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Moto Connect(モトコネクト) > 記事 > コラム > 知識 > 【元車両開発関係者が解説】新しいバイクが出来るまで バイクの製造工程を紹介(前編)
コラム知識

【元車両開発関係者が解説】新しいバイクが出来るまで バイクの製造工程を紹介(前編)

NTMworks
最終更新日 2024/07/03 17:16
NTMworks
Published: 2024年7月3日
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引用:ホンダ

バイク関連のニュースを見ていると、毎日のように新型車が発表されていますよね。どうやってこんなに次々新しいバイクを造っているのか疑問に思ったことはありませんか?今回はそんな新型車開発現場の大人の社会科見学的なお話です。

バイクの開発過程はメーカーにとって重要機密なので細かいお話はできませんが、どこのメーカーもおおよそ共通な部分をざっくりと解説していきたいと思います。
ざっくりとはいっても目にする機会の少ない部分だと思いますので、楽しんでいただけると思いますよ。

目次
  • まずは「企画」から
  • 「設計」からものづくりスタート
    • 現在の設計はパソコンでデータを共有化
    • 必要なのは計算能力だけじゃない
  • 実際にかたちにしてゆく作業が「開発」
    • 実物でのテストは欠かせない
    • 開発の仕事で市販車の完成度が左右
  • まとめ

まずは「企画」から

基本的には企画部門が現在ラインナップしている車種の売れ行き、他社の動向などを調査して新企画を立ち上げます。
どれくらいのコストがかかって販売価格はどれくらいにできるのか、どんな客層に何台くらい売れそうかなどが細かく検討され、採算がとれると判断されれば企画にGOサインが出されます。このパターンが基本ではありますが、他にもいろいろ企画が立ち上がるパターンがあります。

例えば多くの販売店からウチでもこんな車種売りたい!とか、お客さんからこんなの欲しいってよく言われるよ、という意見がメーカーに寄せられると、それが企画スタートのきっかけになったりします。

また、メーカーに直接届くお客様の声なんていうのも、数が多ければきっかけになります。ショーに出品したコンセプトモデルなんかに多いパターンですね。ショーの現場スタッフにいつ市販されるのか質問が多かったり、お客様相談室に電話がたくさんかかってきたり。実はショーモデルは動かないハリボテで反響の大きさに大慌て、なんてこともあります。

ネタだと思っていたら意外とあったのが、偉い人がこんなのを売らなきゃならん!と言い始めて企画がスタートするパターンです。
これは企画部門のスタッフが大変苦労します。そんなの売ったら大赤字ですよ、とはなかなか言えないので、なんとか採算のとれるかたちに企画をまとめなければなりません。
なんでこんなの売ろうと思ったの?と疑問に思って聞いてまわったら役員の誰々さんが言い出して、なんてケースが実際何度かありました。

様々なパターンを用意することにより、柔軟に面白い車種が企画できる体制をとっているところは各メーカー共通なようです。

これは売れる!と思った車種がさっぱりだったり、なんでこんなのが?という車種がヒットしたりと、企画は意外と難しい仕事です。こうすれば売れるはず!と思ってもコスト的に無理、技術的に無理、とNGを出されるなんてこともあります。

ある程度企画が固まると、そのコンセプトをイメージしたイラストやモックアップ(模型)をおこすデザイン作業に移ります。

有名なGSX1100Sカタナのコンセプトスケッチ 引用元:スズキ公式サイト


このデザインという仕事、芸術家的な作業がメインではありながら部品ひとつひとつの製造技術や車両の生産設備、デザインによる性能への影響などなど、バイクに関する幅広い知識が必要とされるとても難易度の高い仕事です。
性能に問題がある車種ができあがってしまったり、実際に製造することが不可能だったりするようでは、いくらかっこいいイラストを描いてもただのお絵かきになってしまいますからね。

「設計」からものづくりスタート

現在の設計はパソコンでデータを共有化

一台のバイクは何千個もの部品で成り立っていますが、そのひとつひとつの形状、寸法、材質、製法などを決め、デザインを製品にするための図面に落とし込んでいく作業が設計です。

引用:ヤマハ

現在の図面作成はパソコン上の三次元CADソフトを使用して行われ、紙とペンを使った手作業だった頃と比べ作成、修正にかかる時間が飛躍的に短縮されています。

膨大な部品数で構成されるバイクをひとりで全て設計することは時間的に無理がありますので、実際の作業は多くのスタッフが同時進行で様々な部品を設計していきます。
すると例えば、フロントフォークを設計している人が寸法を変更、ブレーキキャリパーを担当している人はそれを知らずに変更前のフロントフォークを前提に設計、結果、出来上がったブレーキキャリパーがフロントフォークに取り付けできない、なんていう問題が発生する可能性があります。
設計者ひとりひとりが、自分の担当以外の進捗状況をサーバー上のデータを介して共有できる三次元CADならこのようなトラブルを防げる可能性が高くなることも三次元CADの大きな利点です。

