バイクは、その車体の小ささと機動性から、自動車の中で唯一物理的に『すり抜け行為』が可能です。
バイクに乗っていると、肯定的な意見も否定的な意見も様々な声が耳に入ります。
ドライバーの声
- バイクは渋滞しててもすり抜けてスイスイ走れるからいいよね!
- あのすり抜けバイクイラつくな!Twitterにさらしてやろう!
- クルマの後ろをチンタラ走っているバイク邪魔だな、さっさとすり抜けて前に出ろよ!
- すり抜けは違法だろう!おまわりさんちゃんと取り締まってよ!
様々な声が聞こえてきますが実際のところ、法律上はどのような扱いなのか皆さんは御存じですか?
結論から言えば、法律上『すりぬけ』という行為は禁止されていませんし、『すり抜け』という名称自体が出てきません。
では、どうしてこんなにも様々な意見が飛び交っているのでしょうか?今回は、バイクの『すりぬけ行為』について考えていきたいと思います。
『すり抜け』とは?
『すり抜け』の定義を確認するためには、まず『追い越し』と『追い抜き』について確認しなければいけません。
道路交通法第一章 第二条
二十一 追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。
引用元:e-GOV 法令検索
道路交通法によれば『追い越し』はこのように定義されています。
進路変更をして前車の側方を通り、かつ前車の前方に出る行為が『追越し』です。
しかし、『追い抜き』『すり抜け』に関しては記載がありません。
一般的には、進路変更をしないで前車の側方を通り、前車の前に出る行為を『追抜き』、信号待ちや渋滞などで停車している車両の側方を通過する行為を『すり抜け』と呼んでいます。
追越しと追抜き
【道路交通法第三章 第四節 追越し等】によって追越しの方法や禁止事項は細かく規定されています。
法律で用いられている文章はわかりにくいため、『すり抜け行為』の是非について検証するのに必要な部分を噛み砕いてわかり易い表現に直してみましょう。
【道路交通法第三章 第四節 追越し等】
- 進路変更の禁止
車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
2.車両は、後方から進行してくる車両等の進行を妨げるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。 - 他の車両に追いつかれた車両の義務
車両は、速度が早い車両に追いつかれたときは、その車両に追い越されるまで速度を増してはならない。
2.車両は、速度が早い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間に追い越しをされるのに十分な余地がないときは、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない。 - 追越しの方法
車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その前車の右側を通行しなければならない。
2.前車が道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、その左側を通行しなければならない。 - 追越しを禁止する場合
後車は、前車が他の自動車又はトロリーバスを追い越そうとしているときは、追い越しを始めてはならない。 - 追越しを禁止する場所
車両は、道路標識等により追い越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
一、道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾配の急な下り坂
二、トンネル(車両通行帯の設けられていないところ。)
三、交差点、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分 - 割込み等の禁止
車両は、停止、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。
参考:e-GOV 法令検索
以上が『追越し』に関する条文です。同じ状況で、車線変更を伴わないものを『追抜き』と呼びます。
取締りを受ける『すり抜け』方法
【道路交通法第三章 第四節 追越し等】を踏まえて、取り締まりを受ける可能性のあるすり抜け方法を考えていきましょう。
進路変更の禁止
- 車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
- 車両は、後方から進行してくる車両等の進行を妨げるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。
とあるように、クルマとクルマの間を縫うように車線をまたぎながらすり抜けていくのは『みだりな進路変更』にあたります。そもそも走行中のクルマの間をすり抜けていくのは危険なので絶対にやめましょう。
また、後続車両にブレーキを踏ませたり、車線変更を余儀なくさせるようなタイミングでのすり抜けは進路変更の禁止違反に問われる可能性があるので後続車との車間距離には十分注意してください。
追越しの方法
- 車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その前車の右側を通行しなければならない。
- 前車が右折待ちなどで道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、その左側を通行しなければならない。
追越をするときには、前車の右側から追い越すことが基本ですが、前車が道路の中央より右側によって走っている場合には左側から追越さなくてはなりません。
ここがグレーゾーンなところで、クルマが道路の中央を走行している場合右折待ちの時を除いてバイクであれば右からも左からも追い越し及び追抜きが可能です。
取り締まりを行っている警察官や、その時の状況によって追越しの方法で違反していると指摘される可能性があります。
追い越しを禁止する場合
