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【元車両開発関係者が解説】新車のサス設定は二人乗り用?サスのスプリングの話

現在ほとんどのバイクには前後にサスペンションが取り付けられていますが、中にはいくらなんでもこれは硬すぎない?という車種も存在します。バイクのサスの硬さはどんな理由で決められているのか、好みに合わない場合は改善できるのかなど、サスペンションの構成部品の中から今回はスプリングを中心にお話してみようと思います。

バイクはどれくらいの体重を前提に設計されている

全てのメーカーの内部基準を把握しているわけではありませんが、おおよそ体重75kg前後のライダーを想定している場合が多くなっています。これは人間単体ではなくバイクに乗れる状態、ヘルメットなどの装備を全て含んだ数値です。そして2人乗りが可能なバイクは75kg2人分、その状態で荷物の積載が可能な車種は荷物の重量まで加えた状態で走って不具合が出ないように設計されています。
つまり積載重量が60kgの場合はライダーを含めて75kg×2+60kg=210kgの重量が載せられる前提で設計されていることになります。
しかもその重量を載せて高速で段差などを通過してもサスペンションが底付きしてコントロール不能にならないよう、マージンをとった硬さにしてあります。小柄で体重40、50kg台のライダーが乗る場合、そりゃあサスが硬すぎる!となりますよね。

特殊な例ではサーキットを強く意識した車種の場合は、高速・高荷重でも底付きしないようサスが硬くなっている車種もあり、普通に公道を走るにはちょっと硬すぎる車種もあります。

これはあくまでも国内メーカーの話です。正確に設計基準を把握していないので推測になりますが、明らかに100kg以上のライダーが2人乗りすることを前提としているとしか思えない海外メーカーも存在します。実際に海外の画像や映像ではそのような光景を目にすることも多いので仕方無いのですが、一般的な日本人が1人で乗るにはやはり硬すぎるのが正直なところだったりします。

サスが硬い!それはどんな状況で

バイクメーカーは1人乗り、2人乗り、荷物の積載と、いろいろな条件で不具合がでないよう設計しなければならないことはお分かりいただけたと思いますが、満載の状態に合わせて設計してしまうと1人乗りの状態ではサスがほとんど動かない車両になってしまいます。この問題に解決するため、バイクメーカーはサスペンションのストローク位置によってスプリングのバネ反力が変わるように設計することで対応しています。
市販の公道車両のサスペンションには、ほぼ全ての車種で前後に不等ピッチという、巻き方が変化しているスプリングを使用しています。プログレッシブレート、可変レート、バリアブルレートなんて言われたりもします。

スプリングのバネ反力は同じ材質の場合、線径×巻き数で決まります。サスペンションに使われるスプリングは一定の線径でつくられていますので、同じ長さの中に巻き数の違う部分を作ることで、一本のスプリングの中にストローク位置によって違うバネ反力を持つスプリングを作り出しています。これが不等ピッチスプリングです。

不等ピッチスプリングは圧縮すると柔らかい部分から先に縮み始めるので、縮んでいくにしたがって硬くなる特性を持っています。
この特性を利用し、2人乗りや荷物を積載した場合には1人乗りよりも多く沈み込んだ位置、スプリングが硬い部分を使用することによって大きな荷重に対応することができます。逆に言うと、2人乗りや荷物を積載した場合に不具合の無い硬さを確保しながら、一人乗りで硬すぎない、きちんとストロークする特性を確保できます。

この沈み込んだところで硬くなる特性は、大排気量のツアラーやアドベンチャーモデルなどでより顕著に造られています。パニアケースやトップボックスに荷物を満載し、ハイスピードで2人乗りをすることを考慮した結果ですね。

ストローク位置によって硬さが違うスプリングが使われているので、サスが硬すぎると感じる場合はストロークの初期で硬いのか、沈み込んでからが硬いのかを正確に把握しないと話が変わってしまいますから、自分が硬い、柔らかいと感じるストローク位置を正確に把握することがまずは重要となります。

イニシャルプリロードの調整とその効果

ストローク初期の動きが硬い、もしくは柔らかいと感じる場合、調整機能がある場合はライダーの体重に合わせてイニシャルプリロード(初期与圧荷重)を変更すること改善する場合があります。イニシャル調整とか、プリロード調整とか略されることが多いですね。

バイクにライダーが乗車した時点で、サスペンションはライダーの重みで沈み込みます。この沈み込む量スプリングの硬さによって異なります。
イニシャルプリロードが多い(あらかじめスプリングがたくさん縮められている)場合、柔らかい部分はすでに縮められてしまっている状態からサスペンションのストロークがスタートします。つまりスプリングの硬い部分から使い始めることになります。
逆に、イニシャルプリロードが少ない(スプリングがあまり縮められていない)場合は、柔らかい部分から使い始めることができます。

スプリングのどの硬さから使い始めるかライダーの体重に合わせるため、ライダーが跨った状態でのサスペンションの沈み込み量を基準にイニシャル調整をすることをサグ出しといいます。
方法は簡単です。乗車可能な装備を身に付けた状態で75kg前後のライダーにまたがってもらい、サスペンションの沈み込んだ位置を記録し、自分がまたがったときに同じ沈み込み量になるようにイニシャルを調整します。
ちょうどいい体重の人がいない場合は、軽い体重の人が荷物を背負って75kgに調整しても問題ありません。
簡単に沈み込み量を計測できるサグチェッカーという便利な道具も市販されていますので利用してみるのもいいと思います。

硬すぎる、沈み込みが少ない場合はイニシャルを抜く(少なくする)と、スプリングの柔らかい部分から使い始めることになりますので、ストローク初期を柔らかく(沈み込みを多く)することができます。
柔らかすぎると感じる場合は逆にイニシャルをかける(多くする)方向ですね。
具体的な調整方法は車種によって違いがあります。取り扱い説明書に記載されていますので、よく確認した上で作業にあたってください。

