今回はちょっと趣向を変えて、私の個人的な好みのお話です。
皆さんそれぞれ憧れの一台とか、いつかは欲しい一台というのがあると思います。現実的にその一台に手を出さない理由には金銭的な問題や、部品供給の問題、航続距離や乗りやすさなど、いろいろな理由があると思います。実際に乗ることを考えたら足つきや取り回しの問題なんかも重要になりますよね。
今回は私がそれらの制約を全て取り払ったらどんな車両が欲しいか?という理想のお話をしてみようと思います。既に複数台気に入った車両を所有していますのでそれらは除いた車種になりますが、ちょっと面白い(変な?)セレクトになっていると思いますのでご紹介してみたいと思います。
難しい理屈抜きの夢物語ですので肩の力を抜いてお楽しみください。
見た目とのギャップが魅力!中身はこだわり満載
まず1台目、ホンダ VFR1200Fです。
既に販売が終了していますが、少し前のホンダのフラッグシップツアラーです。大人な落ち着きのある外観といえば聞こえがいいですが、はっきり言って見た目は地味(失礼)です。しかしこの車両の魅力は独創的にもほどがあるエンジン。
76°のシリンダーバンク角に26°位相の360°クランクを組み合わせという見たこともないエンジンとなっています。これだけでも「そこまでやる必要ある?」と言いたくなりますが、極めつけはシリンダーレイアウト。通常のV4とシリンダー配置を変更することにより、ライダーの居住性を向上させています。
しかもバルブ駆動はユニカム方式、こんなヘンテコな(褒め言葉です)エンジン見たことないです。車両自体もスロットルバイワイヤやマイナーチェンジで投入されたDCTなど、外観からは想像できない超こだわりの技術が満載です。同じエンジンを採用したアドベンチャーモデルのVFR1200Xもありましたが、1200Fのほうが外観とのギャップが激しく意外性がありますね。
造り手のこだわりが伝わってくる車種は出来の良し悪しを別として魅力的に見えるものですが、知らなければそれが全く感じられない外観というのがちょっと面白くて好きなバイクです。
技術的な特徴はここではちょっと書ききれないくらいすごいことになっていますので、公式ページでチェックしてみることをおすすめします。
乗って楽しい!これ大事!
2台目はドゥカティ 900MHRです。
販売されていた当時はデカくてうるさいバイク、という印象しかありませんでしたが、乗ってみて印象を覆されました。
多数のロッカーアームが存在することによって整備性が悪く、慣性重量の面で不利なデスモドロミック、シリンダーの熱膨張の影響でバックラッシュも歯当たりも変化してしまうカムシャフトのベベルギア駆動、走行風の当たり方の違いから温度差が大きく、前後シリンダーの燃焼状態の差が大きくなってしまう空冷Lツインなど、メカニズム的にはなんの魅力も無い(個人の好みです)、できれば避けて通りたい車種だと思っていたのですが、いざ乗ってみると抜群に楽しいんです。
右手がエンジンと直結したような、そのエンジンはリヤタイヤと直結しているような感覚、操っている実感の大きさからくる何とも言えない高揚感は他では味わえない感覚です。こういった乗り味の演出、イタリア人は上手ですね。バイクの面白さはメカニズムだけでは決まらない、ということを強く印象づけられた一台です。
今となっては部品の確保が難しくなってきていますし、独特の構造を的確に扱えるメカニックも減ってきているのが残念なところです。自分では触りたくないエンジンですからね。
伝説の直系
そしてもう一台はビューエル RR1000です。
個人的にビューエルは大好きなメーカー、エンジニアのエリック・ビューエルは天才だと思っています。経営者としては今一歩だったみたいですけどね。メーカーは無くなってしまいましたが、どこかでまた独創的な手腕を発揮してほしいと願っています。
デイトナBOTTクラスで圧倒的有利だと思われていたドゥカティを大逆転の末打ち破ったハーレーダビットソンのワークスレーサーXR-TT、通称ルシファーズハンマーの後継機、ルシファーズハンマーIIはこのビューエルRR1000がベースだと言われています。残念ながらルシファーズハンマーIIはあまり結果に恵まれませんでしたが、当時最新鋭のドゥカティを追い詰めた4速ミッションのOHV、その車両ほぼそのものに乗ることができるというのは、ヒストリーを知るライダーにとってはたまらないと思います。
ただし、それだけの実力があるバイクなのに、なんでこんな外装(失礼)で市販したのかというのは大いに謎です。もうちょっとなんとかならなかったのかと思いますが、これはこれできっと造り手のこだわりがあったのでしょう。
販売台数は50台とも47台とも言われています。どちらにしても現在は入手がかなり難しい車両ですね。
これぞ走る芸術品!
