天気が良いのはもちろん嬉しいですが、バイクにとっても辛いもの。特に猛暑の中でのロングツーリングはオーバーヒートのリスクが高まります。
そこで今回は真夏のトラブルナンバーワン“オーバーヒート”について原因や対処法をご紹介します。
もしもオーバーヒートを起こしても、適切な対処をすれば慌てることはありません。原因と対策をしっかり理解して、安全なバイクライフを満喫しましょう。
オーバーヒートとは
オーバーヒートとはエンジンの冷却が追いつかず、想定以上にエンジンが熱くなってしまう現象をいいます。
猛暑の中でのロングツーリングや、高速道路を走行した後の渋滞など、エンジンに過度な負担がかかると発生する場合が多く、万が一オーバーヒートを起こした場合は速やかに対処をしなくてはいけません。
そのまま無理に走行を続けると、自走不能になるばかりか、最悪エンジン停止による事故の恐れもあるので“たかがオーバーヒート”と侮らずに、すぐに安全な場所にバイクを停車させることが大切です。
オーバーヒートによってエンジンは深刻なダメージを受けることがある
オーバーヒートは、エンジンが高温になることで発生します。アルミや鉄でできているエンジンは、高温状態が続くと金属が柔らかくなり、内部が変形。ピストンやシリンダーといった内部の重要部品を破壊する可能性があります。
こうなってしまうと修理は難しく、エンジンをオーバーホールするか、新しいものに載せ替えなくてはいけません。
このときの修理費は大排気量のエンジンであるほど高額になり、場合によっては程度のよい中古車と同等の費用がかかる恐れもあります。
オーバーヒートに気づいたときには、すぐ対処することが大切です。
オーバーヒートをしてしまったときにすぐにバイクを点検するのは危険
とはいえ、オーバーヒートをしたからといってすぐにバイクを点検するのはご法度。特にクーラント(冷却水)の液量を確かめようとして、高温状態でラジエーターキャップを開けてしまうと、沸騰したクーラントが一気に噴き出して大変危険です。
高温のクーラントが手や顔にかかると、間違いなくやけどをするので絶対にやめましょう。
オーバーヒートをしてしまったときはゆっくりと減速し、安全な場所にバイクを止め、素手でエンジンが触れるくらいに冷えてから点検するようにしましょう。
こんな時は要注意、オーバーヒートの予兆とは
もし発生したらとても危険なオーバーヒート。しかしこれは突然起こるものではなく、必ず何らかのサインが発生しています。
自信の愛車を守るためにも、オーバーヒートの予兆をしっかり抑えて、夏のツーリングライフを楽しんで下さいね。
ちなみに、今回は冷却水でエンジンを冷やす、“水冷式”のバイクについてご紹介しています。
走行風とエンジンオイルだけでエンジンを冷やす“空冷式”のバイクはこの方法では点検できませんのでご注意ください。
水温計が上がっている
オーバーヒートの予兆を確かめる上で最も確実なのが、メーターについた水温計を確認することです。
オーバーヒートしかけていれば、水温計の針は水平よりも上を向いています。もしレッドゾーンまで針が上がっていた場合は、確実にオーバーヒートです。
走行中に水温計を確認して「いつもより水温が高いかも?」と感じたらしばらく様子を見て走るようにしましょう。
エンジンから甘いにおいがする
水温計のついていないバイクに乗っている人は、エンジンから甘い匂いがしてきたら要注意。クーラントが沸騰しはじめています。
沸騰したクーラントが漏れてエンジンやマフラーに付くと独特の甘い匂いがします。この匂いに敏感になると、水温計がなくともオーバーヒートの予兆を察知することが出来るようになり、バイクが発しているサインを体で感じることができるでしょう。
とはいえ、今のバイクはほとんどの車種に水温計がついているので、あまり体感することはないかもしれませんね。
“甘いにおいを感じたら水温計をチェック”を忘れずにすれば、オーバーヒートに気が付かなかったということはないでしょう。
クーラント(冷却水)が漏れている
バイクに乗る前にクーラントが漏れていないか点検しましょう。
