最近の新型車には2気筒エンジンを採用した車種が目立ちませんか?2気筒と聞いて思い浮かぶのはどんなイメージでしょうか。4気筒に比べて安価で初心者向けといったイメージも根強くありますが、一方で趣味性の高いマニアックなエンジンというイメージもあります。そんな多彩な面を持った2気筒エンジンについて、思い返してみればほとんどの期間、1台は2気筒の車両を所有していたことのある私がお話していきましょう。
2気筒エンジンの誕生
もともと多くのバイクは自転車に単気筒エンジンを取り付けたようなシンプルなものから発展しています。しかしやがて、そんなシンプルだったバイクのエンジンを、どうにかしてもっとパワーのあるものにできないかと探求をはじめます。パワーを増やす簡単な方法は排気量の拡大ですが、大きなクランクシャフトやピストンはどちらも部品が重くなり、強度や振動の対策が必要になるわりにはあまり速くならないという悩みを抱えた結果、もうワンセット、シリンダーから上の部品を追加してしまおうという発想から2気筒エンジンは生まれました。
その後、3気筒、4気筒エンジンが生まれていきましたが、必ずしも気筒数が多ければ全ての面において優れているわけではなかったため、それそれの気筒数の特徴を生かし、独自に進化しているのが現在の状況です。
2気筒を選ぶメリットは?
2気筒エンジンの特徴をごく簡単に表現すれば、単気筒よりも滑らかでパワフル、4気筒よりも軽量でコンパクト。
単気筒の倍、4気筒の半分の気筒数ですから、特性としても単気筒と4気筒の中間と言ってそれほど外れていません。しかし、そもそも単気筒と4気筒ではかなり特性が違いますので、その中間といっても様々な特性が存在することになります。単気筒寄りの特性を持った2気筒、4気筒寄りの特性を持った2気筒では、同じ2気筒でも全く違う特性のエンジンになります。自分の求める特性を持ったエンジンを探し出すことができるのが2気筒エンジンを選ぶメリットのひとつです。
また、1000ccオーバーの大排気量となると単気筒はそもそも選択肢が無く、2気筒ならば排気量を気にせずに車種を選べるのもメリットでしょう。
V型2気筒は難しい?
2気筒エンジンはシリンダーの配置によって、大きくV型と並列に分けられ、V型はシリンダー同士のバンク角によって90度Vや45度Vなどと表されます。水平対向もV型の一種、180度Vという形式となります。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、今回はV型エンジン独特の難しさをいくつかお話しましょう。
シリンダーのレイアウト上、横置きの場合は幅を狭く、縦置きの場合は前後長を短くすることができるのがV型2気筒のメリットです。
そのためエンジン、トランスミッションの前後長がホイールベースの長さに直結してしまう縦置きエンジンの場合、V型が採用されることが多い傾向ですね。
しかし幅を狭く、もしくは前後長を短くできる代償として、クランクケース容積が少なくなってしまうことがV型2気筒のデメリットとなります。
シリンダー内でピストンが下降する際、それまでその空間にあったクランクケース内の空気はピストンによって圧縮されることになります。せっかく燃焼によって発生したパワーが空気を圧縮する力に消費されてしまうわけです。
同時にもうひとつのピストンが上昇するため、クランクケース内の空気はそれによって広がった空間に逃げることができるのですが、高回転時には空気の移動よりピストンが下降する速度のほうが速いため、どうしても空気を圧縮してしまいパワーロスが大きくなります。しかしクランクケース容積が大きければピストンに押された空気の逃げ場が多いため、空気を圧縮してしまうことによるロスを少なくすることができます。クランクケース容積を大きく稼げないV型2気筒は、この点で構造的な不利を抱えています。
V型2気筒の中でもこの点で最も不利なレイアウトは180度Vの180度位相クランク、水平対向のボクサーエンジンです。お互いのピストンが振動を打ち消す方向へ動くため振動に対しては有利ですが、対向するピストンが同時にクランクケース内の空気を圧縮する方向に動くために空気の逃げ場が無く、パワーロスが避けられません。
クランクケース内の圧力上昇の対策はMotoGPのエンジンでも重視されていますし、最近では市販車でも様々な方法で対策が取られています。しかし持って生まれた特性は完全に解消しきれず、どうしても不利な点として残ることが多くなっています。
ただし、だからといってエンジンの出力が並列に劣るかと言えばそんなことは決して無いのが面白いところです。むしろ出力よりもコントロール性、フィーリングの面で難しさを抱えることが多いのですが、それさえも乗りこなす面白さにつながってしまうのがバイクの奥が深いところです。
この問題に対処するため、クランクケースの内圧を下げる目的のパーツも様々なものが市販されています。
ただし、最近では同じような機構を純正で採用している車種も増えているため、効果が大きく出る車種、ほとんど効果の無い車種の差が大きくなっています。
効果の大きく出る製品に関しては、クランクケース内の圧力が下がった部分にエンジンオイルが供給過多となり、その他の部分の油圧が低下した結果、長い目で見るとエンジンの寿命を短くする場合があります。
この種の製品はクランクケースからエアクリーナーボックスへのブリーザーホースに割り込ませて取り付けることになりますので、アクセルオフ時にクランクケース内を減圧するために抜かれた空気はエアクリーナーケース内を加圧することになります。そのため再度アクセルを開けたときにライダーの操作よりも多くエンジン内に空気が吸気される、いわゆるドンつきを起こす可能性があります。
バイクメーカーが純正で似たような機構を採用する場合、このような問題がおこらないよう別体としたミッションケース内に圧力を逃がす、ドライサンプのオイルタンクに圧力を逃がす等の対策を講じることが多くなっています。
アクセルオフ時のクランクケース内の圧力が少なくなるということは回転抵抗が減り、エンジンブレーキが弱くなる効果も表れます。ブレーキシステムの負担が増える可能性も考慮の上で装着を検討してください。
製品によっては清掃等、定期的なメンテナンスが必要となるものもありますので、使用の際は注意が必要です。
また、取り付けは一見簡単に見えますが、バルブの取り付け方向を間違えるとクランクケース内を加圧してしまい、エンジンブローに直結しますが、向きを間違えても取り付けられてしまうため、間違いに気づきにくいという難しさがあります。過去にこのケースで大事故も起きています。取り付けは信頼できるプロに任せることを強く推奨します。
効果が大きい製品はデメリットも多く、デメリットが少ない製品は効果も少ないという、車種と製品の組み合わせにノウハウの必要な扱いの難しいパーツでもあります。性能向上よりもエンジンブレーキや振動などのフィーリングを好みに合わせるためのパーツと考えて使用したほうが良いでしょう。効果の大きさが何タイプか設定されている製品が多くなっていますので、ノウハウのあるお店と相談しながら製品を選ぶことをお勧めします。
並列2気筒は安っぽい?
