現在市販されているバイクはずいぶん前からチェーン駆動が多数派でしたが、最近はさらに他の駆動方式、ベルト駆動やシャフト駆動が減ってきているように感じます。
なぜチェーン駆動が多数派なのか?ベルト駆動やシャフト駆動は消えて行く運命なのか?今回はバイクの駆動方式について、それぞれの特徴と、少しだけ造り手目線でのお話をしてみたいと思います。
駆動方式ってなんのこと?
簡単に言うと、エンジンから離れた位置にあるリヤホイールへどういう方法で動力を伝えるかということです。エンジン/トランスミッッションに直接リヤホイールを取り付けてしまえば考えなくてよい問題ですが、リヤサスペンションの設計の自由度が少なくなってしまったり、重量バランスがよろしくなくなったりといろいろと弊害が発生します。出来る限り構造を簡素化したいスクーターでは一般的な構造ですが、性能的な優位性はありません。
性能面を考えてエンジンとリヤホイールをそれぞれ最適なところに配置しようとすると、動力を伝達する駆動系と言われる装置が必要となります。
現在のバイクの駆動系にはほぼ全てチェーン駆動、ベルト駆動、シャフト駆動のいずれかが採用されています。それぞれの駆動方式の特徴を少しだけ掘り下げてお話してみましょう。
現在の主流はチェーン駆動
現在バイクの駆動方式はチェーンが主流ですが、それはなんといってもチェーン自体の進化が影響しています。70年代、80年代のチェーンと比較すると劇的と言っていいほどの進化です。昔のチェーンは今から考えるとそれはひどいもので、耐久レースでは磨耗して伸びてしまいレース中にチェーン交換なんていうこともありました。現在の耐久レースでは無交換は当然、チェーン関連のトラブルはほとんど目にすることが無くなりました。
昔は磨耗を防ぐため、とにかくべったり塗らなければならなかったチェーンオイルも、現在のレース車両では条件次第では塗らなくても良い、むしろ塗らないほうが良い場合もあるくらいです。それくらい磨耗に対して強くなっています。
市販車の場合は現在でもチェーンへの注油はバイクメーカーもチェーンメーカーも必ず定期的に行うよう指示していますし、注油しなくてもよい条件というのは素人が判断するのは難しいですから一般のライダーはきちんとチェーンへの給油を欠かさないようにしなければならないですけどね。
これだけチェーンが進化したのはなんといってもレースで鍛えられたことが大きな理由です。スプロケットの交換で減速比を変更できるところはレースの現場では大きなメリットですからレース車両にはチェーン駆動が好まれます。ベルト駆動もプーリー交換で減速比を変更することはできますが、チェーンに比べると、というところは次の項目で解説しましょう。
独特な世界、ベルト駆動
ちょっとマイナーなベルト駆動ではありますが、絶滅することなく常にどこかのメーカーが採用し続けています。現在ではハーレーダビッドソンやインディアンがベルト駆動を主力としていますね。
ベルト駆動で用いられるコッグドベルトとプーリーの組み合わせは、チェーンとスプロケットに比べるとどうしてもかみ合わせが浅いというか、弱いという弱点があります。急加速時などスイングアームの動きと駆動力がかかるタイミング次第ではコマ飛びが起こりやすいため、これがレースで使用されることが少ない原因となっています。採用される車種は比較的おとなしく走ることが前提の車種が多い印象ですね。
しかし滑らかな乗り味という点ではベルト駆動は他の駆動方式より明らかに優れています。金属同士が接触して力を伝えるチェーン駆動やシャフト駆動と違い、ゴムでできたベルトを介することによりなんともまろやかな力の伝わり方となります。チェーン駆動やシャフト駆動にも衝撃を吸収するためにゴム製のハブダンパーは内臓されていますが、乗り比べるとそのフィーリングは独特です。エンジンの鼓動感をよりクリアに感じたいハーレーダビッドソンやインディアンが好んで採用するのもうなずけます。
ベルト駆動はメンテナンスフリーという印象があり、実際に現在採用されているドライブベルトは車両の寿命を上回る耐久性を持つほど強靭な物も少なくありませんが、完全なメンテナンスフリーというわけではありません。
ベルトやプーリーに埃や砂などが付いた状態で走るとギシギシ、キュルキュルと嫌な音をたてますので、まめな清掃は欠かせません。普段が極めて静かなだけに変な音が出ているとすごく気になるんですよね。
