クオリティとポテンシャルは皆さんの期待以上!
「おー!」。スクランブラー400Xでスロットルを開けた瞬間に、ヘルメットの中で声が出た。想像以上の加速、レスポンス、躍動感があり、僕はとても嬉しくなった。同時に外車がここまで正統派の400ccを用意してきたことに驚いたし、シングルエンジン好きとしてはここから広がる未来を想像せずにいられなくなった。また、普通二輪免許で乗れるバイクの選択肢が増えるのは、日本の市場にとってとても良いことだ。
「トライアンフが400ccの排気量を持つ新たなカテゴリーに参入する」。僕はその発表会に参加するために2023年6月にイギリスを訪れたのだが、帰国後に様々なキャリアのライダーから反響があった。「トライアンフの400はいつ発売になるの?」と免許を取得したばかりの18歳の方からも質問があったし、さらにキャリアを重ねたライダーからのダウンサイジングの声も多かった。僕と一緒に仕事をしている営業の女性スタッフは、僕の話を聞くと購入を決意。予約を済ませ現在は納車待ちである。
スピード400とスクランブラー400Xは発売前に多くの予約が入っており、割合としては7対3でスピード400が人気だが、日本での発表会の後はスクランブラー400Xへのアクセスが急騰しているそうだ。価格はスピード400が69万9000円、スクランブラー400Xが78万9000円。ライバルが驚く勝負価格である。
日本での発表会で乗ったバイクは新車でどこにもアタリがついていない状態だったが、僕は高い期待値を持ってその2日後にスペインのバレンシアに飛んだ。
胸の空く加速と想像以上の完成度を披露
今回の試乗会は、バレンシアに到着した夜にプレゼント受け、翌日に試乗するスケジュール。試乗は4人ずつのグループに分かれ、往路がスクランブラー400X、復路がスピード400に乗ることになっているが、何ヶ所かで2台を乗り比べ&撮影をしながら進んでいく。
バレンシアの市街地&高速道路を抜けするとすぐにワインディングへ。それにしてもこのエンジンの躍動感といったらない。本当によく走る。常用回転域がとても広く、3000rpmで走ることができるし、そのまま9000rpmまで引っ張れば胸の空く加速を味わえる。ちょっと回転を上げてシフトアップするのも良いし、中回転域を繋ぎながら矢継ぎ早にシフトアップをする走りも許容してくれる。
新しいバイクに乗っている!最新設計の単気筒エンジンに乗っている!走るほどにそんな感覚が強まり、だからこそ気持ちも昂っていく。コンサバな感じはなく、かなり攻めている作り。モダンクラシックのスタイルからは想像がつかないほど痛快で軽快な楽しさに溢れている。
ちなみに2台のエンジンはまったく同じ。乗り味は見た目のとおりタイヤサイズとサスペンションストローク、そしてフレームやポジションによる違いがある。
スピード400は前後17インチを履く、超コンパクト設計。スクランブラーは長いホイールトラベルに合わせた専用フレームが用意され、スイングアームそのものはスピード400と同じだがアクスルの位置をチェーン引きで後方にすることでホイールベースを確保している。
一見、スピード400の方がスポーティに見えるが、ワインディングを走った感じだと、2台ともかなりプッシュすることができ、スポーツ性に優劣はない。しかも、その限界は高く、かなりのアベレージでもサスペンションの減衰力が足らなくなることはなく、メッツラー製の前後タイヤのグリップを正確に引き出せる感覚があるのだ。400ccカテゴリーでここまでの手応えを得られるバイクは滅多にない。
走るほどにエンジンの完成度の高さに惚れ惚れする。市街地では低い回転でゆっくりと走り、ワインディングなどでスポーツライディングのスイッチを入れたい時は回転を上げれば良いのだ。そのメリハリを簡単につけることができ、その時に応えてくれる感覚はスポーツバイクそのものなのである。
400ccというとそのターゲットはビギナーを想像しがちだが、これならベテランのダウンサイジングも許容してくれそうだ。
いかにトライアンフらしい400に仕立てるかが課題だった
「2023年6月に発表して以来、各国からの反応はとても良いものでした。25歳から35歳くらいの方からの反応が多く、それは興味深いものでした。しかし、アメリカ、イギリス、フランスなどからはベテランライダーからの声も多かったのです。彼らは今乗っているバイクを重くて大きいと感じていたのです」とトライアンフのチーフ・プロダクト・オフィサーのスティーブ・サージェントさん。スティーブさんは、今回我々と一緒に試乗しながら様々なことを教えてくれた。
確かにモダンクラシックのスタイリングにこの軽さと40psのパワーが与えられたバイクは、これまでになかったパッケージ。
ライバルを聞くとスピード400はホンダのGB350で、スクランブラーはBMW G310GSなどの名前が上がった。しかし、GB350は20psで5速、G310GSは6速だが34ps。KTMのデューク390や発表されたばかりのハスクバーナの401シリーズが45psとクラス最強を誇るが、このカテゴリーは外車の本格参入でかなり熱くなりそうな気がする。
