コラム テクニック ライディング 知識

【元車両開発関係者が解説】今さら聞けない!?「ハンドリング」って何のこと?

新車のインプレッション記事で目にすることの多いハンドリングという用語。なんとなくわかるような、わからないような、曖昧な言葉ですよね。明確にどんな意味か説明できる人は少ないのではないかと思います。

この言葉、書く立場だと使い勝手がいいんですよね。細かい説明をしなくて済むので。というわけで、過去にはインプレッション記事で都合良くこの用語を使って楽をしたこともある私が、反省を込めてハンドリングとは何かをお話します。

ハンド?ハンドル?ハンドリングってなんのこと

残念ながらいつごろからこの用語がバイク業界で使われているのか、はっきりしたことはわかりません。推測になりますが、おそらく4輪業界で使われていた用語が転用されたものと考えられます。
4輪でのハンドリングという用語は、ハンドルの操作しはじめに対する反応や、ハンドル操作に対する旋回特性を表す際に使用されます。どれだけハンドルを操作した通りに旋回するかをハンドリングという言葉で表すんですね。

これをバイクに当てはめてみましょう。バイクの運転では極低速を除き、意識してハンドル操作をすることは少ないと思います。主に車体をバンクさせることで旋回しますが、ある程度の経験を積んだライダーは、そのバンクさせる行為もほとんど無意識に行います。
これくらい曲がりたい、と思ったら無意識にそれに応じた体重移動を行い、車体をバンクさせている場合がほとんどでしょう。

つまり、これくらい曲がりたい、と思ったライダーの意思にどれだけ忠実にバイクが反応してくれるかという、とても抽象的な部分を言葉で表す、それがハンドリングという用語です。

ハンドリングの優れたバイクはコーナーが速い

ハンドリングというのは旋回に関わる用語です。旋回に関する用語である以上、ハンドリングが優れる、という評価の車両は旋回性能が高い、コーナーを速い速度で走り抜けることが得意な印象を受けることもありますが、これは関係ある場合もありますし、全く無い場合もあります。

コーナリングスピードの限界は車重やタイヤの性能など、様々な要素で決まります。ライダーの意思を忠実に再現する能力と、コーナリングの限界速度は違う基準です。

新車インプレッションの記事など、特にサーキットでの試乗記事などでは、「優れたハンドリングを持つコーナリングマシン!」などと紹介されると、速いスピードでコーナリングが可能な車種だと勘違いしがちですが、ハンドリングは絶対的な速度、性能を表す用語では無いことに注意が必要です。

サーキットにおけるハンドリング特性の違

ちょっと前まではパワーのホンダ、ハンドリングのヤマハなんていう評価をよく耳にしました。これはどういうことなのか、サーキットでホンダとヤマハを乗り比べたインプレッションから説明しましょう。

公道車両ベースのレーサーと比べ、ライダーの操作に対して敏感に反応してくれる市販レーサー同士の比較がわかりやすいのですが、現在市販レーサーはホンダのNSF250Rのみで比較ができません。
古い話になってしまいますが、今はレースが開催されていない2ストローク125ccの、ホンダRS125RとヤマハTZ125を乗り比べた際の特性の違いをお話させていただきます。

RS125Rは、コーナー進入時に速度、バンク角やブレーキングでのフロント荷重のコントロールを的確に行わないと思ったように旋回してくれず、旋回速度が上げられません。
少しミスをすると大幅にイメージより大回りしてしまったり、コーナーに関してはライダーに対して正確な乗り方を要求する印象です。その代わり、バイクが求める操作ができた場合にはピタッと安定して速い速度でのコーナリングが可能になります。
ただし、一度安定してしまうと、走行ライン変えるためにバンク角を変更しようとしても、体重移動に対して車体の反応は鈍く、思ったよりも大きく体を動かさないとラインが変わりません。
バイクの要求に応えることができれば安定していて速いが、少しでも無理をしようとすると動きが重いという印象です。その反応の変化が極端なため、正しい乗り方、間違った乗り方の判断はとても容易です。

こんな乗り味を「切れ味鋭いハンドリング」と表現することはありますが、優れたハンドリングと評価されることはあまりありません。

ホンダRS125R 引用元:ホンダ公式サイト

対してTZ125は、進入でミスがあっても極端にライダーの言うことを聞かなくなることは無く、旋回中も体重移動に敏感に反応し、速度を落とさなくても軽い入力で自在にライン変更が可能です。コーナーに関してはライダーの操作に対して極めて許容範囲が広い印象です。

とはいってもベストな走り方から外れていくと段々反応が鈍くなり、これ以上は危険、という操作に対しては確実に反応が重くなってライダーに教えてくれるという面も持っていました。そういえばヤマハのバイクはライダーを育てる、なんて言われることもありましたね。