- 後車は、前車が他の自動車又はトロリーバスを追い越そうとしているときは、追い越しを始めてはならない。
とあるように、前車がさらに前のクルマを追い越そうとしている場合(具体的にはウィンカーを出したり追い越しを開始している場合)には追い越しを開始してはいけません。
道路に十分な余裕があり、自分のほうが早く通過できるとしても先に前車に追い越しをさせましょう。
ただし、バイク側に進路変更の必要がなく、そのまま直進して追抜きが可能な場合には、クルマ側のほうが後続車(バイク)の進行を妨げるため、追い越しを始めてはいけません。
追い越しを禁止する場所
- 車両は、道路標識等により追い越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
一、道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾配の急な下り坂
二、トンネル(車両通行帯の設けられていないところ。)
三、交差点、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
上の画像のように、黄色の実線及び標識のある場所では、『追い越しのための右側車線はみ出し禁止』です。主に交差点付近やカーブの多い道に設置されています。
右側車線にはみ出さない『追抜き』であれば可能ですが、道幅の狭いところが多いので無理に追い抜くのは危険です。
また、下図のように標識に別途『追い越し禁止』という補助標識があれば追抜きを含む追い越し行為全般が禁止になるので標識の見落としには注意してください。
それ以外にも、以下の場所では軽車両を除く車両の追い越し行為が禁止されています。
追い越し禁止の場所
- 道路のまがりかど附近
- 上り坂の頂上附近
- 勾配の急な下り坂
- 車線の引かれていないトンネル内、
- 交差点、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
これらの場所では、見通しが悪く対向車が見えなかったり、急に歩行者や自転車が飛び出してくる可能性があるので追い越しが禁止されています。
自転車等の軽車両は追い越し可能ですが、原動機付自転車も追い越してはいけないので注意してください。
割り込み等の禁止
- 車両は、停止、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。
信号待ちなどで停車している車両や停車するために徐行している車両の側方をすり抜けていくこと自体は違法ではありません。
しかし、途中で車列の中に割り込んだり、車の前を横切って車線の反対側に出たりすると割り込み等の禁止に違反します。
また、停止線を超えたら信号無視になりますので停止線より手前で止まるようにしてください。
ここに注意
歩道のない道路境界線の外側は『路肩』で二輪車の通行は可能(四輪車等は通行禁止)ですが、歩道がない場合は歩行者や軽車両が通行する『路側帯』になるので二輪車も通行できません。
ラインからはみ出さないように通行しましょう。
他の車両に追いつかれた車両の義務
- 車両は、速度が早い車両に追いつかれたときは、その車両に追い越されるまで速度を増してはならない。
- 車両は、速度が早い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間に追い越しをされるのに十分な余地がないときは、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない。
ここまでは、バイクのすり抜けについてのみフォーカスしてきましたが、実際にはクルマ側にも(バイクも含みますが)後続車に追いつかれた際の義務があります。
たまにバイクに追い抜かれるのが気に食わないのかバイクの進路を塞ぐように幅寄せしてくる車両がありますが、条文にある通り後続車に追いつかれたときは、追越されるまで速度を上げてはいけません。
また、できるだけ道路の左側によって後続車に進路を譲る義務があります。走行中にはサイドミラーやルームミラーをよく確認し、後続車の進路妨害をしないように気をつけてください。
結論:すり抜けをするなら違反の無いように!
以上、『すり抜け行為』の是非について考えてきました。
結論
『すり抜け行為』自体は違法ではない。
しかし、すり抜けをするに伴って違反してしまう項目が多くあるので注意が必要。
またグレーゾーンな部分も多く、取り締まる警察官によって解釈が違い、検挙される可能性もある。
よって、むやみな『すり抜け』は避けたほうが無難。
なんとも煮え切らない結論になってしまいましたが、道路交通法を紐解いていくと曖昧な表現も多く、そもそも『追抜き』『すり抜け』といった行為自体が定義づけされていないので致し方ないといったところでしょうか。
実際、大阪府警察では現在『二輪車”すり抜け運転”ストップ運動実施中!!~やめよう バイクのすり抜け運転~』ということで、二輪車のすり抜け割り込みの取締りを強化しているようです。
道路交通法第32条(割り込み等の禁止)
- 罰金:5万円以下の罰金
- 反則金
二輪車:6,000円
原付:5,000円 - 点数:1点
実際、『すり抜け』自体は合法とはいえ、違法行為を全くしないで実行するのはかなりハードルが高いです。
『すり抜け』はしても割り込まない、横切らない、停止線を超えないなど交通違反に注意して自己責任で実行するようにお願い致します。
モトコネクトでは他にもバイクのルールに関する記事が公開されているので、ぜひチェックして見て下さい!
投稿者プロフィール
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バイクやキャンプなどのジャンルを専門にライターをしているえもと申します。
モトコネクト立ち上げからライターをさせていただき2022年12月に会社を退職。合同会社Cap.Nemoを設立しました!
バイクの楽しさや便利グッズなどをわかりやすくお伝えしていきます。
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