実用的でスポーティさも兼ね備える本格的な電動バイクを、ついにヤマハが開発した。その名も「E01」は実証実験用モデルとして、将来の電動化市場を模索するための1台。興味津々で乗り味を体験してきた!
写真:沼尾宏明、ヤマハ発動機
100km走れて最高速も100km/h、実用的EVバイクが登場
出川哲朗氏が登場する某TV番組でもおなじみだが、今のところガソリンエンジンのように実用的な電動バイクはほぼ皆無だ。
某番組に登場するEビーノは、国産4メーカーによる完全電動バイクとして、国内一般ユーザーが買える唯一の存在(海外大手メーカー製ではBMW CE04がある)。
排気量は50cc相当で、航続距離はバッテリー一個使用の場合、カタログ値で約29km。ところが、実際の走行距離はさらに短く、特に上り坂があると10km台に落ち込んでしまう。実用性も動力性能も高いとは言い難い。
一方、ヤマハが新開発した電動バイクのE01は原付二種(51~125cc)相当で、約104kmの航続距離(60km/h定地性能)を実現。さらに最高速100km/hのパワーを兼ね備えた、とても現実的なモデルだ。
市販予定はなく、実証実験用にリースされるE01。スポーティかつクリーンなデザインを持つ。フロントマスクはYZF-R1を思わせる造形だが、LEDプロジェクターヘッドライトはR1と共通だ。
搭載される空冷モーターは、子会社のヤマハモーターエレクトロニクス(YEJP)に製造を委託し、自社で設定。独自の「平角太巻き線技術」を採用し、最高レベルの高効率化を実現した。
そしてリチウムイオンバッテリーは大容量4.9kWhを確保。ケースはCFアルミダイキャスト製とし、軽量コンパクト化を達成している。
開発者によると、バッテリー重量は30kg。「人が片手で持てる電池重量は約10kgが限界」であるため、着脱式バッテリーのE-ビーノに対し、E01のバッテリーは固定式とした。
スイングアーム前方にモーター、車体下部に固定式バッテリーを搭載。フレームは専用でダブルクレードルを採用する。駆動方式は静粛性に優れるベルトドライブだ。
恐ろしく静か&ダイレクトに加速、NMAXよりパワフルだ!
プレス向けの試乗会では、敷地内に設置された直線コースとスラロームコースで走行した。
まずメインスイッチをONにして、スターターに該当する右手元のボタンを押すと走行可能に。無音だったので待っていたら、係員に「この状態で走れます」と言われ、戸惑う(笑)。
この状態からスロットルを捻ると、スーッと静かに加速。過激ではないものの、相当力強い。
電動モデルは低回転から最大トルクを発生するのが特徴だが、あえて出足の加速を抑えているとのこと。トルクの立ち上がりに唐突感はなく、とても扱いやすい。
感心したのはレスポンスのよさと滑らかさだ。走り出した後も右手の動きにダイレクトに反応し、フィーンというモーター音ともに振動もなく車体を前に押し進める。
速度域に関わらず、スロットルを開けると常に加速できるのもいい。スロットルのオンオフが続くスラロームでもリニアにトルクが立ち上がる。減速時には回生ブレーキが作動するが、違和感は全くなかった。
会場に用意されたNMAXと比較すると、NMAXは遠心クラッチの影響もあって特に発進時にタイムラグがある。巡航中からの中間加速でもE01の方が加速が鋭い。データは未公表ながら30km/hからの加速タイムや0→400m加速はNMAXと同等かそれ以上とのことだ。
それにしてもE01は静かだ。40km/h走行時の騒音は58dBとのこと。これは銀行の窓口周辺や博物館の館内レベル! NMAXと比較すると約10dBも静かだ。
ドシャ降りでの試乗だったが、接地感があり、安心感は高かった。エンジン音がないため、周囲の音がよく聞こえ、運転に集中できるのも新感覚。
ハンドリングもいい。
スポーツモデルと同様に、前後重量バランス50:50を実現。前後タイヤにしっかり接地感がある上にトラクションコントロールも相まって、ウエット路面でも安心だ。コーナーではリヤが路面を蹴る感覚を伴ったまま、スッと曲がれる。
また、ユニットスイングでリヤが重いTMAXと異なり、リヤの動きも軽い。こうしたこだわりは、さすがハンドリングのヤマハだ。
筆者は2002年発売の電動パッソルに試乗した経験があるが、E01のパワフルさと車体の完成度に時代の流れを感じた。
ただしバッテリーが30kgあるため、車重は158kg。NMAXの131kgより27kgもヘビーだ。切り返しやバンク中に車体の重さを感じる場面があり、125クラスとすれば重い。ただし単体で乗ればさほど不満はないレベルだろう。
3段階のパワーモードやリバース機能まで完備したミニTMAX?
