一昔前に比べ、50cc以下の原付一種はラインナップが激減している。さらに2025年に排ガス規制強化を控え、絶滅の恐れも・・・・・・。
オートバイ業界のジャーナリストとして長年活動している私が2023年1月の最新情報を交えつつ、今後の動向を予測してみます!
度重なる値上げなどの理由で原付離れが加速
50ccの原付一種バイクは、1980年代の最盛期には年間約200万台と圧倒的に売れていたが、近頃は約12万台にまで減っている。ラインナップ数は国内4メーカーで17車種にまで減少した(2023年1月現在)。
この主な原因となったのが高額化と駐車場不足だ。
もともと50ccは免許取得が簡単で、四輪普通免許でも運転できる。その上、車両価格が安く、お手軽な庶民の足として大人気になった。しかし、何度も排ガス規制が強化。ほぼ日本でしか販売されていない排気量だけにコストがかかり、価格が上昇した。’80年代は10万円台前半が主流で、安価なモデルだと10万円以下だったのに対し、現在は20万円前後になっている。
また、2006年には違法駐車が厳罰化され、バイクが厳しく取り締まりを受けた。特に都市部では二輪駐車場が圧倒的に不足し、停める場所がないにも関わらず、取り締まりだけは強化。原付に限らず、バイク全般に言えることだが、バイク離れが起きたのだ。
加えて、原付一種ならではの「30km/h上限」「二段階右折」といった不便なルールも原付離れに影響しているはず。一方で電動アシスト自転車など安価な移動手段が台頭し、原付一種より販売台数が増えているのが現状だ。
2025年の規制強化で大幅な価格アップが懸念されている
そんな中、原付にさらなる排ガス規制「令和2年排出ガス規制」が迫っている。
この規制は2022年10月末から全面適用されたが、原付一種のみ2025年10月末までの猶予が与えられた。
規制内容が厳しく、特に小排気量車ほど対策が難しい。原付は大幅な価格増が見込まれており、メーカーとしてはますますセールスが見込めなくなるため、50ccが全て“絶滅”する可能性があった。
そこでメーカーの技術開発や対策技術の低コスト化を求めるべく、原付一種のみ3年の猶予が与えられた経緯があるのだ。
本命は電動化、でもまだまだ課題が……
では今後、原付はどうなってしまうのか。
現在、二つの手段があるだろう。まず一つは「電動化」の道だ。バッテリーと電動モーターで走る電動バイク(EV)なら排ガスの問題をクリアできる。
日本において一般の人が購入できる国産4メーカーの電動バイクは唯一、ヤマハEビーノのみだが、今後ホンダのEM1e:が導入される可能性もある。
その一方で問題も……。
まずは価格だ。Eビーノは31万4600円で、現行ガソリンエンジンの原付より10万円程度高い。ただし、自治体によっては補助金でガソリンエンジンと同等の価格になる場合もあり、今後、需要が増加することでEVのコスト低下はありえる。
しかし、航続距離とインフラの未整備などの課題は解決に時間がかかりそうだ。
航続距離はEビーノの場合、最大32kmで、スペアバッテリーを搭載することで2倍になるものの、上り坂があるとより短くなってしまう(ちなみにEM1 e:は40kmと発表されている)。
一方、ガソリンエンジン版のビーノは1回の給油で262.8km(WMTCモード)と圧倒的に航続距離が長い。
出先で充電するとしても、気軽に”給電”できる場所がない(某TV番組のように一般家庭にお願いするしかない?)。そして充電に約3時間かかる。
この課題を解決するため、共通バッテリーのシェアリングサービス「ガチャコ」が2022年秋からスタートしたが、普及はまだまだこれからだ。
排ガス規制が始まる2025年10月末までに、これらの課題がクリアされれば、ガソリン車の原付一種の代わりになるだろうが、「かなり難しい」というのが正直な印象だ。
125ccの出力を制限し、「原付一種」として扱う案が浮上!
もう一つが「原付一種」という枠組自体を見直す案だ。
これは排気量ではなく、「最高出力」で原付一種を区分するもの。世界的に主流になっているエンジン版110~125ccモデルの排気量はそのままに、最高出力を5.4ps以下にデチューンし「原付一種」として扱う案だ。
全国約1600社のバイクショップが加盟する業界団体「全国オートバイ協同組合連合会(AJ)」が、国会議員の所属する自民党オートバイ議員連盟に提案した案で、実現するかは不透明だが、2023年春頃に何らかの動きがあると見られる。
この仮称「新原付一種」がどんなバイクになるのか予想してみよう。
車重は50ccより125ccの方が20~30kg重い。一方で馬力は4ps台の現行50ccに対し、新原付は5.4psとパワフル。低速トルクも太いので、加速性能や坂道での走りは現在の50ccより向上するはずだ。
また、グローバルな110~125ccモデルはアジアで50万~200万台規模を販売しており、大量生産による価格ダウンも期待できる。現行50cc並みの20万円前後になるとうれしい。
免許に関しては今までどおり原付免許のままで、四輪普通免許に付帯するだろう。そして上限30km/hと二段階右折も継続するはずだ(個人的には導入の際に撤廃してほしい)。
ちなみにダックス125などのレジャーバイクや、PCX125のような高級コミューターが「安く手に入るの?」と思った人もいるかもしれないが、それはなさそう。アジアなどで販売されている低コストで軽量な110~125ccスクーターが出力制御され、新原付一種になる模様だ。
電動の使い勝手がよくなるまで、新原付が中継ぎ役に?
世界的に短距離の移動手段として電動化が進んでいる。国内でも特に東京都は原付の電動化をプッシュをしており、いずれ原付はEVが主流になりそうな流れだ。
しかし、前述のとおり電動バイクの利便性が増すには時間がかかる。もし「新原付一種」が実現すれば、電動バイクが普及するまでの間、大いに役立つはずだ。
近頃、「原付一種不要論」も耳にするが、原付はクルマより免許取得が容易で、電動アシスト自転車よりも長距離移動に適している。公共交通機関が少ない地方などで、通学、通勤に原付が活躍しているケースもあり、なくしてはならない移動手段の一つだ。今後も継続するよう見守って行きたい。
投稿者プロフィール
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ふだんフリーランスとして、主にバイク雑誌の編集やライターをしている沼尾です。
1989年に2輪免許を取得し、いまだにバイクほどオモシロイ乗り物はないと思い続けています。フレッシュな執筆陣に交じって、いささか加齢臭が漂っておりますが、いい記事を書きたいと思っているので、ご容赦ください。趣味はユーラシア大陸横断や小説など。よろしくお願いします。