ハスクバーナ・モーターサイクルズのヴィットピレン401のコンセプトモデルが発表されたのは、2014年のEICMAでのこと。その後、2017年のEICMAでヴィットピレン&スヴァルトピレン401とヴィットピレン701の市販車、スヴァルトピレン701のコンセプトモデルが発表され、市販車は2018年から販売された。そんなハスクバーナのピレンシリーズが2024年、全て刷新。フランスで開催されたスヴァルトピレン801の試乗会に参加してきた。
エンジンは単気筒から2気筒へ!生まれ変わったスヴァルトピレン801
ハスクバーナのピレンシリーズの存在感といったらない。どのメーカーにも似たバイクやカテゴリーはなく、独創のピレンワールドを展開。それがスポーツバイク好きだけなく、ファッション感度の高いライダーにも刺さっている。北欧スタイルのシンプルかつ存在感のあるデザインは、とてもモダン。派手さはなく、グラフィックも控えめだが、一目でピレンシリーズとわかる主張は、世代や性別、キャリアや好みによって様々なスタイルに映っているのだろう。
スヴァルトピレン801最大のトピックは、799ccの並列2気筒エンジンを搭載したこと。701時代はマニアックなビッグシングルスポーツとしての面白さがあったが、801はツインスポーツとしての楽しさが与えられた。このエンジンはKTMとハスクバーナだけの不等間隔爆発を持ち、それが全てのライドモード、全ての回転で個性を主張。電子制御とも良いマッチングを見せ、扱いやすさ、気持ちよさ、そして速さを約束してくれるのだ。
また、シックでファッショナブルなスタイリングながら、スポーティなWP製のアジャスタブルサスペンションを装備。ブロックパターンのピレリ製MT60RSはスクランブラーらしさを醸すが、「さらにスポーティに走りたければタイヤは変更してほしい。そのためにもっともメジャーなサイズを採用しているんだからね」と開発陣は言う。
シティスクランブラーにもスポーツバイクにも変身する
先に発売されているフルモデルチェンジされたスヴァルトピレン&ヴィットピレン401もそうだったが、ピレンシリーズは走り出すと豹変する。
試乗会の先導のペースが速いこともあるのだが、とにかくスポーティなのだ。このときは寒いし、知らない道だし、初めてのバイクだし、ということでライドモードは「ストリート」「レイン」「スポーツ」の中から「ストリート」を選択。「ストリート」のエンジンはとても扱いやすいが十分な速さを発揮。スロットルを開けた際の反応が穏やかなため、中速を使いながら気持ちよく走れる。
わざと深いバンクからスロットルを開けたりしながらトラクションコントロールが介入する感触もテスト。メーター内にトラコン介入を示すランプが点滅するが、違和感はない。サスペンションはよく動く設定で、乗り心地も良好。このクラスのバイクとしてはかなりの高性能サスで、スポーツ派には嬉しい装備だ。
正直、701シリーズまではポジションやハンドリングにどこか攻めきれない部分があったのだが、スヴァルトピレン801のペースを上げた際のインフォメーションは豊富で、走るほどにその運動性の高さに魅了される。スタイリングからは想像もできない、そのギャップもピレンシリーズの面白さだろう。
オプションとなるダイナミックモードもテスト。こちらはエンジンの出力特性、トラコンやABSの介入度を任意に設定でき、より好みのバイクに仕立てるために必要なファクター。バイクを自分の近づけることで一体感や操っている醍醐味がグンと増すというわけだ。
後半は、エンジン出力を高くし、トラコンと後輪のABSをカット。アグレッシブに走るモードに仕立てて、ワインディングを謳歌した。
スヴァルトピレン801は、ミドルレンジ&100ps前後のパッケージを持つソフトスポーツの大本命
スヴァルトピレン801に乗ってみて、1000cc以下の排気量で100ps前後のパッケージの良さを痛感した。各メーカー、様々なカテゴリーでこうしたパッケージのバイクを持っており、それは欧州ではソフトスポーツとも呼ばれ始めている。
ハスクバーナのスヴァルトピレン801もそんな1台。105psのエンジンスペックにハイレベルな電子制御、さらに高性能なアジャスタブルサスペンションや高級感のあるディテールを考慮すると138万9000円はかなりバリューフォーマネーである。
