MotoGPを開催する海外サーキットで原田哲也さんのレッスンを受ける贅沢
初めて走るインドネシアのマンダリカインターナショナルサーキットは、なかなか強烈だった。このコースは2021年の11月に完成し、2022年からMotoGPを開催している新しい設計のコースで、日本にはないレイアウトの連続なのだ。
3速、4速でスロットル全開のまま200km/h近い速度で旋回していくコーナーが連続し、それはまさに未知の経験。前を行く原田哲也さんの走りやラインをコピーしようと努力するが、なかなかうまくいかない。それでも走行前後の原田さんのアドバイスを実践していくと着実にペースが上がり、同じグループ全員のリズムがよくなっていく。
高速域特有の緊張感が伴うが、そこは広いランオフエリアとパニガーレV4Sの電子制御がカバー。そう、マンダリカはMotoGPマシンを走らせるために作られたコースで、走っていると電子制御ありきのコースレイアウトであることも伝わってくるのだ。なんてコースだろう……走るほどに緊張は高揚に変わり、目の前がどんどん明るくなっていくような気がする。こんな経験、DRE(ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス)以外ではできない。
DREとは、世界各地でドゥカティが行うライディングアカデミー。今回、僕が参加したのは、インドネシアのマンダリカインターナショナルサーキットで開催されたDREホリデー。6月7〜9日の3日間に渡って開催され、アジア各国から計240名が集まった。日本からは僕の他に9名が参加。クラスと参加費は以下で「イントロ(2000ドル)」、「ウォームアップ(2200ドル)」、「エヴォ(2400ドル)」、「マスター(2600ドル)」、「ワン トゥ ワン(7000ドル)」の5クラスを用意。コストには2日間のホテル宿泊費、ホテルでの朝食と夕食、サーキットへの送迎、パニガーレV4Sでのトレーニングセッション、サーキットでのランチ、360度レストランでの夕暮れ時の一杯、空港への送迎が含まれている。
「ワン トゥ ワン」は、MotoGP経験者とのマンツーマンレッスンで、その他はキャリアに応じて分かれている。今回、日本からの参加者はドゥカティディーラーを通じてエントリーし、僕は「マスター」クラスに参加。まさに夢のようなエクスペリエンスの連続だった。
準備はライディングギアとエアチケットだけ、現地ではパニガーレV4Sとホスピテリティが用意されている
DREの前日、サーキットから10分ほどのリゾートホテルにチェックイン。バリ島の隣のロンボク島にあるマンダリカサーキットは美しい海に隣接。気になっていた暑さもそれほどではなく、日本の方がよっぽど酷暑。ホテルのエントランスも海に面しており、まさにリゾート。部屋に入り窓を開けるとサーキットを走るドゥカティのエキゾーストノートが聞こえてくる。
この日はDREホリデーの初日の金曜日で、僕らが参加するのは土曜日。今回インストラクターとして参加している原田さんもマンダリカは初めてで、明日に備えてこれから走行するというのでついていくことにした。サーキットに到着すると、ピットにはクラスごとのブースがあり、ピットロードにはパニガーレV4Sがズラリと並んでいる。カレル・アブラハムやダニロ・ペトルッチが熱心に参加者を教えている姿もみられる。なんて贅沢なんだろう。
原田さんは明日のインストラクターをこなすために1セッション走行。走行後に「(未走行のサーキットを理解するには)もう大丈夫なんですか?」と聞くと「じゃないと1年目に世界チャンピオン取れないからさ」と冗談っぽく笑いながら答えてくれた。翌日、完璧なラインを描く原田さんを見て、やなりすごいな!と感心した。
ホテルに戻ってディナー会場で、他の日本人の参加者と合流。食事を済ませると原田さんは参加者のテーブルをビール片手に回る。「こうすると皆の緊張がほぐれるし、明日のDREでコミュニケーションが取りやすくなるからさ」と原田さんはホストに徹し、そのもてなしにメンバーは感激していた。
スキル向上だけでなく、様々なことを発見できるDRE
DRE当日、サーキットに到着して受付を済ませるとライダースブリーフィングが行われる。ブリーフィングはDREテクニカルディレクターのダリオ・マルケッティさんが進行、インストラクターを紹介し、ライン取りやブレーキングなど、今日のテーマを説明していく。その後はピットに移動。原田さんが軽くコースの説明をしてコースイン。
そこからは冒頭の興奮の連続だった。走行前後に原田さんのアドバイスを聞き、わからないことは質問。様々なことを同じクラスの皆さんと共有していく。各コーナーのラインや使うギヤ、クリッピングポイントなど、それは様々。イタリア人のインストラクターのアドバイスも原田さんが翻訳。走行のたびにペースが上がっていく。
スキルは高まり、バイクへの理解度はどんどん深まっていく。さらに今シーズンのMotoGPのインドネシアGPを見るのも楽しみになる。この高速セクションをMotoGPライダーがどんな風に走るんだろう。
「いやー、MotoGPライダーは同じ人間じゃないと思うよ。実際にこういった最新設計のコースを走ることで彼らの凄さを改めて実感するよね」と原田さん。
自信のスキル向上はもちろんバイク趣味の奥深さを広げてくれるDREは、ドゥカティが提案している最新バイクと注力しているレース、そしてブランディングが一致した素晴らしいイベントだった。
投稿者プロフィール
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1974年、東京都生まれ。18歳からバイクライフをスタート。出版社に入社後、 20年以上バイク雑誌一筋で編集者生活を送り、バイク誌の編集長を8年ほど
経験。編集人生のモットーは、「自分自身がバイクに乗り、伝える」「バイクは長く乗るほど楽しい!」。過去 には、鈴鹿4耐などの様々なイベ
ントレースにも参戦。海外のサーキットで開催される発表会に招待いただくことも 多く、現地で試乗して感じたことをダイレクトに誌面やWEBに展開してきた。
2022年、フリーランスのモーターサイクルジャーナリストとして始動。