最後にスティーブさんに聞いてみた。このエンジンを使った次にモデルは?と。実は前回お会いした時も同じ質問をした。その時は、「わかっている。わかっているけど、今はこの2台に集中してくれよ」という答えだった。しかし、今回は少し違った。
お前また聞いてきたな、というニュアンスでスティーブさんは大笑いした後に答えてくれた。「私たちはこのエンジンを手に入れました。仕事をしているとこのエンジンのことをいつも考えています。他にどんなモデルができるだろう?このエンジンで何ができるだろう?ってね。もちろん他のモデルも考えていますよ。ただ、その答えはもう少し待ってください」
スラクストン、タイガー、デイトナ?さあ、次の400はなんだろう?トライアンフの本気からしばらく目が離せなそうだ。
スピード400・スクランブラー400X 主要諸元
スピード400 | スクランブラー400X | |
エンジン、トランスミッション | ||
タイプ | 水冷単気筒DOHC4バルブ | |
排気量 | 398.15 cc | |
ボア | 89.0 mm | |
ストローク | 64.0 mm | |
圧縮比 | 12:1 | |
最高出力 | 40 PS (29.4 kW) @ 8,000 rpm | |
最大トルク | 37.5 Nm @ 6,500 rpm | |
システム | ボッシュ製電子燃料噴射、電子制御スロットル | |
エグゾーストシステム | ステンレス製ツインスキンヘッダーシステム、ステンレススチールサイレンサー | |
駆動方式 | Xリングチェーン | |
クラッチ | 湿式多板、スリップアシストクラッチ | |
トランスミッション | 6速 | |
シャシー | ||
フレーム | ハイブリッドスパイン/ペリメーター、チューブラースチール、ボルトオン式リアサブフレーム | |
スイングアーム | 両側支持、鋳造アルミニウム合金 | |
フロントホイール | 鋳造アルミニウム合金10スポーク | |
フロントホイールサイズ | 17 x 3インチ | 19 x 2.5インチ |
リアホイール | 鋳造アルミニウム合金10スポーク | |
リアホイールサイズ | 17 x 4インチ | 17 x 3.5インチ |
フロントタイヤ | 110/70 R17 | 100/90-19 |
リアタイヤ | 150/60 R17 | 140/80-17 |
フロントサスペンション | 43 mm径倒立式ビッグピストンフォーク | |
フロントホイールトラベル | 140 mm | 150 mm |
リアサスペンション | ガスモノショックRSU、エクスターナルリザーバー、プリロード調整 | |
リアホイールトラベル | 130 mm | 150 mm |
フロントブレーキ | 300 mm 固定ディスク、4ピストン ラジアルキャリパー、ABS | 320 mm 固定ディスク、4ピストン ラジアルキャリパー、ABS |
リアブレーキ | 230 mm 固定ディスク、フローティングキャリパー、ABS | 230 mm 固定ディスク、ByBreTM シングルピストンフローティングキャリパー、ABS |
インストルメントディスプレイとファンクション | アナログスピードメーター、一体型マルチファンクションLCDスクリーン | |
寸法・重量 | ||
ハンドルを含む横幅 | 814 mm | 901 mm |
全高(ミラーを含まない) | 1084 mm | 1169 mm |
シート高 | 790 mm | 835 mm |
ホイールベース | 1,377 mm | 1,418 mm |
キャスターアングル | 24.6 º | 23.2 º |
トレール | 102 mm | 108 mm |
燃料タンク容量 | 13 L | |
車体重量 | 170 kg | 179 kg |
カラー | ||
カラー | カーニバルレッド | マットカーキ/フュージョンホワイト |
カスピアンブルー | カーニバルレッド/ファントムブラック | |
ファントムブラック | ファントムブラック/シルバーアイス | |
価格 | ||
メーカー希望小売価格 | ¥699,000(税込) | ¥789,000(税込) |
投稿者プロフィール
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1974年、東京都生まれ。18歳からバイクライフをスタート。出版社に入社後、 20年以上バイク雑誌一筋で編集者生活を送り、バイク誌の編集長を8年ほど
経験。編集人生のモットーは、「自分自身がバイクに乗り、伝える」「バイクは長く乗るほど楽しい!」。過去 には、鈴鹿4耐などの様々なイベ
ントレースにも参戦。海外のサーキットで開催される発表会に招待いただくことも 多く、現地で試乗して感じたことをダイレクトに誌面やWEBに展開してきた。
2022年、フリーランスのモーターサイクルジャーナリストとして始動。