モードやサスペンションで優しいバイクにできるからキャリアの浅いライダーにも勧めやすいし、ダイナミックモードを使えばかなりレベルの高いスポーツバイクに仕立てることも可能。だからハイエンドなスポーツバイクからの乗り換えもお勧めで、ベテランも肩の力を抜いて本格的なスポーツを堪能できる。
派手さのないシックな装いが好みの方も多いはず。気がつけば、近年のネイキッドは険しい顔をしたモデルが多く、大型の丸目ヘッドライトに見つめられるとなぜだかとても安心するし、新鮮なのだ。
何にも似ていないシンプルで普遍的な北欧デザインは、時代に左右されず、自分のライフスタイルを投影しやすく、レトロにもモダンにも未来的にも楽しめる。まさに現代におけるバイク界のカウンターカルチャーがここにある。
2024年、全モデルを一新したハスクバーナ・モーターサイクルズのピレンシリーズ。日本においてその存在感をどのように発揮していくのか注目したい。
スヴァルトピレン801 主要諸元
エンジン
エンジン形式 | 4ストローク 並列2気筒 DOHC |
排気量 | 799cc |
ボア/ストローク | 88/65.7 mm |
最高出力 | 77 kW (105 hp) / 9,250 rpm |
最大トルク | 87 Nm / 8,000 rpm |
圧縮比 | 12.5:1 |
始動方法/バッテリー | セルスターター/12V 10Ah |
変速機 | 6速 |
フューエルシステム | DKK Dellorto (スロットルボディ 46mm) |
バルブ形式 | 4バルブ DOHC |
潤滑 | 2ポンプ式オイル圧送潤滑 |
エンジンオイル | Motorex, Power Synth SAE 10W-50 |
一時減速比 | 39:75 |
最終減速比 | 16:41 |
冷却方法 | 水/油冷式熱交換器 |
クラッチ | PASC™ アンチホッピングクラッチ、機械操作式 |
エンジンマネージメント | Bosch製 EMS ライドバイワイヤー |
消費燃料 | 4.5 l/100 km |
CO2エミッション | 106 g/km |
シャシー
フレーム | 圧縮パーツであるエンジンを用いたクロムモリブデン鋼製フレーム、 パウダーコーティング |
サブフレーム | アルミ鋳造、パウダーコーティング |
フロントサスペンション | WP APEX 43 圧縮/伸び減衰力調整可 |
リアサスペンション | WP APEX – Monoshock プリロード/伸び減衰力調整可 |
サスペンションストローク(前/後) | 140 mm / 150 mm |
フロントブレーキ | 2x ラジアルマウント4ピストンキャリパー、ローター径:300mm |
リアブレーキ | 1ピストンフローティングキャリパー、ローター径:240mm |
ABS | Bosch 9.3 MP |
ホイール(前/後) | アルミ鋳造 3.50 x 17”; 5.50 x 17” |
タイヤ(前/後) | Pirelli MT 60 RS R 17; R 17 |
チェーン | Xリング 520 |
サイレンサー | ステンレス製一次および二次サイレンサー |
キャスター角 | 23.5° |
オフセット量 | 32mm |
トレール量 | 97,9 mm |
ホイールベース | 1,388 mm ± 15 mm |
最低地上高 | 174 mm |
シート高さ | 820 mm |
燃料タンク容量 | 14 L |
車重(燃料除く) | 181kg |
投稿者プロフィール
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1974年、東京都生まれ。18歳からバイクライフをスタート。出版社に入社後、 20年以上バイク雑誌一筋で編集者生活を送り、バイク誌の編集長を8年ほど
経験。編集人生のモットーは、「自分自身がバイクに乗り、伝える」「バイクは長く乗るほど楽しい!」。過去 には、鈴鹿4耐などの様々なイベ
ントレースにも参戦。海外のサーキットで開催される発表会に招待いただくことも 多く、現地で試乗して感じたことをダイレクトに誌面やWEBに展開してきた。
2022年、フリーランスのモーターサイクルジャーナリストとして始動。