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コラム知識

【元車両開発関係者が解説】MotoGP2022 ホンダはなぜ勝てない?その理由を考察

NTMworks
最終更新日 2024/04/23 20:45
NTMworks
Published: 2022年7月21日
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2022年のMotoGPも前半戦が終わりましたが、過去に例が無いほど低迷しているのがホンダ陣営です。今のところ優勝無し、コンストラクターズポイントは最下位。どうしてこんなことになっているのかを、あまり語られることの無い切り口から解説してみたいと思います。今回は公式コメントや映像で確認できる情報のみ、全て推測の妄想記事となります。

目次
  • 公式コメントを振り返る
  • ホンダ伝統の弱点
  • ミシュランタイヤはヨーロッパ勢びいき?
  • 有利なのはV4?直4?
  • マシンとライダーの相性問題
  • 新型マシンの可能性
  • まとめ

過去にはMotoGPマシンに関わりのある仕事もしていましたので、もしかしたらそんな情報も織り交ぜてあるかもしれませんが、機密の関係上明言はできません。どこまでが事実か想像しながら読んでいただけると、より楽しんでいただけると思いますよ。

公式コメントを振り返る

これまでホンダのRC213Vはマルケススペシャルと呼ばれることが多く、マルク・マルケス以外のライダーには乗りこなせない、リヤタイヤのグリップ不足という問題を抱えたマシンと言われていました。
開幕前の開発者のコメントによると、22年型RC213Vは枠を飛び出したそうです。これは今まで試してもいなかった範囲に設計を変更した、ということらしいです。エンジンレイアウトの大幅な変更は無いようなので、エンジン搭載位置やフレームの剛性バランスのことを言っているのでしょう。

極端な話をすれば、指摘され続けてきたリヤのグリップ不足という問題はフレームの縦剛性を落とせば解決できます。フレームがたわむことによって路面からタイヤが離れる状況を回避すれば、リヤのグリップだけは向上します。しかしこれは同時にフレームのたわみに吸収されてサスペンションの動きがわかりづらくなり、ライダーを混乱させる原因となります。さすがにそんな安易な方法をとることは無いだろうと、この時は思っていました。

そして開幕前テストからシーズン開幕。ポル・エスパロガロのコメントではリヤのグリップが向上した素晴らしいマシンだ、という評価がありました。一方マルク・マルケスはマシンに対しては慎重なコメントが多く、シーズンが進むにつれフロントの剛性不足を指摘するコメントが多くなっていきます。これらのコメントを総合すると、フレーム剛性の方向性は残念ながら予想通りかな、思います。

ホンダ伝統の弱点

4ストローク990cc時代に圧倒的な強さを誇ったホンダのRC211V、その強さの理由は一気に減速してコンパクトに曲がり、また一気に加速するという、いわゆる大排気量乗りに適した高重心のマシンが成功の鍵であり、その高重心化に大きく貢献したのが縦に長く重心位置が高い、それまでのレース用エンジンとは全く異なるコンセプトのレイアウトを持った独創的なV型5気筒エンジンでした。

RC211V 引用元:ホンダ公式サイト

その後レギュレーションが改定され、800ccへと排気量が引き下げられることにより、削られたパワーを補うようにコーナリングスピードを向上させる方向へ進化していきます。この方向性は完成度が高まりつつあったトラクションコントロールなどの電子制御によってさらに拍車がかかることとなります。
この時代に開発されたのがRC212Vでしたが、このマシンはブレーキング時にリヤのホッピングが激しく安定しないという問題を抱えていました。
これはRC211Vのコンセプトを引き継ぎ、加減速を重視した重心位置が高すぎるエンジンと、コーナリングスピードを重視した車体とのバランスの悪さがブレーキング時のリヤグリップの不足という形で表れたものでした。
しかしこのRC212Vはケーシー・ストーナーの実力によってチャンピオンを獲得してしまいます。これによって重量配分に難のあるエンジンレイアウトが重大な問題として開発陣に受け止められることはありませんでした。

RC212V 引用元:HRC公式サイト

その結果、1000ccへとレギュレーションが変更された際に開発され、現在も活躍中のRC213Vも同様の問題を抱えたまま発展してしまいます。
しかしここでもマルク・マルケスがチャンピオンを獲得することにより、マシンの素性の悪さが表面化しづらい期間が長く続いてしまいました。
リヤのグリップ不足はRC211Vの大成功に影響を受け過ぎ、時代の流れに対応できなかったRC212VからRC213Vへと引き継がれた近年のホンダ伝統の問題点だったのです。

ミシュランタイヤはヨーロッパ勢びいき?

