度重なる延期を経て、ついに2022 年5月27日、『トップガン マーヴェリック』が公開された。前作の「トップガン」が公開されたのは1986 年。当時を知るオヤジには、まさに感涙ものの続編となっている。カワサキGPZ900R の大ブームに貢献した映画だけに、新作でバイクの出番がどうなっているのか気になるところ。さっそく劇場で鑑賞してきた!
※冒頭部分やバイクに関するネタバレが少々あります。また、前作の内容に触れています。
『トップガン マーヴェリック』 ■2022年5月27日(金)公開 ■コピーライト:© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved. ■配給:東和ピクチャーズ
36年ぶりでも最初からテンション全開で『トップガン』だ
冒頭から胸が昂まる。
「トップガンアンセム」と呼ばれる鐘の音のBGM。そして黒地に白文字でトップガン設立の経緯が説明され、タイトルバックが静かに映し出される。場面は、オレンジ色の逆光が注ぐ甲板に移り、轟音とともに戦闘機が飛び立つ。厳かな雰囲気から一転、大気を切り裂く戦闘機のような「Danger Zone」が鳴り響く。
――驚くべきことに、新作も前作と同様のシーンからスタートする。
こうしたセルフオマージュ(前作ファンへの 接待 とも?)があちこちに散りばめられているのがたまらない。
……知らない人には何のことやら、だろうが、1971 年生まれでトップガンを青春時代に見た筆者にとって、36年ぶりの続編を冷静に語ることは難しいようだ(笑)。
まずは『トップガン』の説明をしよう。
1986 年(昭和61年)に公開された第1作『トップガン』は、米軍航空戦パイロットのエリート養成学校(通称トップガン)を舞台に、エースパイロット候補生の光と影を描き、1986 年の全米興行成績1位、ならびに日本で洋画の興業成績1位を記録した。
その人気はまさに社会現象で、トム・クルーズ演じる主人公の マーヴェリック が着用していたフライトジャケットやサングラスをマネして購入した人も多かった。そして、主人公の愛車であるGPZ900R も国内を中心に大きくセールスを伸ばすことになったのだ。
GPZ900R の詳細は当web の別記事に譲りたいが、当時の世界最速機で、現代に続くスポーツバイクの称号「Ninja」の栄えある初代である。
ちなみに筆者もトップガンに憧れた一人。劇場ではなく、後にレンタルビデオ(VHS!)で鑑賞した。1990年代にGPZ900R ではなく、後継機のZX-10 を中古で購入することになるわけだけど、確実にトップガンの影響があると思う。ちなみにZX-10 北米仕様のペットネームは トムキャット 。前作の『トップガン』に出てくる戦闘機F-14トムキャットと同じペットネームが与えられている。
近所のシネコンで視聴。Ninjaではないものの、一応カワサキで行くのが礼儀だと思い、D-トラッカーを出動させた。観客は平日だったせいか、60代程度の年輩の方が多かった。
進化した戦闘機アクション、一方でバイクの登場シーンは!?
さて、第2作の『トップガン マーヴェリック』である。舞台は現代。主人公のマーヴェリック(トム・クルーズ)は今だ現役。史上最高のパイロットとして名高いものの、昇進を拒み、大佐に留まっている。
そんな彼がトップガンの教官として赴任。ある困難なミッションを実現するため、若き新世代トップガンの面々を教育することになる。その中にはかつての相棒で飛行中に命を落としたグースの息子の姿が……というのが本作のストーリーである。
予告映像では覆われたシートからGPZ900R が姿を現す場面があり、現代のNinja である「Ninja H2 Carbon」での疾走シーンもある。
主演はもちろんトム・クルーズ。前作公開時は26歳で甘いマスクが魅力だったが、59歳の現在は渋みを増した。自らスタントもこなし、まさにハリウッドを支えるスターの一人だ。
視聴後、戦闘機アクションの映像美こそ本作の白眉であると強く思った。実際の戦闘機F/A-18 に俳優が乗り込み、1台に6台ものIMAXカメラを搭載して撮影した臨場感とスピード感、そして音響は、前作より確実に迫力を増している。トム・クルーズが来日会見で「映画館で身を乗り出すようにして観てほしい」と語ったが、まさしく映画館で観るべき映画だ。ただし、単純なアクション映画に収まらない深みがあることも付け加えておきたい。
景色が右に左に傾く(時に天地が逆転する)映像はまるでモトGPなどの車載映像にも通じ、ライダーならより楽しめるはずだ。
肝心のバイク登場シーンは、残念ながら前作より回数も時間も少ない(厳密に計算していないが、合計1分少々だろう)。
前作で登場したGPZ900R は年月に応じた外観となり、早々に登場。そしてトップガンに赴任する際、予告映像のとおりNinja H2 で滑走路の戦闘機と併走するという前作のオマージュシーンがある。H2 は市販版と若干カラーリングが異なり、クローズドコース用であるNinja H2R のマフラーが装着されていた。そしてH2は一人乗りながら前作同様タンデムのシーンも! ちなみに相変わらずノーヘルだが、今もアメリカはノーヘルが合法の州がある。
その後、H2 は2回ほど登場。前作と同じく主人公のプライベートな移動シーンで出てくる。またラストのガレージにも少しバイクが登場するのでお見逃しなく。
前作で主人公の愛車として活躍したGPZ900R。デビューした1984年当時の世界最速機だ。写真は900では比較的カラーが似ている’85北米仕様のA2。新作では、冒頭で勇姿を魅せた後、Ninja H2が愛車として登場してくる。
Ninja H2は世界初のスーパーチャージドバイクとして2015年デビュー。2019年型で最高出力が200→231psにまでアップし、名実ともに最強バイクとして君臨した。映画の撮影中は現行モデルだったが、2021年型で殿堂入り。
ついに全面協力、エンドクレジットにkawasakiの文字が!
