設定されていることもあります。
タイヤの特性を決める要素
タイヤには様々なサイズ、種類があり、車種によって、さらに前後によって使い分けられています。これはタイヤによって耐えられる荷重に違いがあることもありますが、それぞれ特性が違うことが膨大な種類が存在する理由です。タイヤの特性を決める要素はいろいろありますが、今回はサイズとプロファイルに関して簡単に説明します。
タイヤのサイズは一般的に表記される太さ、扁平率、内径の他に、外径も重要な要素なのですが、結構見落とされがちです。基本的には内径、幅、扁平率でおおまかな外径は決まりますが、タイヤの銘柄によって多少の違いがあり、これが乗り味に影響してきます。車高や前後の車体姿勢が変わり、荷重配分やディメンションに影響を与えるためです。
また、プロファイル(断面形状)の違いもフィーリングに大きく影響します。直進からの曲がり始めや曲がり始めてからの旋回性、動きの軽さ、重さなど、様々な特性のタイヤがありますが、ここにはプロファイルの影響が大きく表れます。
他にも構造やコンパウンドの違いなどにより、同じサイズ表記のタイヤでも銘柄によって乗り味が違うのがタイヤの難しいところであり、面白いところでもあります。
タイヤ交換!タイヤを太くするとどうなる?
難しい理屈よりも太いタイヤに交換してかっこよくしたい、という場合はどうなるのでしょう。リヤタイヤの交換で解説してみましょう。
まずはタイヤメーカーのホームページを確認し、タイヤごとに指定されている適正リム幅、許容リム幅を確認します。その範囲から外れないよう注意して使用するタイヤを選択してください。
ホイールが純正のままでタイヤ幅を太くする場合、適正な幅のリムと組み合わせた場合とはプロファイルが異なる状態となります。このことにより、バンクさせていくときの重さや旋回性がバイクメーカーの想定した状態と変化してしまいます。さらに外径の変化にも注意が必要です。幅だけ太くなり、外径が全く変化しないサイズというのはほとんど存在しませんので、車体姿勢の違いによる特性の変化も同時に起こります。これらの変化を予測し、純正とは違う乗り味を作り出したい場合にはサイズ変更は有効な手段ですが、単に見た目だけを求めて変更すると乗りにくくなることが多いので注意が必要です。
また、無理に太いタイヤを装着した場合はサイドウォールが不自然な形状に変形することがあるため、一見迫力のある見た目になったようでも、見る人が見れば問題のある状態であることは一目でわかってしまいます。
ではそんな問題を回避するため、ホイールごと換装し、リム幅も同時に変更する場合はどうでしょうか。こちらはプロファイル的には問題は起こりません。しかし、太くなったタイヤ幅を使いこなすことができるかは別問題、車重やディメンションの関係で、動きが重くなるだけで特に性能的に向上することが無い場合のほうが多いです。ホイール、タイヤ共にサイズが大きくなれば重量も増えるのもデメリットですね。
ちなみに車重が軽くてリヤタイヤが太いと全ての車種が寝かしこむのが重いというわけではありません。重量配分やディメンションなどで上手くカバーしている例もあります。
少し古い車種になりますが、ホンダのホーネットは250ccにもかかわらず、180サイズのリヤタイヤを装備していました。理由は見た目がかっこいいから、だそうです。当時の250ccクラスの標準的なリヤタイヤが140サイズでしたので、極端にリヤタイヤが幅広な設定でした。しかし特に癖のある乗り味でもなく、言われてみれば多少切り返しが重いかな、くらいでした。もちろん違和感を感じさせない開発陣の努力があってこそですが、タイヤの太さだけで乗り味や性能を判断できるものではないという一例です。
まとめ
今回は主にリヤタイヤの太さについてのお話させていただきました。フロントタイヤの場合は操舵機能もありますのでさらに複雑な話になり、太さが変わることによる影響はより大きくなります。基本的にはフロントタイヤを太くした場合、接地点の移動距離が長くなることによって舵角が付きにくく、曲がりにくい車両になることが多いと思ってください。
実際にはタイヤの太さを決定する要素、太さが変わることによる影響はもっと多岐に渡ります。それらを全て把握するのはかなり難易度が高いですので、むやみにサイズ変更することはおすすめしません。
とは言っても実際には純正指定タイヤでも新品タイヤと交換直前の使いこんだタイヤではかなり乗り味は違いますので、あまり神経質になるのもどうかと思います。
良くなることは少ないとはいえ、危険なほど特性が変わることは少ないのも事実ですので、多少のサイズ変更は個人の好みで問題ないと思います。
太いタイヤは迫力があってカッコイイのですが、細いタイヤの持つ寝かしこみや切り替えしの軽快感は太いタイヤでは味わえない気持ちよさがあります。太いタイヤには太いタイヤの、細いタイヤには細いタイヤの魅力がありますので、それぞれの魅力を把握した上で、あとは見た目の好み、乗り味の好みで車種を選んだり、装着するタイヤのサイズを選んだりすると満足度の高いバイクライフが送れるのではないでしょうか。
モトコネクトでは元車両開発関係者のNTMworksさんの様々なバイクに関する記事が公開されているので、ぜひチェックして見て下さい!
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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