V型2気筒に比べ、幅は多少広くなりますが、シンプルに造ることができるのが並列2気筒です。シリンダーヘッドやカムシャフトなどの部品はワンセットだけ造ればよく、部品点数が少なくなることによるコストを削減でき、組み立て工程でもシリンダーから上の組み立てを2度繰り返さなくてよいためコスト的に有利になります。比較的安価な設定になることの多い並列2気筒ですが、これは無駄なコストが抑えられた結果であり、安価=安物ではありません。
さらにもうひとつ。横置きV型2気筒のメリットは幅を狭くできることで、実際に単気筒とほぼ同じ幅に収めることも可能ですが、それは単気筒と同じ容量のトランスミッションしか使用することができないということでもあります。
横置きエンジンのトランスミッションは、横に並んだたくさんのギヤによって構成されていますが、エンジン幅が狭くなるということはトランスミッションを構成するギヤ1枚1枚の厚みが確保できず、強度的に不利な条件を抱えることになります。簡単に言えば単気筒のミッションで2気筒のパワーを受け止めなければならないことになりますね。これは段数が多くなるほどギヤ1枚当たりの幅が狭くなるため、さらに条件が厳しくなります。並列2気筒はクランクケース幅が多少広くなることが逆にトランスミッションの容量に余裕を生むこととなり、V型2気筒よりこの点で有利となります。
燃焼間隔からみる特性の違い
並列2気筒は360度クランクと180度クランクが主流でしたが、近年は270度クランクも人気です。その理由は並列エンジンで90度V360度クランクと同じ燃焼間隔を作り出せるところにあります。なぜわざわざそんなことをするのかというと、燃焼が不等間隔のV型エンジンのほうがトラクション性能に優れるという特徴があるからです。これは単気筒の解説でお話したクランクシャフトの回転速度の変化が理由です。
不等間隔で燃焼が起こると、例え同じ回転数でもクランクシャフトの回転速度の速い部分と遅い部分の差が大きくなります。
例えばリアタイヤがグリップを失った場合、同じ回転数のままでもクランクシャフトの回転速度が遅くなった部分で勝手にタイヤのグリップが回復してくれたりします。
リアタイヤが急激にグリップを失うことを防止すると共に、ライダーにコントロールを行う時間的余裕を与えることがトラクション性能の良さと表現されます。
この不等間隔燃焼のトラクションの良さはオンロードでも武器になりますが、オフロードでは絶大な効果を発揮します。かつてハーレーダビットソンのXR750がダートトラックで無敵を誇ったのもこの効果を有効に生かした結果です。
しかし不等間隔が全てにおいて性能的に優れているわけではなく、等間隔燃焼には高回転での振動の少ないため、重たいバランサーを駆動するロスが少なくて済むなど、それぞれに違った利点があります。現在はこの燃焼間隔の違いによる特性の違いを有効に使い、各メーカーが様々な乗り味のエンジンを開発しています。
まとめ
2気筒エンジンにはひと括りでは解説しきれないほど形式にバリエーションがあります。そのメリット・デメリットは様々、とても全てをお話することはできませんので、今回は解説されることの少ない特徴をメインにお話してみました。
2気筒の乗り味は形式と同様、正確なところは乗ってみるまでわからない、というほどバリエーションに富んでいます。同じ形式だから似たような乗り味かといえばそうとも限りません。エンジンってそんな単純なものではありませんからね。
比較的軽量で扱いやすく、価格が抑えやすい上に様々な乗り味を作り出すことができる2気筒の魅力が見直され、各メーカーが力を入れているのも理解できると思います。
エンジンの形式にこだわらず、理想の乗り味を求めていたら結果的に2気筒にたどり着いた、なんていうベテランライダーが意外と多いのも2気筒の魅力を表していると思います。
そしてそのたどり着いた理想の2気筒がライダーによって様々な車種だったりするのがさらに面白いところですね。
モトコネクトでは元車両開発関係者のNTMworksさんの様々なバイクに関する記事が公開されているので、ぜひチェックして見て下さい!
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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