ヤマハTZ125 引用元:ヤマハ公式サイト

乗り比べてみて、このコーナーでの自由度の高さが、ヤマハはハンドリングが優れると言われる理由か、と大いに納得しました。自分の思った通りに動いてくれる、ハンドリングに優れたバイクは乗っていて楽しいですよ。TZもずっと乗っていたい、と思える楽しさでした。いまだに私が経験した車種の中で一番乗って楽しいバイクです。ただし結果を求められず、ただ楽しむ事だけを目的に乗る場合に限りますが。

この比較から、ハンドリングに優れる、と言われる車種は神経質なコントロールをしなくてもライダーの意図するラインを走ることができる、そして旋回中でもライダーの意思に応じて走行ライン変更の自由度が大きい車種と言うことができると思います。ライダーのわがままに応えてくれると言い換えることもできますね。

公道におけるハンドリングの優劣

サーキットにおけるハンドリングの評価というものは理解していただけたと思います。では、公道におけるハンドリングとはなんでしょうか。実は評価基準そのものは変わりません。しかし、前提条件が大きく異なります。

公道ではサーキットと違い、出せる速度が限られ、サーキットと比べれば中途半端なタイヤへの荷重で走り続けることになります。コーナーの走り方も全く違う場合が多く、サーキットではほとんどない定常円旋回(アクセルもバンク角も一定での旋回のこと)の状況も多くなります。荒れた路面もあれば、強い横風もあります。
そのすべての状況で、ライダーのイメージ通りに反応し、旋回してくれる車両、これが公道でのハンドリングの優れたバイクです。しかも様々なレベルのライダーが納得しなければハンドリングが優れた車種である、という評価は勝ち取れません。ハンドリングにこだわって車両を開発するのがいかに難しいかがわかっていただけると思います。

ハンドリングはライダーの腕しだい

サーキットでのインプレッションを読む場合などに注意しなければいけないのは、その記事を書いたライダーはある程度以上のライディングスキルを持っているということです。
極端な例ではコーナリング中にアクセルを開けたり戻したりしてギクシャクしていたり、おかしなタイミングで体重移動をした場合の評価などを見ることはありません。

ハンドリングは基本操作や適切な体重移動、荷重移動ができてはじめて評価できますが、ライダーのレベルの違いによってバイクの反応も変わるため、車両の評価も変わります。
その試乗記事のハンドリングの評価は、試乗したライダーのライディングスキルの場合、という但し書きが必ず付くことを忘れないでください。

他にも、車重の重い車種を、上手いライダーが体重移動や荷重移動を駆使してよく曲がる、素晴らしいハンドリングだ、と評価した場合も、初心者がおっかなびっくり乗れば全く思ったように曲がれず、そのハンドリングの良さは体感できないなど、ライダーのスキルによってハンドリングの評価は全く変わってしまうものであることに注意が必要です。

まとめ

ハンドリングがいいってどういうこと?と聞かれると、「ライダーが思った通りに曲がること」という、とても抽象的な答えになります。色々なバイクを乗り比べると、ハンドリングの優れたバイクというのがどういうものかはなんとなくわかってくるものですが、なかなかそんな機会は無いですよね。

バイクはライダーのスキル次第で発揮できる性能が激変する乗り物で、ハンドリングに関しても例外ではありません。
整備不良の状態ではその車種が本来もっているハンドリングは味わえませんから、整備のスキルも必要になります。全て自分でできなければならないという意味ではなく、どんなタイミングでプロに任せるかという判断や、不調を感じ取れる感覚が重要になります。
サスペンションの調整機能のある車種は、自分好みの味付けをするセッティングスキルもあると大いに役に立ちますし、的確な操作を可能とするライディングスキルはもちろん必要となります。

誰かにとってハンドリングの優れたバイクが、自分にとってハンドリングに優れたバイクとは限りません。ライダーのレベルによって受ける印象は変わりますし、体重や体格の差が影響することもあります。
他人の評価は参考程度に留め、慣れだけに頼らず、自分が納得のいくハンドリングを追い求めて様々なスキルを磨き続けるのもバイクの大きな楽しみ方のひとつです。

バイクには色々な楽しみがありますが、自分の思った通りに動いてくれるハンドリングを持つ車両で走るのは、これ以上ない贅沢なバイクの楽しみですよ。

 

モトコネクトでは元車両開発関係者のNTMworksさんの様々なバイクに関する記事が公開されているので、ぜひチェックして見て下さい!

amazon
人気商品ランキング
    • この記事を書いた人
    • 最新記事

    NTMworks

    長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

    -コラム, テクニック, ライディング, 知識
    -, , ,

    © 2022 Moto Connect(モトコネクト) Powered by AFFINGER5