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【元車両開発関係者が解説】性能?スタイル?ブレーキキャリパーの取り付け位置の違い

現在のバイクはディスクブレーキが主流です。ディスクブレーキはブレーキローター、ブレーキキャリパー、マスターシリンダーなどの部品で構成されています。

その中のブレーキキャリパーに注目してみると、車種によって取り付け位置が微妙に違うことに気付きます。この位置の違いに意味はあるのか?ないのか?バイク選びに影響するほど大きな問題ではありませんが、なぜ位置の違いが生まれるのか、今回は知っているとちょっとしたマメ知識として自慢できたりもする内容をお話してみたいと思います。

フロントキャリパ

フロントのキャリパーは、現在ではほとんどの車種でフロントフォークの後ろ側に取り付けられていますが、昔のバイクはフロントフォークの前側に取り付けられた車両が多く存在しました。それぞれの取り付け位置のメリット、デメリットを解説してみましょう。

冷却の問題

これは走行風が直接キャリパーに当たるフォーク前側のほうが有利です。後ろ側に取り付けられているとフォークに遮られてキャリパーに風が当たらず、冷却の面では不利になります。

キャリパーが熱を持ち過ぎるとキャリパー内のピストンが熱膨張し、キャリパー本体とのクリアランスが小さくなってピストンの動きが悪くなったり、ブレーキフルード内に気泡が混入することによってブレーキがきかなくなるベーパーロック、ブレーキパッドが熱を持ちすぎて摩擦係数が低下し、これもブレーキがきかなくなる原因であるフェード現象が起きるなど、良い事がありません。
これらの危険な状態を避けるため、フォークの前にキャリパーを配置し、積極的に走行風を当てることによってキャリパーを冷却していたのが昔のバイクです。逆に言えば、走行風を当てるくらいしかキャリパーを適切な温度にコントロールする技術が無かった時代のレイアウトだと言えますね。

重量配分の違いによる影響

キャリパーがフォークの前側にあると、コーナリング時に車体をバンクさせてハンドルがきれた状態では、キャリパーの重量はよりハンドルを切れ込ませる方向に働きます。
昔のバイクのフロントホイールは19、18インチが当たり前で、ホイール自体の直進性が高かったためにキャリパー重量の影響はそれほど大きくありませんでしたが、16インチタイヤが流行したあたりからキャリパー重量の影響が無視できなくなり、コーナリング時にハンドルを戻す方向に重量が影響するフォーク後ろ側への取り付けが主流となりました。

昔のバイクは、現在と比べ直線のうちにブレーキングを終わらせる傾向が強く、ライダーと車体を合わせた重心位置も比較的後ろ寄りでしたが、小径フロントタイヤが流行するとブレーキングはコーナリング初期とオーバーラップするようになり、重心位置も前寄りになっていきます。
こうなるとフロントブレーキの重要度はそれまでよりも増していき、フロントのディスクは大径に、キャリパーのピストン数は増加するという方向に進化していきます。

フロントタイヤの小径化は車体のクイックな動きを狙ったものでしたが、同時にクイック過ぎてハンドルが切れ込むという難点も生んでしまいました。ただでさえ切れ込みやすい状態ですので、この症状を悪化させるフォーク前側に配置されたキャリパーは次第に避けられるようになっていきます。キャリパーが大きく重くなっていった時代にはその重量の影響が見過ごせないレベルになっていたわけですね。

そしてローターの大径化やキャリパーの大型化は、熱容量の増大という副産物も同時に生み出します。体積の増加によって熱を吸収、発散しやすくなっていったため、走行風に頼らなくても冷却が問題になることは少なくなっていったのも、フォーク前側に配置されたキャリパーが淘汰されていた一因です。

整備性の違い

公道車両ではフォークの前後どちらにキャリパーが取り付けられていても、ホイール脱着時にはキャリパーは一旦取り外すのが一般的です。しかし現在の耐久レースでは特殊な機構によってホイール交換時にキャリパーを取り外すことはありません。鈴鹿8耐などの耐久レースで、一瞬でホイールを交換する魔法のような作業を見たことがある方も多いと思います。
キャリパーがフォークの前側に取り付けられている場合、ホイールは車体下方向にしか取り外せなくなりますので、この魔法のような交換作業は実現できません。高々と車体を持ち上げればキャリパーを取り外さなくてもホイールは脱着できますが、あまり現実的ではありませんよね。そのため、耐久レースでは自然とキャリパーはフォーク後ろ側に取り付けるのが当たり前になりました。

