元バイク屋のフォアグラさんです、こんにちは。
さて今日は、キャブレターとインジェクションの話です。
最近よく若い方から「初めてのバイクにキャブ車を選ぶのは、やめたほうがいいですか?」という質問をいただきます。今の若い方は、バイクに興味を持った時にはインジェクションが当たり前に存在する時代だったので、なんとなくキャブレターのバイクに対して難しいものとか、ちょっとデリケートなものといったイメージがあるのではないかな?と思います。
この質問に率直に答えてしまうと、初めてのバイクにキャブ車を選んで頂いて、全然問題ありません。
今回の記事を最後までご覧いただくと、キャブレターとインジェクションのそれぞれの特性を知ることができ、キャブ車を購入した場合の注意点についても理解できるので、キャブ車であっても安心して購入・維持することができるようになります。
キャブレターとインジェクションの違いについて
まずキャブレターとインジェクション、その違いはソロバンと電卓のようなものですね。
キャブはアナログ、インジェクションはデジタルです。どちらもエンジンにガソリンを噴射する装置ではあるんですけれども、その方法が異なります。
まずキャブレターの仕組みですが、こちらはエンジン内部のピストンが下がることに よって、吸い込む力が発生します。押しきった状態の注射器のピストンを引くと、水や空気を吸い上げようとすると同じです。この吸い込む力を負圧というんですが、その負圧によってガソリンと空気をエンジン内に吸い込むというのがキャブレターです。
そしてインジェクションは、ガソリンをポンプで噴射する装置ですね。
キャブレターは同じだけアクセルを回すと、毎回同じだけキャブレター内のパーツも動きます。しかしキャブレター自体は同じように動いたとしても、その時々の気温や酸素の濃度などによって、ガソリンの吸入量や気化をする量というのは異なってきて、結果的にエンジンの動き方、エンジンの反応というのは都度微妙に変わってきてしまいます。
その点、インジェクションはこの気温や酸素量なども常にコンピューターで監視していて、その時々によって最も効率の良い動きをするように、ガソリンの噴射量などを調整しているんです。
ですのでインジェクションは常に適切な燃料噴射をすることができるわけで、そのため燃費やパワーを効率よく出しやすくなります。また気温などにかかわらず、エンジンの始動性が良いということも特徴です。
基本的にインジェクションの方が、キャブレターよりも性能的に優れているといって差し支えはありません。
キャブ車のデメリットとメリット
キャブ車のデメリット
インジェクションではなくキャブのバイクを選ぶことのデメリットとは何でしょうか?
まず、つい先ほどお伝えしたように燃費の問題です。
確かにインジェクションよりもキャブの方が若干燃費は悪いでしょう。しかし、何割も変わってくるようなものではありません。むしろインジェクションのバイクは、新車の定価の時点でキャブのバイクよりも大幅に価格が高く、その価格は中古車になっても反映されます。その価格差は、排気量や気筒数によっても大きく異なってきますが、燃費の良さだけでその差を埋められるかどうかというと、ちょっと難しいかもしれませんね。
次にパワーの問題。
燃料を効率よく使ってパワーを引き出しやすいのもインジェクションの長所ですけれども、ギリギリまで最高出力を求めた大型のスーパースポーツでもない限り、問題にはならないと思います。
なぜなら、キャブでも十分に馬力が出すことは可能で、あえて自主規制の馬力に抑えていたわけです。キャブであっても、20年以上前の初代YZF-R1は150馬力をたたき出してますし、国産大型ネイキッドでインジェクションモデルとキャブモデルが混在していた時期でも、どのモデルでも最高出力は自主規制の上限ぴったり100馬力でした。別にキャブだから、パワーをそこまで出せないというわけじゃないんですね。
確かに現在のスーパースポーツのように、市販量産車として200馬力を叩き出すというのはキャブだと難しいかもしれませんけれども、キャブ車を買うということは中古車でしょうから、その時点で「今買える最高性能」求めた車両ではないですよね?それならパワーの限界に関しては気にする必要はないと思います。
「150馬力じゃ満足できない!」という人は新しいインジェクションモデルを選びましょう。
また排ガス規制に関する問題点もありますが、20年前のキャブ車を中古で購入して所有したとしても、現在の排ガス規制に適合させる必要はありません。20年前当時の基準に適合さえしていればOKです。ですので、環境問題について心から心配しているという人以外は、この点も気にする必要はありません。
では、ユーザー目線でデメリットはないのかと言うと、自分が考える一番のデメリットは、メンテナンスの問題だと考えています。ただ、決して難しい話ではありません。キャブのせいでバイクの調子が悪くなる最大の理由は「乗らないこと」です。