クーラントにはたいていグリーンや赤などの色がついていますので、そのような液体がバイクの下等に溜まっていた場合は要注意です。
もしクーラントが漏れていたときは冷却性能が低下しており、オーバーヒートを起こしやすくなっています。
多少の漏れやクーラントの減りはある程度やむを得ないところではありますが、水たまりができるような漏れ方や、補充してもすぐにラジエーターのサブタンクが空になるほどクーラントが減る場合は修理が必要です。
走行中に冷却水が無くなれば、確実にオーバーヒートします。
走行前には必ずクーラントの水量を確認する癖を付けておくと簡易点検もできておすすめです。
空冷式バイクの場合
空冷式バイクの場合、オーバーヒートの予兆は水冷よりも分かりにくい傾向にあります。
頻繁に乗る自分の愛車であれば「エンジンのパワーがないかも?」「なんとなく調子が悪い気がする」といった体験的な異変に気づくこともありますが、普段乗らない空冷バイクの異変に気が付くのは難しいでしょう。
しいて言えば“足元が異常に熱い”なんて症状があればオーバーヒートを疑っても良いかもしれません。
オーバーヒートをしたときの対処法
では実際にオーバーヒートをしてしまった場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。オーバーヒートを起こしたときの対処法をご紹介していきます。
くれぐれも、すぐに停車してラジエーターキャップを開けるような事はしないでくださいね。
手順①エンジンを止めて熱を冷ます
オーバーヒートを起こしたら、まずは安全な場所にバイクを停車させます。すぐにバイクを停車できない状態であった場合は、ギアを上げてエンジン回転数を下げながら走行し、安全に停車できる場所まで移動しましょう。
クーラントが入っていない状態でも、走行風が当たればある程度はエンジンを冷やすことができるので、落ち着いて対処すれば問題ありません。
無事に停車できたらしばらく放置。素手でエンジンが触れるようになるまでしばらく待ちましょう。
手順②クーラントが入っているかを確認する
エンジンが十分に冷えたらラジエーターキャップを開けて、クーラントが入っているかを確認します。規定量入っていればエンジンを再始動して、様子を見ましょう。
もし入っていなければクーラントを補充します。補充用のクーラントが手持ちにない場合は応急処置として水でも代用できるので、とにかくラジエーターを水かクーラントで満たすことが大切です。
このとき、補充したクーラントが外部に漏れだしていないかもあわせて確認するようにしましょう。
※注意:ラジエーターに水を入れた場合は必ずクーラント交換が必須です。水を長期間入れておくとラジエーター内部をサビさせ、故障の原因となります。
水を入れて応急的に走らせた後はなるべく早めにクーラントを全量新品に交換してください。
手順③エンジンを再始動して再びオーバーヒートしないか確認する
ラジエーターをクーラント、もしくは水で満たしたらエンジンを再始動してオーバーヒートをしないか確認します。
問題なければそのまま自走して修理工場へ点検を依頼しましょう。
それでもだめならレッカーを呼ぼう
“ラジエーターが破損してクーラントが漏れだしている”
“クーラントを満タンに入れたのにオーバーヒートが再発する”
こういった症状が出たら無理をせずにレッカー搬送をしましょう。無理やり自走するとエンジンを壊すばかりではなく、急停車によって身動きが取れなくなることもあるので大変危険です。
レッカーサービスは任意保険やガソリンスタンドのクレジットカード、JAF会員のサービスに付帯していますので、慌てずにレッカーを呼ぶ方法を考えましょう。
空冷式バイクの場合の対処法
こちらのバイクは基本的にエンジンを冷ます以外に対処の方法がありません。エンジンが冷えるのを待って、再び走行し、調子が悪くなければ一旦は大丈夫と判断できます。
心配であれば、レッカー搬送後にバイク屋さんで点検を受けることをおすすめします。
オーバーヒートの原因には何が考えられる?