さらにもう1台、ビモータHB1です。
ヨーロッパには過去から現在にかけて、フレームビルダーと言われる会社が多く存在します。マーニ、リックマン、モトマーチンなど完成車も手がけるメーカー、ハリス、スポンドンなどフレーム製作をメインとしているメーカーなど形態は様々ですが、なかでもビモータは知名度的にはトップのメーカーでしょう。そのビモータの第1号車がホンダCB750 Fourのエンジンを使用したHB1です。
生産台数は完成車10台、フレームキット9台程度と言われていますが定かではありません。レプリカ外装を装着した車両をよく見かけますが、この車両の魅力は外装ではなくオリジナルのフレームです。
このフレームの魅力はなんといっても美しいフレームワークです。タンク下から下方に伸びる独特のパイプレイアウトも見所ですが、エンジン前側のハンガーパイプとエンジンのあいだ、その隙間の狭さにうっとりです。これどうやってエンジン降ろすんでしょう。そーっと横にずらすんでしょうか。傷つけそうで考えるだけでドキドキしますね。
ベースとなったCB750Fourの堂々としたフォルムも魅力的ですが、ベース車からは想像できないくらい無駄を排し、ぎゅっと凝縮された佇まいにはなんとも言えない美しさを感じます。
ガレージに飾って眺めながらコーヒーを飲むだけで至福の時を味わえそうですが、生産台数を考えると現実に手に入れるのは難しいですね。
コンセプトに共感!これこそ理想
これは一時期本気で探していた一台、ヘスケス ヴォルタンです。
国内では見たことがありませんし、海外マーケットでも売りにでているのを見たのは数回です。造られたのは1台のみという説もありますが、結局何台造られたのか定かではありません。現在はあきらめて第二候補だった車種がガレージに納まっていますが、売り物の情報があったら飛びついてしまうかも。
自らのチームを率いて四輪のF1に参戦したこともあるイギリスの大富豪、ヘスケス卿が趣味で造ったバイクです。
長年バイクメーカーの内側を見続けていると、どんなに面白そうな車種だったとしても、こんなのを造ればこれぐらいの台数売れるだろう、という商売的な目論見が存在するのがどうにも気になってきます。
メーカーは商売でバイクを造って売っているので当然のことですし、だからこそきちんとした補修部品の供給体制などが整えられているということは理解しています。でも、自分が純粋に趣味で欲しい、乗りたいと思った車種が、こんなの造れば買うヤツいるから儲かるだろう、という理由で販売された車両だと思うとテンション下がっちゃうんですよね。少し極端な表現ですけれど、市販車にはそういった側面が必ずあるのは事実です。
対してこのヘスケスは、こんなの欲しいから造ってみたよ、欲しいんだったら同じの造ってあげる、という趣味丸出しです。特にかっこいいわけでも速いわけでもありませんが、その生い立ちが私にとっては理想の一台です。
商売よりも自分達が造りたいものを造ることを優先する、という方向性はビューエルもビモータも似ていますね。どのメーカーも経営が傾いたり消滅してしまったりしていますが、それもある意味当然かもしれません。儲からないことばかりやっているんですからね。
造りたいバイクを造ることと、商売として会社を存続させることのバランスはバイクメーカーにとって永遠の課題なのかもしれません。
まとめ
今回挙げたバイク達、メカニズム、乗り味、ヒストリー、スタイル、コンセプトと魅力を感じる部分は様々です。自分好みにいじくり回せるカスタムベース、なんていうのもそのバイクに魅力を感じるポイントになったりします。共通しているのはその車種自体に魅力があるということ。バイクを紹介しているんだから当たり前だと思われるかもしれませんが、この車種に乗りたいから、という理由以外でバイクに乗るライダーも意外と多く見受けられます。極端に言えば車種はなんでもいい、というタイプのライダー。
バイクの楽しみかたは人それぞれですので否定する気は全くありませんが、長年たくさんのライダーを見てきた結果、そういうタイプのライダーのほうが気が付くとバイクに乗らなくなっている割合が高いと感じています。全てではないですけどね。
バイクに乗っている自分が好きとか、バイクは便利な移動の道具といった理由の場合、冷静に考えるとバイクじゃなくてもよくない?となるのでしょう。
せっかく興味を持って乗り始めたのなら、多くのライダーが長く楽しんでくれたらいいな、と思います。長く乗り続けないと味わえない楽しさもたくさんありますからね。
自分の愛車はどんなところが自分にとって魅力なのか、今一度見直してみるのも新たな発見があって楽しいかもしれませんよ。
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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