引用元:ビモータ公式サイト(https://www.bimota.jp/contents/models/tesi3dn/)

コラム 知識

【元車両開発関係者が解説】特殊なフレーム構造のメリットと狙いとは

バイクのフレームにはいろいろな形式があります。完成車の状態ではそれほど見た目に違いはありませんが、全ての部品を取り外してフレーム単体にすると、その形状は驚くほど個性豊かです。
エンジンの付いた自転車の時代から現代のバイクに至るまで、並べて比べるとその進化が明確に見えて面白いものです。
しかし、その進化の系統から外れたところにあるちょっと変わったフレームもあります。オーソドックスな手法を良しとしない開発者の心意気が強烈な個性を放つ、今回はそんな変り種フレームの一部を解説してみましょう。

モノコックフレーム

まずはモノコックフレーム。特殊な形式の中では比較的耳にすることが多い形式だと思いますが、実はこの形式、定義はかなり曖昧です。
もとはフランス語の造語でひとつの殻(貝殻)、という言葉がモノコックの意味です。これが英語になるとフレームレス日本語になると応力外皮構造などと呼ばれたりします。言語が変わると微妙に意味が変わってしまうのが定義を難しくしている原因でしょう。

この中で応力外皮構造、外装部品がフレームを兼ねる構造に挑戦したのが79年にWGP500クラスに参戦した HONDA NR500です。楕円ピストンで有名なNRですが、参戦初年度はフレームも革新的なものでした。カウルフレームを兼ね、エンジンやその他の部品がカウルに直接取り付けられるという驚きの構造です。フレームが存在しないことによって軽量化が可能なことは間違いありませんが、たった1年で通常のフレーム構造に変更されてしまいました。主に整備性が問題となったようですが、冷却性や転倒時の修復などにも問題がありそうですね。

右の写真がフレーム単体です。通常のフレームとはかけ離れた形状をしていますね。

この応力外皮構造で最も成功しているのがべスパでしょう。市販車の場合は、フレームが存在しなくなることによるコストダウン、構造の簡素化によるトラブル発生率の低減などがこの構造のメリットです。反面、部品交換による部分的な修理が難しいなど一長一短ではありますが、何十年も独自の信念を貫いているぺスパは凄いですよね。

そしてメーカー自身モノコックとは呼びませんが、応力外皮構造という視点で見ればセミモノコックと言えなくも無いのがホンダのスーパーカブです。最新型は独立したフレームを持つ構造となりましたが、生誕以来永きに渡り、フレーム前半はパイプ構造、後半は外装を兼ねたプレス材のモナカ合わせという構造を採用し続けました。この独自の構造を何十年も前に完成させ、日本を代表する車種に育て上げたホンダは本当に凄いですね。

ホンダ スーパーカブC100 フレーム単体は右図のような形状です。

また、メーカーがモノコックフレームと公称しているものに、カワサキのZX-12RからZX-14R、ZZR1400と続いたフレームがあります。ただし、このフレームは応力外皮構造ではなく、モノコックの定義をフランス語のひとつの殻という解釈でとらえたものとなります。構造的にはモノコック、形状的に見ればバックボーンフレームと解釈できるフレームです。

モノコックフレームが構造的に抱える問題点は、軽量、高強度は実現できるのですが、狙い通りのたわみかたを作り出しにくい点です。剛性バランスに重点を置く現在のフレーム開発においては、なかなか採用されにくい形式となっています。

プレスバックボーンフレー

ホンダがCS90やCL70、SS 、CDなど膨大な車種に採用したプレスバックボーンフレームも、モノコックと言えなくも無い構造です。プレス成型された板材をモナカ合わせに溶接することで構成されるプレスバックボーンフレームは、メーカーはモノコックと呼称してはいませんが、これこそ元となったフランス語、ひとつの殻を正確に体現したモノコックフレームではないでしょうか。

ホンダ ベンリィ50Sのフレーム単体は右図のような形状です。

オメガフレー

通常のテレスコピック式ではなく、スイングアーム式のフロントサスペンションを持つ車種に、オメガフレームと呼ばれるフレーム形状が採用されることがあります。
正式にはヤマハGTS1000のフレームの名称ですが、それより以前に市販された、テージ1Dに始まるビモータのテージシリーズなども同様の形状を持ちます。