オーバーヒートが起こる原因はさまざまです。その中でも特にメジャーな原因をいくつかピックアップしましたので、オーバーヒートに悩んでいる方は是非参考にしてみて下さいね。
クーラントの不足
オーバーヒートの原因で一番多いのが“クーラント不足”。エンジンを冷やす冷却水が入っていないことで、冷却が追い付かずにオーバーヒートを起こすパターンがほとんどです。
ただし、クーラントの量をマメに点検しているのにいつも減っている場合は、その原因を突き止めて修理しなくてはなりません。
目安としては、1か月間で何度もクーラントを補充しているような場合は根本的な解決が必要です。
アイドリングが長い
バイクのエンジンはクーラントと走行風の2つでエンジンを冷やしています。仮にクーラントが規定量入っていたとしても、アイドリングが長いと走行風が足りず、エンジンの冷却が追い付かなくなるのでオーバーヒートを起こしやすくなります。
特に炎天下でのアイドリングは水温が上がりやすく、あっという間にオーバーヒートを起こしてしまいます。
夏場のアイドリングはほどほどにするといいでしょう。
エンジンに負担がかかる走行を長く続けている
サーキットや高速道路、ワインディング道路を長く走った場合もオーバーヒートを起こすことがあります。
このパターンはバイクの故障ではなく、冷却性能の限界ともいえるので、エンジンに負担がかかる走りを多くする方はオーバーヒート対策グッズを試してみてはいかがでしょうか。
また、空冷式バイクのオーバーヒートの原因もたいていはこちらに該当します。
しかし対策グッズなどはもう販売されていませんので、上手に付き合っていくしかありませんね。
オーバーヒート対策グッズ
オーバーヒート対策グッズといっても、数多くの商品が発売されており、大きな効果が期待できるものから簡易的に試せるものまで、その種類は多様です。
今回は対策グッズの中でも、特に冷却効果が高いものを3つ厳選しましたので、オーバーヒートに悩んでいる方は是非参考にしてみて下さいね。
ワコーズ ヒートブロックプラス
まずはオーバーヒート対策として一番簡易的に試せるのが高性能クーラント。ワコーズから発売されているヒートブロックプラスは、通常のクーラントに比べて放熱性、消泡性に優れており、オーバーヒートを防いでくれます。
こちらの商品はレース用として使用しているユーザーもいるため、サーキットなどの走行会でオーバーヒートを起こしやすい車両は試してみる価値ありです。
デイトナ ラジエーターキャップ
デイトナのラジエーターキャップは、ラジエーター内の圧力を上げることでオーバーヒートを防ぐ商品です。
原理は小学校の理科の授業で出てきた気圧と水の沸点の変化を応用したもので、気圧が高くなると水の沸点が上がる性質を利用して、クーラントの沸騰を抑えています。
ラジエーターキャップを交換するだけで簡単に装着できるので、整備に詳しくない方でも簡単に作業できる点でもおすすめです。
特に年式の古い車種の場合は純正のラジエーターキャップの加圧性能低下がオーバーヒートの原因になっているケースが多いのでこの商品に交換する事で解決する場合がよくあります。
ただし、あまりに圧力が高くなるラジエーターキャップを使用すると、ラジエーター本体が圧力に耐えきれず破損する場合もあるので、加圧はほどほどにしておくと良いでしょう。
TARAZON アルミラジエーター
クーラントの交換や加圧ラジエーターキャップを試してみてもオーバーヒート気味になる車両は、社外品のチューニングラジエーターへの交換を検討してみてはいかがでしょうか。
TARAZONのアルミラジエーターは放熱性の良いアルミ素材で作られており、放熱性、耐久力共に純正以上です。
ラジエーターの交換は費用も掛かりますし、DIYでは簡単にできない改造ですが、その分効果は絶大。
冷却効率を大幅に向上させることで、どんな過酷な状況でもオーバーヒートを起こすことはないでしょう。
オーバーヒート対策としてはこれ以上ない対策グッズといえる半面、どの車種にも取り付けられる訳ではないため、実際に改造する際は詳しいショップと相談して行うことをおすすめします。
ちなみにラジエーターの容量アップは車検には一切関係がないため、その点については安心です。
【まとめ】オーバーヒートをしてしまったらまずは安全な場所にバイクを停車させよう
以上がバイクがオーバーヒートを起こしたときの対処法です。突然のオーバーヒートはどんなライダーにとっても焦るもの。
しかし慌てて対処しようとすると、交通事故の原因となったり、けがの原因にも繋がるのでまずは落ち着いて対応することが大切です。
オーバーヒートは、早めに気が付けばすぐにエンジンが壊れるということはありません。
“異変を感じたら、安全な場所にバイクを止めてエンジンが冷えてから点検する”これさえ守れば安全にオーバーヒートの対処が可能です。
トラブルのときこそ冷静な対応。ぜひ心がけてツーリングライフを楽しんで下さいね。
投稿者プロフィール
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元モトクロス国際B級ライダーのヨシキです。
趣味は林道探検、オフロードバイクでどんな山道も散策します。
今は整備士として活躍しているので、メンテナンス、DIYでできる整備など、お役に立てる情報を発信していきたいと思います。もちろんレーサーならではのライテク記事も執筆していくのでおたのしみに。
【愛車たち】
SUZUKI RM-Z250,HONDA CR125,SUZUKI RM80L
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