前作のGPZ は使われた方が印象的だった。グース亡き後、挫折したマーヴェリックがGPZ にまたがって遠く滑走路を眺めるシーンがあった。新作ではタンデムはあれど、このように主人公の心情とバイクが寄り添うシーンが少ない。主役メカは戦闘機とはいえ、贅沢を言えばもう少しバイクを効果的に使ってほしかったというのが本音。かなり内容を詰め込んだため、尺が足りなかったのかもしれない。
一方で嬉しかったのがエンドロールの「Kawasaki Motors Corp,USA」というクレジット。
前作ではカワサキから協力を得られず、GPZ からメーカー名や排気量を消す事態となったが、今回は堂々と協力している。一説ではNinja H2 Carbon を4台、レストアしたGPZ900R を2台提供したという。
視聴後、バイク好きで有名なトム様だけに、いずれバイク映画を撮ってもらいたい! と思った次第だ。
リアル寄りの前作に対し、新作は『M:I』風味が強めに?
ストーリーに関しては詳しく触れないが、冒頭で述べたように前作をなぞったシーンを時折挟みつつ、同じくトム・クルーズが主演&制作を務める「ミッション:インポッシブル」(M:I)的な成分が濃厚に加わっている。話の中心にM:Iを思わせる作戦があり、全体の構成としてトップガン成分の割合が6~6.5、ミッション:インポッシブル成分は4~3.5 ぐらい、と筆者は感じた。
前作では、背面飛行で敵パイロットの写真を撮ったり、美人教官とのロマンスはあったものの、わりと現実味のある内容だった。対して新作は現実離れしたハリウッド大作寄りのストーリーだ。しかし、これは決して悪くない。ド派手な展開とそこから導かれた結末は、視聴後に幸せな気分をもたらしてくれた。逆の映画が筆者の好みではあるのだけど、世相が世相だけにこういった映画は望ましいと思う。
グースの息子であるルースターとマーヴェリックの関係も見もの。前作のグースに似ているマイルズ・テラーが演じる。
個人的にいくつか気になった点も書き留めておきたい。
ヒロインは ペニー という役で、前作と関係があるらしいが、視聴中は誰なのかサッパリわからず引っかかっていた。視聴後に前作を見直してみると、名前だけ出ていた人物と判明。私と同様に「誰?」と思った人はかなり多いはずだ。なお、前作のヒロインだった教官チャーリー(ケリー・マクギリス)は登場しないが、ロマンスのてん末に少しは触れて欲しかった。
また、世間ではAIや自動運転が徐々に普及しているが、この流れは戦闘機においても同様。しかし本作では人間の操縦と人間同士の関係というアナログにこだわっており、現代に対するアンチテーゼでもあると感じた。この辺はバイク乗りなら特に共感出来る部分だろう。また、CG全盛の映画界に対する風刺も込められているのかもしれない。
凡百のハリウッド大作と一味違う、歳月の「深み」が味わえる
36年ぶりの続編は、注文もあるとはいえ、簡潔に言えば「面白かった!」の一言。理解しやすいドラマと怒濤のアクションがあり、前作を見なくても楽しめるとは思う。だが、前作を知っていれば深みが数十倍に増す。
主人公マーヴェリックが経てきた歳月、今年60歳を迎えるトム・クルーズという俳優が積み重ねてきた歳月の重みに思いをめぐらすことができるからだ。そして前作を観たオールドファンなら、鑑賞した当時から現在までに流れた自らの年輪を想起せずにはいられない。さらに、昔ながらのバイク乗りなら、マーヴェリックの愛車がGPZ900R からNinjaH2 へと変わったことに、過ぎ去った時をリアルに感じ取れるはずだ。
時間は戦闘機のようにマッハ並みの速度で過ぎ去る。しかし『トップガン マーヴェリック』は第1作から数年で作られる続編と違い、大事に大事に暖められてきた。それゆえに多層的な時の重みを内在し、アクション大作に収まりきらない映画になっているのだ。
投稿者プロフィール
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ふだんフリーランスとして、主にバイク雑誌の編集やライターをしている沼尾です。
1989年に2輪免許を取得し、いまだにバイクほどオモシロイ乗り物はないと思い続けています。フレッシュな執筆陣に交じって、いささか加齢臭が漂っておりますが、いい記事を書きたいと思っているので、ご容赦ください。趣味はユーラシア大陸横断や小説など。よろしくお願いします。