これは燃料噴射装置だけの話ではありませんが、バイクというのは本当に乗らないことが一番コンディションを悪化させます。
乗らなければ各部が動かないので、どんどん錆びついていきます。流れる水が淀まないように、金属パーツは動けば可動部がほとんど錆びません。チェーンやサスペンション・ワイヤーなどは、日々動かすことによってコンディションを維持することができます。ただしキャブの場合は、錆よりもガソリンによって固着してしまうトラブルが多いです。
日々乗っていれば、キャブの中のガソリンが入れ替わります。しかし放置し続けていると、ジェット(ガソリンが通る穴)の中でガソリンが固着して塞いでしまうんですね。そうするとガソリンが通れなくなってしまって、エンジンがかからなくなってしまいます。
ガソリンタンク内の錆が落ちてきて塞いでしまうというような場合もあるのですが、やはりキャブで特に多いトラブルは、この放置によるガソリン自体が固着してしまうということですね。
ただ、これは簡単に防ぐことができます。
最も多いのは、寒冷地で冬の間に何ヶ月もバイク乗らないという場合です。そのように何ヶ月もバイクに乗らないというような場合には、まずタンクからキャブにガソリンが落ちないように、燃料コックをオンやリザーブからオフにしてください。
次に、キャブの下についているドレーンというネジを回して、ウエスなどのボロ布などを当てがって、キャブの中のガソリンを抜いてください。それだけです!
初めての人でも5分もかかりません。慣れたら1分でできる作業です。やり方が分からないという方は google や YouTube で検索してもらえれば、すぐわかりますし、バイク屋さんに聞けば絶対教えてもらえることだと思います。キャブでの注意事項っていうのは、実はこれくらいなんですよね。
キャブ車のメリット
メリットとしては、車両価格が安いということが挙げられます。そして、いい意味でファジーで扱いやすい乗り味です。同じバイクでインジェクション仕様とキャブ仕様があれば、自分だったら安いキャブ仕様を選ぶと思います。
2000年代初頭くらいの初期のインジェクション車には、「ドンつき」と言われる、レスポンスが良すぎるためにアクセルを開けると、突然スイッチが入ったかの様にドン!と発進してしまうモデルがありました。自分が乗っていた初期型のZX-12Rなんか、まさにその代表格でしたね。今のインジェクションはそんなことがないように、あえてファジーに扱いやすく、いわばキャブっぽさをワザと残しているんですよね。
そして万一のトラブルの際に、修理しやすいというのはキャブのメリットです。インジェクションも修理したりパーツ交換で対応できたりしますが、アッセンブリー交換となるとコストが高くつきます。その点キャブはガソリンが固着したとしても、お店でオーバーホールをして直してもらえます。
今回のまとめ
キャブ車の特徴をまとめると、主なメリットは低価格で車両を買えるということ。そしてファジーで扱いやすい乗り味であること、トラブルの際に安く済むということです。
また逆に主なデメリットとしては、燃費や始動性で劣り、長期間乗らない場合はガソリンを抜く必要があるということです。
この長期間乗らない場合にガソリンを抜いておくということさえ気をつけておけば、インジェクション車と扱いに関しては大差ありません。
それにちょっと前の時代では、バイクはキャブが当たり前で、スーパースポーツでもほとんどキャブだったんです。
というわけで自分は元バイク屋として、キャブ車は乗りやすく価格も安いので、初心者の一台目にも問題無く安心してお勧めできると考えています。なんとなくキャブレターというものに対して難しそう、大変そうというイメージを持たれていた方にも、欲しいと思ったバイクがキャブ車だったらぜひ一歩踏み出して頂ければと思います。
今回の記事は動画でも詳しく説明しています。よろしければこちらも是非ご覧ください。
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投稿者プロフィール
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元バイク屋のYouTuber。
バイクライフに役立つ情報を毎週配信。
メカの話やバイク購入アドバイスはもちろん、用品レビューやバイク屋裏話まで、バイク乗りなら誰もが気になるテーマばかり。
ちなみに中身はアラフォーのおっさん。
好物はサッポロ黒ラベルとキャベツ太郎だが、子どもができて以来、ふるさと納税で貰った無糖レモンサワーで節約している。
最近、血糖値と血圧を気にしているらしい。
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