皆さん、納車警察って聞いたことありますか?「納車した!」と喜びを表現すると、「『納車された』だろ!」と呼ばれてもいないのに突っかかってくる面倒臭いオジサン(偏見です)がいる、という話題を定期的に耳にします。この面倒臭いオジサン(偏見)のことを納車警察と言うそうです。
彼らいわく、「納車するのはバイク屋の仕事だ!オマエはバイク屋か?」ということらしいです。この言い分、一見筋が通っているようですが、本当に正しいのでしょうか?
今回は元開発とかは関係なく、単に業界歴の長いベテランとして、面倒なオジサン(偏見)の屁理屈を撃退するための、さらに面倒臭い屁理屈のご紹介です。
本当は変な人には関わらないでスルーしたほうが幸せですけどね。
そもそも納車ってなに?
新車や中古車を購入した際、バイク屋さんが自宅まで車両を持ってきてくれること、これが納車というイベントです。
何かの業者が商品を販売する場合、注文があった商品をお客様にお届けすることを納品と言いますよね。それと同じ使い方をする言葉です。届けるのは業者側、届けられるのは客側なので、「納車した」は間違い、というのは一見筋が通っているように見えます。
しかし現在はバイクをお店で購入した場合は、納車をしてもらうより購入者がお店に車両を引き取りに行くことが一般的です。
これは厳密に言うと業務として有償で車両を運送するためには運送業としての認可が必要になるという理由からです。じゃあ無料なら問題ないのかとか、出張料など他の名目ならいいのかなど突き詰めていくと法的にグレーな部分が多いのですが、そもそもグレーな時点であまり関わりたくないという理由で納車というイベントを避けるバイク屋さんが多くなっています。人手不足など他の理由もありますけどね。
もちろん納車をしてくれるお店もありますが、自宅と店舗の距離があまりにも遠い、お店と長い付き合いがある、極端にサービスが良いなどの特殊な場合を除けば一般的では無くなっています。四輪では今でも納車は一般的なサービスですけどね。
どこかの店舗で購入した商品を自宅に持ち帰ることを納品とは言わないように、バイク屋さんから自分で自宅に持ち帰ることを納車とは言いません。
つまり、納車したも納車されたも、現在では納車というイベントが存在しないことが多いのでどちらも間違いである場合が大多数、ということですね。
もちろん、バイク屋さんが車両を自宅まで持ってきてくれたという最近では珍しいケースでは「納車された」が正解ですよ。
なぜ納車という言葉が使われる?
バイクを購入する場合、店舗でこれください、と言ってそのまま乗って帰れることはまずありません。
新車の場合はオーダーしてから車両がお店に届くのに時間がかかる場合がありますし、たとえ在庫があったり、展示されている中古車だったとしても登録や名義変更という事務処理が終わるまでは車両を受け取ることはできません。
ということは、バイク買ったよ!と誰かに話をしても、言われた相手は契約しただけ?お金払っただけ?と、車両が手元にあるのか無いのかすらわからないということになってしまいます。それを一言で解決する便利な言葉、それが納車です。
現在では実際に納車というイベントが無かったとしても、車両が手元に来た事をわかりやすく伝えるために、本来の意味とは別に慣例として納車という言葉が使われていることがほとんどです。
じゃあ納車整備費用ってなに?
納車という言葉が誤解される原因のひとつに、車両を購入する際の明細に記載される納車整備費用という項目の存在があるのではないでしょうか。
納車が存在しないのに納車整備ってどういうこと?納車整備があるんだから納車も存在するのが当然だよね、と思い込んでしまうのも無理はないかもしれません。
正解から解説すると、この項目の正確な言葉の意味は、納車を行っても問題無いレベルの整備をするために必要な費用の略です。納車をするための整備費用ではありません。これ、一昔前は常識だったんですが、現在はバイク屋さんでも勘違いしている人が多いようですね。
店頭での、客側からみれば引き取り、店側から見たら引き渡しを納車だと間違えているバイク屋さんが多くなっているようです。心配になったら明細書の納車整備の項目について言葉の意味を質問してみてください。正確に答えられないバイク屋さんはちょっと危険です。よくわかっていない理由で金額を請求していることになりますからね。
納車した!した?
「納車した!」この表現、見かけるようになったのはここ数年な気がします。地方によって違うかもしれませんが、少なくとも私は10年前には聞かなかった表現です。「納車された」はよく聞きましたけどね。
正確な語源はわかりませんが、おそらくインターネット特有の、わざと間違えて面白がるという文化から誰かが使い始め、何も知らない人達がそれを正解だと勘違いして真似たことから広がったと思われます。
「納車された」しか聞いたことがなかった面倒臭いオジサン達(偏見)は、聞いたことがない新しい言い回しに違和感を抱き、自分の知っている表現と違う!そんな言葉遣いは間違っている!近頃の若いもんは!フガー!となってしまうのでしょう。何十年もバイク業界にいる身としてはその気持ちもわかりますし、「納車した!」に違和感があるのは事実です。
でも、ケチつけてくる面倒臭いオジサン(偏見)の言いがかりを真に受ける必要はありません。よく考えれば「納車された」だって実際には間違いなことがほとんどなんですからね。
まとめ
知ったかぶって突っかかってくる面倒臭いオジサン(偏見)に関わってもろくなことはありませんので無視するのが一番です。そうもいかない、しつこくからんでくる超面倒臭いオジサン(偏見)には「納車ってなんだか知っていますか?」と質問してみてください。まず正確は答えられないでしょう。
それでもからまれる場合は
「注文していた新しい車両を店舗で引き取って自宅に持ち帰りましたと正確に説明するのが面倒なために納車という表現を使っただけですので、納車したでも納車されたでも実際に納車と言うイベントが無かった時点で間違いなのは承知の上での表現ですがご理解いただけていますか?」
というのが撃退法としては正解でしょう。
そもそも、言葉というのは時代の流れと共に変化していくものです。正しく意味が伝わることに重点をおいて使うことが肝心で、学校の試験でもない限り正しい言い回しにこだわりすぎること自体あまり意味がありません。
言い回しが正しいかどうかなんて国語の教科書をつくる人達にまかせておけばいいんです。そんな事にこだわっている時間があったらどんどんバイクに乗って走り回ったほうが楽しいですからね。
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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