公道車両にこの耐久レース車両のイメージをフィードバックしたいというバイクメーカーの思惑も、フォーク後ろ側に配置されたブレーキキャリパーが一般化した理由でもあります。

リヤキャリパ

リヤのブレーキキャリパーの取り付け位置は、車種によってスイングアームの上側、下側のバリエーションがあります。現在では様々な理由によってスイングアームの上側に取り付けられた車種が主流となっていますが、その理由、下側に取り付けるメリットなどをお話していきましょう。

ブレーキダストの問題

ブレーキを使用すると、ブレーキローターに押し付けられることによりブレーキパッドはどんどん削れていきます。この際ローターも多少削れますが、制動力の発生にはパッドの消耗のほうが大きな要素となっています。ローター交換よりもパッド交換のほうが費用も手間も少なくてすみますので、そのように造られています。

パッドの削れた部分は細かい粉、ブレーキダストとなります。ブレーキキャリパーがスイングアームの上側に取り付けられている場合は自然とブレーキダストはキャリパーから放出されていきますが、下側に取り付けられている場合はブレーキダストがキャリパーの内部に堆積してしまいます。
ブレーキキャリパーの下側を開放しておけば堆積を防げますが、今度はタイヤが巻き上げた砂やゴミ、雨水などの異物がキャリパー下側から混入する問題が発生するため、現実的には開放するのは困難です。一部の車種で開放されている例も見られますが、どちらにしても小まめなメンテナンスが要求されるため、スイングアーム下側の配置は比較的避けられる傾向にあります。

整備性の違い

フロント同様、リヤのブレーキキャリパーの取り付け位置によって耐久レースでのホイール脱着の容易さが異なります。スイングアーム上側にブレーキキャリパーが取り付けられていると、キャリパーを取り外さない場合は車体を高く持ち上げなければならないため、耐久車両はスイングアームの下側にブレーキキャリパーが取り付けられていることが多くなっています。そのためそのイメージを強く投影した一部の車両ではブレーキキャリパーが下側に取り付けられていますが、現在では少数派となっています。

また、ブレーキキャリパーがスイングアームの下側に取り付けられている場合、ブレーキホースが無理のある取り回しになることが多く、フルードを抜き取った後の注入、そしてその後のエア抜きに難のある車種が多く、バイク屋さんに嫌がられることが多いのも少数派となった理由のひとつでしょう。

まとめ

あまり触れられませんでしたが、オフロード車の場合、フロントは前車の巻き上げたゴミや砂の影響を受けにくいフォーク後ろ側、リヤは路面から遠ざけることができるスイングアーム上側が定番となっています。

今回は耐久レースでのお話をメインにお話しましたが、実はスプリントレースでもホイール脱着の容易さは重要です。予選中にタイヤ交換を行う場合はもちろん、レース直前での天候の急変に対応しやすいかどうかは重要な問題です。そのため、耐久、スプリント問わずレース車両のキャリパーの取り付け位置は似通ったものになっています。
ただしレース車両のホイール脱着のスピードは専用の特殊な構造があってこそな部分もありますので、市販の公道車両の場合はあくまでもそのイメージを継承しているだけ、実際には逆に作業に時間がかかってしまう構造になっている車種もあります。

フロントのキャリパー位置は現在では選びようがありませんし、厳密に言えば重心位置に多少影響があるはずのリヤキャリパーの上下位置も、乗り比べて違いがわかるほどの差はありません。

現在はほぼ定番の位置に落ち着きつつあるブレーキキャリパーの取り付け位置ではありますが、MotoGPなどのレースではブレーキに要求される性能がさらに厳しくなってきており、走行風でキャリパーを冷却するためのダクトが導入されています。
昔と比べてキャリパー自体の軽量化も進んでいますので、もしかすると冷却に優れたフォーク前側に配置されたブレーキキャリパーが復活するかもしれません。わかりませんけどね。

劇的な変化は少ないバイクのブレーキシステムですが、細かい進化は常に続いています。今後はどのような構造が登場するか、その進化から目が離せませんね。

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NTMworks

長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。 バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。 ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。 実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。 あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。

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