必要なのは計算能力だけじゃない

現在市販されているバイクはバイクメーカー製の部品だけではなく、多くのサプライヤー(部品供給メーカー)の部品を組み合わせて造られています。


有名なところではフロントフォークやリヤショックユニットのショーワやKYB、ブレーキ関連のニッシンやトキコなどですね。サプライヤーへの要求仕様の確定や、活用できる既存の部品を選択するのも設計の仕事になります。そんなわけで設計の仕事は常にオフィスのデスクに張り付いているわけではなく、意外と会議や打ち合わせも多いので交渉や調整の能力も必要とされます。

現在では海外のサプライヤーから部品を調達することも多くなっています。オーリンズやブレンボなどが有名ですよね。
海外の工場で部品を生産したり、車両そのものの生産も海外で行うケースが多くなっていますので、最低でも英語でコミュニケーションがとれることは必須の能力です。
また、設計している車両は世界各国で市販することが前提ですので、各国の法規、規制なども把握していなければなりません。

さらに設計で重要なのがコストです。ひとつひとつの部品の単価は0.1円単位、場合によってはもっと細かく管理され、可能な限りコストを下げる努力が要求されます。商売ですからね。
この際、人の命に関わる製品ですから性能や品質を犠牲にすることは絶対に許されません。流用できる既存の部品を探す、製法を改良するなどの方法で解決策が練られます。

設計というのはバイク造りの花形部署のようなイメージがあるかもしれませんが、実際は自由に思った通りの設計ができる部分はほとんどありません。企画にそって、制約だらけの中で自分が担当する一部分だけをかたちにするという地道な仕事です。

実際にかたちにしてゆく作業が「開発」

実物でのテストは欠かせない

設計が完了した車両を市販可能な完成度へ煮詰めるのが開発の仕事です。
現在は設計の段階で様々なコンピュータ上でのシミュレーションが可能となっていますが、それだけで完璧なバイクができあがることはありませんので試作部品、試作車両を使用した開発作業は欠かせません。

嘘のような笑い話としては、三次元CAD上ではきれいにフレーム内に収まっている部品が、いざ試作部品を組み付けようとしたら入り口が狭くてフレームの中に入れられない、なんていうことが実際に起きたりもします。画面上だけではわかりにくいこんな設計ミスを洗い出すためにも実物でテストすることはとても重要です。

CB1000SUPER FOURのスケッチと実物大モックアップ 引用元:ホンダ公式サイト

設計が完了すると図面から試作部品が造られ、その試作部品で組み立てられた試作車が完成します。試作部品の製作、試作車の組み立て段階で問題があると判断された部品はこの段階で設計が修正されて造り直されます。

そして試作部品、試作車を使用して強度、耐久性、性能などに関し、様々な実験機器を使用してテストを繰り返します。当然この段階でも問題が発覚した場合も設計が修正されてテストが繰り返されます。多いときは10回以上修正が繰り返されることもあります。

開発の仕事で市販車の完成度が左右

開発の段階でも世界各国の法規を正確に把握していることは重要です。販売できない車両を完成させても意味がないですからね。
海外の法規は言語の違いから正確に解釈することが難しい場合がありますが、ここで内容を勘違いしていたりするととんでもないことになります。

特に新たに施行される法律がある場合は結構大変です。私も現地の法規の詳しい資料をくれ、と言ったらポルトガル語の分厚い紙の束を渡されて頭を抱えたことがあります。その時は翻訳の部署に丸投げしちゃいましたけどね。

そんなわけで、バイクメーカー内には翻訳専門の部署が有ったり、専門の人材を確保していたり、専業の翻訳会社と取引があったりします。いまやバイクメーカーは海外市場が販売のメインですから、世界各国の言語を網羅することは非常に重要になっています。

実走テストで企画のコンセプトに合った乗り味になっているか、なんていう部分もじっくり確認されます。ここでNGが出されると、どんなにいい仕上がりの車両でも設計からやり直し、となることもあります。実際には細かいセッティング変更などで対処することが多いですが、それでもカバーしきれない場合は設計から見直しになる場合もあります。

開発は設計の下請けのようなイメージを持たれるかもしれませんが、開発がNGをだしたら絶対にNG、市販はできません。逆に発売後に問題が発覚した場合、それが例え設計ミスであってもOKを出した開発の責任です。市販される車両の完成度を直接左右するのが開発の仕事ですから、その責任は重大です。

まとめ

今回は開発完了までのおおまかな流れをお話させていただきましたが、車種によって、メーカーによってパターンはいろいろです。エンジンを含めた完全新規設計の場合は本格的な設計が始まる前に先行開発が行われることが多いですし、海外で設計された車種を国内で開発、なんてパターンもあります。

これで開発まで完了して新型車はかたちになりましたが、市場に投入されるまでにはまだ山のようにクリアしなければならない工程がありますので、次回はそのあたりのお話をさせていただきたいと思います。

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投稿者プロフィール

NTMworks
長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。

ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。

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