ただしこの方法はあくまでも目安であり絶対的な正解ではありませんので、サグ出しをした上で微調整し、自分が乗りやすいと感じる状態に調整することが重要になります。サグ出しをしたところでまだまだ硬い、といった車種はたくさんありますからね。

フロント側のイニシャル調整ができる車種はねじによって無段階に調整可能です。リヤ側は段階的に調整できる車種と無段階に調整できる車種があります。
どちらの形式でも、必ず変更量の記録を取りながら調整することを心がけてください。現状より悪くなってしまった場合、元に戻せなくなります。
記録さえ取ってあればいつでも元に戻せますので、最弱(イニシャルが最も少ない状態)と最強(イニシャルが最も多い状態)を体感しておくのも面白いと思います。結構変化するものなので、いきなりハイペースで走行したりするのは危険ですが、手で押すだけでストローク初期の硬さの違いが明確にわかって面白いですよ。

段階的に調整できる車種は、一段変更すると体感できるくらい変わるように造られていますので、一段ずつ変更して乗り比べる方法で好みの状態を見つけ出すことができると思います。
無段階に調整できる車種は、少しくらい変更してもよくわからない車種も多くあります。よくわからないまま調整を続けると迷路にはまりますので、ますは自分が体感できる変更量を見つけ出すことが重要になります。
アジャスター1回転では体感できないが2回転なら体感できる場合、2回転ずつに変更する単位を決めて調整すると混乱しにくくなります。決めた単位で最も好みに近い状態を見つけ出し、そこを基準にさらに細かい単位で調整を繰り返す方法がおすすめです。

 

注意点としては、イニシャル調整は変化するばね反力の中の使用する位置が変わるだけで、スプリングの硬さ自体が変わるわけではないということです。
対応できる最大荷重が変わるわけではありませんので、イニシャルをたくさんかけたからといって、とんでもない量の荷物を積んだりすることはできません。

また、イニシャルをたくさんかけ、スプリングをあらかじめ縮めるということはサスペンションが少しストロークした状態を擬似的に作り出すことになりますので、車高は下がる方向へ変化します。そのため前後どちらかのイニシャルを調整すると車体姿勢、重量配分の変化も同時に起こり、バイクの特性も微妙に変化します。
スプリングをあらかじめ縮めるということはサスペンションのストロークは減少する方向へ変化するということでもあるので注意が必要です。

車体姿勢、重量配分、ストローク量と同時にいろいろな要素が変化するので、イニシャル調整は理想の状態にもっていくのが難しい作業です。
しかも不等ピッチスプリングの場合はばね反力の変化も同時に起こるので、下がると予測した車高が逆に上がったりする場合もあり、さらに難解です。

2人乗りや荷物の積載を考えなくてもよいレース車両では等ピッチスプリングが使われることが多くなっています。等ピッチはストローク位置によってばね反力が変化することが無いため、イニシャル調整による変化が不等ピッチより予測しやすいためです。
そのためレース車両と公道車両ではイニシャル調整の考え方が違います。レース車両の考え方で公道車両を調整しようとすると迷路にはまりますから注意が必要ですよ。

イニシャル調整のコツは、少しずつ調整してみて「気持ちよく乗れるか」だけで判断し、理想の状態にならなくてもそれ以上追求するのはあきらめることです。いろいろな要素が同時に変化するので、全ての要素を理想の状態にするのは不可能です。妥協できない部分を集中的に対策し、妥協できる部分は慣れでカバーというのが現実的な対応になります。

アフターパーツで対応することは可能

慣れでカバーできる範囲ではない、妥協せずに理想の状態を追い求めたい、といった場合の対処方法もお話しておきましょう。
いくらイニシャル調整を行ったところで、バネ反力が硬くなっていく変化の特性そのものはスプリングを変更しなければ変えられません。初期の硬さが理想的になったが奥で硬すぎる、もしくは柔らかすぎる、となった場合はスプリング交換となりますが、社外品は硬くする方向の製品がほとんどです。

奥で硬すぎる特性を改善したい場合はリヤならショックユニット、フロントならフロントフォークを社外品に交換し、専用のスプリングの中から選択していくことになります。
この際、社外品はレース用として設計されているものやレース用をベースに開発されているものが多いので、等ピッチや、不等ピッチでもばね反力の変化が少ないスプリングが多くなっています。つまり、2人乗りや荷物の積載はある程度妥協が必要な場合が多いということです。

また、純正に不満があって社外品に交換する場合は、交換しただけで理想の状態になることはまずありませんのでセッティング作業が必要になります。
同じセッティングでも硬いと感じるか、柔らかいと感じるかは人それぞれで、他人からは判断が難しい部分です。そのため純正を上回る理想の状態を作り出すにはライダー本人に高いセッティング能力が求められます。難易度は高いですが、理想のセッティングが作り出せたときの満足感は他に変えがたいものがありますので、ぜひ挑戦してみてください。

まとめ

今回はスプリングの硬さに絞ってお話させていただきましたが、乗り心地の硬さには減衰力、タイヤの空気圧なども影響します。さらにリンク式のリヤサスの場合は等ピッチのスプリングを使ってもレバー比の影響でプログレッシブな特性が発生したり、フォークの油面の違いで空気バネのバネ反力が変化したりと本当はもっと複雑です。

その中からスプリングのイニシャル調整に重点を置いた内容にさせていただいたのは、この調整を的確に行うことで足つき性が向上する可能性があるからです。足つき性の良し悪しはバイクに乗る楽しさに大きく影響しますからね。

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NTMworks

長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

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