しかし、車種によってはベルトに大きなカバーが取り付けられており、清掃に手間がかかることも多くなっています。その大きなカバー、いかに強靭に進化したベルトといえども運悪くとがった大きめの石などをプーリーとの間に噛み込むとベルトが裂けてしまうことがあるため、その防止策として取り付けられています。むやみに取り外すとベルト切れのリスクが増加する、取り付けたままでは清掃が困難と、扱いがけっこう悩ましい部品なんです。これさえ無ければまめな清掃もそれほど面倒ではないんですけどね。
意外と普段のメンテナンスに手間がかかるところもベルト駆動のデメリットでしょう。
メンテ不用?じつは結構気難しいシャフト駆動
少し前まではツアラーといえばシャフト駆動というイメージでしたが、最近はBMWやモトグッチなど、シャフト駆動を得意とするメーカー以外ではめっきり採用する車種が減少しています。
昔はシャフト駆動といえば発進時にリアサスが伸び上がり、車体のお尻が持ち上がるような独特な挙動が大きくでる車種が多かったのですが、現在では技術の進歩によってかなり違和感の無い車種が増えています。クセの強い車種もまだまだありますけどね。
元々チェーンよりも耐久性に優れるという理由で採用されることが多かったのですが、耐久性に関してもチェーンが劇的に進化した結果、シャフト駆動のメリットがあまり目立たないというのが現在の状況です。
ファイナルギアオイルさえ交換しておけばメンテナンスフリーという利点も、多少注油をサボっても走行中に突然切れるようなことがあまり無くなった現在のチェーンに対してはアドバンテージが少ないと言えます。
とはいっても清掃や給油といった作業が完全に必要無いことはシャフト駆動の利点ではあり、回転部分がカバーされていることにより異物の噛み込みの心配をしなくてもよい点も大きなメリットです。
現在メーカーのラインナップから減少しつつあるシャフト駆動ですが、その一因には開発コストが高いという問題もあります。
バイクメーカーとしては悪い言い方をすればチェーンメーカー、スプロケットメーカーに駆動系の開発の大部分を丸投げすることで車両の開発費を抑えることができるチェーン駆動に対し、シャフト駆動は全ての部品をバイクメーカーが開発しなければなりませんし、せっかく開発した構成部品はあまり他機種への流用がききません。構成部品の在庫管理にかかるコストが馬鹿にならない点もバイクメーカーにとってはデメリットです。
これは車種専用に近い開発になってしまうベルト駆動も同じですが、コストの面ではチェーン駆動にはどうやってもかなわないのが現実です。開発コストが上昇したからといって車両価格を極端に上げることは現実的に難しいですから、そりゃあバイクメーカーは嫌がりますよね。
また、壊れにくいとはいえ機械ですから故障する可能性がゼロではありません。万が一、大規模な修理が必要になった際のシャフト駆動独自の作業、特にピニオンギヤとリングギヤの歯当たり・バックラッシュ調整はシャフト駆動に強い一部のお店を除き、得意とするメカニックが少ないのも難点です。メンテナンスフリーなことが逆に災いしてバイク屋さんといえども頻繁に行う作業ではないからですね。
大きなトラブルを抱えた際の修理や部品供給などがチェーン駆動と比較して不利なこともシャフト駆動のデメリットでしょう。
まとめ
最近はチェーンの性能向上が著しいのでチェーン駆動のバイクを選ぶのが一番無難ではあります。しかし、数は減ってもベルト駆動やシャフト駆動が絶滅していないのは乗り味やメンテナンス性など、独自の世界が確実に存在する証拠です。
合う、合わないは人によりますのでこの駆動方式がおすすめ!というものはありませんが、駆動方式によって乗り味やメンテナンス性に確実に違いがありますので、もしかしたら自分にはこの駆動方式がドンピシャ!という場合もあるかもしれません。
現在のベルト駆動やシャフト駆動はちょっと試乗したくらいでは違和感無く、逆に言うと特徴がわかりづらい車種も多くなっていますので、それぞれの特徴を味わうには所有してある程度の距離を走ってみることをおすすめします。
駆動方式に注目しながら次に購入する車種を選ぶのも面白いかもしれませんね。
投稿者プロフィール
-
長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
最新の投稿
- コラム2024年7月3日【元車両開発関係者が解説】新しいバイクが出来るまで バイクの製造工程を紹介(前編)
- コラム2023年12月26日【元車両開発関係者が解説】わかれば簡単!?ダンパー迷宮攻略法!
- コラム2023年10月1日【元車両開発関係者が解説】チェーン!ベルト?シャフト!?バイクの駆動方式の謎を解説します
- コラム2023年8月1日【元車両開発関係者が解説】納車ってなに?よくわかる「納車警察」撃退法!