なおE01はモードが3種類あり、体感ではかなり異なる。
上記は最も力強い「PWR」(パワフル)の試乗で、最大トルクのみ減少する「STD」は加速感がやや大人しい。
最高出力とトルクがよりダウンし、最高速を60km/hに抑えられる「ECO」は非常にマイルドだ。試乗時のようなウエット路面や、住宅地を走る際などはECOでも十分だろう。
E01はクラッチがない上に、最大トルクを瞬時に発生できるモーターの特性上、ダイレクトに加速できる。
わずか1950rpmで最大トルクを発生。3500rpm以上ではフラットに最高出力を発生し続ける。トルクバンドが狭く、ミッションが必要な内燃機関とは特性が大きく異なる。
プロジェクトリーダーの丸尾氏によると、「通勤通学向けに扱いやすさを追求するため、ほとんどが専用設計になりました」という。その結果、「ミニTMAXのような運動性能を手に入れました。ワインディングを走っても楽しい」と述べる。
また後退機能があるのもポイント。左手元のスイッチを押しながら、右手のMODEボタンを押すと1km/hで後退できる。車重の重さをこれでカバーできるのだ。
メーター上部のインジケーターが緑になれば発進可能。メーターは縦型配置で、視線移動が少ないデザイン。バッテリー残量は大きく表示され、10段階式のバータイプとしている。
前後サスは新設計。FフォークはNMAXのφ30mmから33mmに大径化した。前後アクスルシャフトのカバーは、デザイン的に「油臭さを消す」のが目的。
電動バイクはシート下スペースがバッテリーで塞がっている場合が多いが、E01では容量23Lを確保。フルフェイスが1固収納できる。
車体サイズはほぼ125ccクラスのスクーターと同様。少しだけ大柄で、ゆったりしたライディングポジションが取れる。
ライダーは身長171cm&体重56kg。両足のかかとまでしっかり接地する。低重心設計のため、フラつきにくいのもいい。
急速充電なら約1時間、家庭なら最短5時間で充電できる
全体的にE01の走りは素晴らしい。排気音と振動が勇ましいものの、パワフルさやレスポンスに劣るNMAXが時代遅れに感じてしまうほどE01の走りは先進的だ。
しかし電動バイクは、価格や充電環境などの問題が山積されている。その点はどうか。
まず価格に関しては、テストモデルなので未公表。充電に関しては、通勤のように乗る時間帯が決まっていれば何とかなりそうだ。
充電方法は3種類用あり、車両に付属するポータブル充電器を使えば家庭用100V電源で充電可能。0%から満充電まで14時間かかる。
より高速に充電したい場合は、住宅向けの設備(要200V電源)も選択可能。こちらは5時間で満充電となるが、別途機器設置工事&撤去費に約13万円、月額費用1000円がかかる。
そして急速充電器なら1時間で90%まで充電可能(90%以上の充電は不可)。なお、コネクターは独自規格で、既存の電動自動車向け設備は使用できない。これは四輪用だと電流が大きすぎるのとコネクターが大型化してしまうことが理由とのことだが、四輪用と統一してほしかったというのが本音だ。
メットインスペースに収まるポータブル式の100V充電器が付属。フロントのカバーを開くと給電口が出現する
専用の急速充電器なら1時間で90%まで充電できる。現在のところ5~10か所程度の設置を予定しているが、詳細は調整中という。
今後もリースを検討中、まだ乗れる可能性がある
E01の市販予定はなく、将来の二輪電動化に向けて、様々な課題を浮き彫りにするために開発された実証試験用モデル。現状のエンジン車と比較し、利便性や価格、充電方式など“生の声”を得るべく、世界6地域で実証実験を行う。
国内では2022年5月にリース参加者を募集し、7月から3か月間の期間限定でE01を貸し出す。月額料金は2万円(保険料込み)。リース終了後は車両を返却する必要がある。
今からでも乗れないわけではなく、2回目以降のリースも検討中とのこと。気になった人は、ヤマハのHPなどを注目しておこう。
E01の開発陣。中央で車両に手を掛けているのが、プロジェクトリーダー(PL)の丸尾卓也氏だ
PLの丸尾氏は、「将来的に電動バイクを皆さんのお手元にたくさん届けられるアプローチを検討中です。一般販売のほか、シェアリングを含め、EVのいい面を利用できる世の中にしていきたい」と語る。
筆者もE01を体験して、十分実用レベルにあると感じた。しかし現在は出先での充電インフラが限られ、固定式バッテリーだと家庭で充電できる環境が限られてしまう。
こうした問題点をクリアするのは困難だろうが、製品自体は非常に魅力的。大型バイクはガソリン車でいいと個人的には思うが、E01のような優れた電動コミューターが普及するのは喜ばしいことだ。
静かでパワフルな乗り味が気に入った筆者。リースに申し込もうと思ったが、賃貸マンションで駐車場に充電設備がないので断念した……。
【E01主要諸元】
全長/全幅/全高:1,930m/740mm/1,230mm
シート高:755mm
軸間距離:1,380mm
最低地上高:140mm
車両重量(バッテリー装着):158kg
定格出力:0.98kW
最高出力:11ps/5000rpm
最大トルク:3.1kg-m/1950rpm
キャスター/トレール:26°30′/90mm
Fタイヤ:110/70-13
Rタイヤ:130/70-13
乗車定員:2名
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投稿者プロフィール
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ふだんフリーランスとして、主にバイク雑誌の編集やライターをしている沼尾です。
1989年に2輪免許を取得し、いまだにバイクほどオモシロイ乗り物はないと思い続けています。フレッシュな執筆陣に交じって、いささか加齢臭が漂っておりますが、いい記事を書きたいと思っているので、ご容赦ください。趣味はユーラシア大陸横断や小説など。よろしくお願いします。