スイングアーム式のフロントサスペンションを採用することによって、ステムの支持剛性が必要無くなり、フロントサスペンションとリアサスペンション、エンジンを直接結ぶことによって独特のフレーム形状となっています。操舵機能サスペンション機能が分離した構造であるため、ハンドルの支持部は最低限の強度を確保したサブフレームとなっていることが特徴です。

左:BIMOTA TESI 1D 引用元:ウィキペディア 右:YAMAHA GTS1000 引用元:バイクの系譜

スイングアーム式のフロントサスペンションをもつ車種は、構造が全く違うために通常の車種と乗り味が異なる場合が多く、なかなか受け入れられるのが難しいのが現実です。
バイクメーカーは適切な乗り方のPRまで含めて販売することが必要となるのですが、このあたりが不得意なメーカーが多いことが普及を妨げる要因のひとつともなっています。

ピボットレスフレー

一見すると普通のフレームに見えますが、フレームにはスイングアームを取り付けるピボットが存在しておらず、エンジンに取り付けられたサブフレームや、エンジンそのものにスイングアームが取り付けられているのがピボットレスフレームです。フレーム剛性スイングアームの取り付け剛性を分離して設計することができるメリットがあります。一時期はCBR929/954RR、VTR1000F、VFR800Fなど、ホンダが積極的に採用していましたが、現在はほとんど採用されていません。

エンジンを降ろしての修理といった大規模な作業が必要になった際、エンジンからフレームやスイングアームを取り外し、車体をバラバラにする大作業になるという、実は結構バイク屋さん泣かせなフレーム形式です。

CBR954RR 引用元:ホンダ公式サイト

ピボットレスフレームではフレーム自体の長さが短いため、たわむ量を確保することが難しくなります。これがたわませて曲げる考え方が主流の現在では、採用されることが少ない形式になりつつある要因です。

フームレス

特殊もなにも、フレームと呼べるものが存在しないのがフレームレス構造です。

ピボットレスフレームはホンダだけではなく、多くのメーカーが採用してきました。そのメーカーのひとつがドゥカティです。
2009年のMotoGPに登場したデスモセディチGP9は、ピボットレスフレームを極限までコンパクト化した結果、フレームを兼ねたエアクリーナーボックスに、ステムの取り付け基部であるヘッドパイプを一体化してエンジンに取り付けることによって、フレームと呼べる部品が存在しなくなりました。フレームが存在しないわけですから、軽量化には圧倒的な利点がありますが、フレーム剛性のコントロールができなくなります。なにしろフレームが存在しないわけですから。そんなデメリットからMotoGPではすぐに姿を消し、通常のアルミフレームが採用されました。しかし現在でも市販車ではパニガーレV2やスーパーレジェーラV4などにこの構造を発展させたフレームが採用されています。

ドゥカティ デスモセディチGP9 引用元左:motoGP公式サイト 右:NEWS ATLAS

また、フロントにスイングアーム式のサスペンションを採用した車種で、フロントサスペンションとリアサスペンションを別々にエンジンに取り付けることにより、フレームと呼べるものが存在しないELF-eのような車種もありました。しかしこの形式はサスペンション基部の剛性確保が難しく、この問題を解消することがオメガフレームの誕生へとつながっています。

ELF-e 引用元: BAD TOYS FOR SPEED

まとめ

変わったフレームを持つ車種はまだたくさんありますが、今回はこのあたりにしておきましょう。
現在のフレーム開発は、軽量化や高剛性化よりもバランスのよいフレーム剛性が重視されています。

フレーム剛性とは、極論すれば横方向へ可動する基部のヘッドパイプと、縦方向へ可動する基部のスイングアームピボットの位置関係を、どんな状況どの方向どれくらい本来の位置からずらすか、ということになります。
そのために縦方向、横方向、ねじり方向の剛性を適度にバランスさせ、狙い通りのずれを作り出しやすいフレーム形式が多数派となっています。

しかし、これまでもフレーム開発のトレンドは変化し続けてきましたから、今後は現在とは求められるものが変わっていくかもしれません。そのときには今までは主流にならなかったフレーム形式が脚光を浴びるかもしれませんし、想像もしなかったフレーム形式が開発されるかもしれません。
フレームを含めたバイクの進化はまだまだ続いています。これからどんな開発のトレンドが生まれ、どんなフレームを持ったバイクが誕生するのか、楽しみで目が離せませんね。

なお、現在主流のアルミフレームと鉄フレームの特徴や、フレームの剛性・しなりといった事はこちらの記事でも説明しています。よろしければ併せてお読みください。

 

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    NTMworks

    長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

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