MotoGPで使用されるタイヤはブリヂストンのワンメイクを経て、現在はミシュランのワンメイクとなっています。このミシュランがヨーロッパ勢に有利なタイヤを開発している、なんていう噂もありますが、実際はどうなのでしょうか。

タイヤメーカーにはメーカーごとの癖のようなものが存在します。確認せずに乗ってもブリヂストンっぽいとか、なんとなくミシュランっぽいというのは乗り味でわかることが多いものです。例外も存在しますが、メーカーごとの全体的な傾向というものは確実に存在します。

現在のタイヤ開発はブレーキによって縦方向に荷重をかけながらバンクさせていくことで旋回性を大きく発揮する方向性が多数派です。しかしミシュランは昔から、コーナリング中の遠心力により発生する荷重によって旋回性を生み出す方向性が強い傾向です。

つまり乱暴に分類すると、前輪に多めの荷重がかかる車体と相性が良いのが一般的なタイヤ、前後のタイヤに均等に荷重のかかる車体と相性が良いのがミシュランとなります。つまり特定のバイクメーカーをひいきしているわけではなく、元々ミシュランは特殊な傾向が強いということです。

切り替わった当初は混乱を防ぐため、それまでのブリヂストンに近い特性のタイヤを供給していたミシュランが改良を続けた結果、自然とミシュランらしい持ち味のタイヤへと変化していったのではないかと思われます。

引用元:ミシュラン公式ツイッター

有利なのはV4?直4?

現在MotoGPにはホンダ、ドゥカティ、KTM、アプリリアがV4、ヤマハ、スズキが直4エンジンで参戦しています。このV4と直4、どちらが有利かという議論がたびたび起こりますが、そんなに簡単な話ではありません。真横から見た各メーカーのエンジンレイアウトを大雑把に図にしてみます。

V4、直4といってもメーカーによって大きく外形が異なることがわかります。エンジンの外形というのは、他の要素ではカバーできないほどバイク全体の重量配分に影響します。

現在同じマシンに乗るライダー達が安定して上位に顔を出すのがドゥカティとスズキですが、この2メーカーはミシュランに適した前後輪に均等に近い荷重がかかる重量配分となる、前後に長いエンジンレイアウトを採用しています。
電子制御や空力など、マシン性能を左右する要素は昔と比べて格段に増えてはいますが、どんな時代でも重要なのは重量配分やディメンションといった車体設計の基礎となる部分であることは変わらない、ということがわかります。V4とか直4とかよりも、もっと基本的な部分が大切だということですね。

マシンとライダーの相性問題

重量配分的に優れているとは思えないマシンに乗って素晴らしい成績を残しているマルク・マルケス選手やクアルタラロ選手は、低迷するホンダ勢、ヤマハ勢の中でチャンピオン争いを繰り広げ、打ち勝ってきました。これは運良くライダーの得意とする部分、苦手とする部分がマシンの長所、短所と噛み合い、ライダーとマシンが互いに補いあって伸ばしていく、相性の良さが強さの要因と考えられます。その証拠に、この2人はマシンに対する不満はたびたびコメントしながら、あまり他メーカーへの移籍の噂が聞こえてきません。アプリリアのアレイシ・エスパロガロ選手の活躍も同様の理由でしょう。

特定の相性の良いライダーが出した結果をマシンの実力だと勘違いしてしまうと、マシン開発がおかしな方向へ進み続けてしまうため、気付いたときには迷走状態となってしまいます。これもホンダ低迷の原因のひとつでしょう。

ヤマハのファビオ・クアルタラロ選手 引用元:ヤマハ公式サイト

新型マシンの可能性

現在はコスト削減のため、レギュレーションによってシーズン中のエンジンの仕様変更は禁止された上、1シーズンに使用可能なエンジンの基数が決められています。小規模な改良の場合は目的通りの効果を生みますが、新規にエンジンを設計しようとすると大きな問題が発生します。
最初から制限された基数でシーズンを乗り切れる完成度を持ったエンジンを開発しなければならないため、莫大なコストが必要となってしまいます。そこまでして実戦経験が無い、勝てるかわからないエンジンを投入するのもリスクが大きすぎます。
しかもこれは、現在のタイヤへの対策ですので、違った特性のタイヤが供給されるようになれば全て無駄になります。
新たに重量配分に優れたエンジンを造ればいいことは関係者はわかっているでしょうが、実際には難しいのが現実です。

また現在日本のバイクメーカーの売り上げの多くの部分を占めているのは途上国向けの150ccクラスです。これらの国での売り上げにMotoGPの結果がどれだけ反映されているのかも難しい問題です。負け続けても主要マーケットでの売り上げが変わらなかった場合、新型マシン開発の予算確保は難しく、まぐれ当たりを狙った仕様違いのフレームの投入などが限界となってしまうでしょう。

姉妹車種を含め、ブラジル国内で年間100万台近く販売されているホンダCG160Titan。このクラスの全世界での販売台数は天文学的数字です。 引用元:ブラジルホンダ公式サイト

まとめ

ホンダもコンストラクターズ最下位まで落ち、勝って当然という状況から開放されたわけですから、現在の重心位置が高過ぎ、前過ぎなエンジンに見切りをつけ、楕円ピストンやV型5気筒に負けない独創的なエンジンで挑戦してくれたら面白いのに、と思いますが、ここまでお話したレギュレーションの問題、プロモーション効果への疑問などにより、予算の投入を控えている可能性が考えられます。そうなると新エンジンの投入は厳しく、結果の出ない付け焼刃的な対応が今後も続いてしまうかもしれませんね。

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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。

ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。

あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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