今回試乗させていただいたNinja e-1は、Z e-1と共に発表されたカワサキ初のピュア電動モーターサイクルで、コンパクトなブラシレスモーターを搭載しているモデルです。バッテリー重量の関係で、原動機タイプの同サイズモデルよりも重くなりがちな電動モーターサイクルでありながら、車重を一般的な原動機タイプの同サイズモデル並みに抑えた(車両重量140kg)Ninja e-1がどんなものなのか?
実際に試乗して体験してきましたので、ご紹介させていただきたいと思います。
実際に乗ってみた
Ninja e-1は、フルカウルモデルという事もあり、パッと見では通常の原動機モデルのNinjaと大差無いように見えますよね?一方で、この写真に違和感を感じた方は、バイク通です!
そう、このNinja e-1は、ピュア電動モーターサイクルであるがゆえに、燃焼のための吸排気系システムが無いんですよね。つまり、マフラー(サイレンサー)が無いんです。しかし、マフラーが無い事を気付かせないくらい、まとまりが良いですよね?
ちなみにこのNinja e-1、車格は400ccクラスと大差無く感じますが、”定格出力が0.98kW”なので、車両区分としては”原付二種(50cc超、125cc未満)”にあたります。このため、公道走行には、”普通自動二輪免許(小型限定)”以上の免許が必要となります。
取り回しについて
バッテリーを2個(単体のバッテリー重量を抑えるために2個に分割されている)装着した状態で140kgで、非通電状態だとモーターの抵抗も殆ど無いため、サイドからでも、跨った状態でも、非常に軽く取り回す事ができました。
一方で、ギアが無いため、停車時に抵抗を持たせる事が出来ないため、傾斜地に停めた場合には、車両が動いてしまうという注意点もあります。つまり、基本的に坂道駐車ができないという事です。どうしても傾斜地に車両を駐車する必要がある場合には、ブレーキレバーロックなどを用いるようにしましょう。
また、この車両には、通常の走行モード(ROADモードと、ECOモード)の他に、WALKモードと称された微速移動モードが備えられており、取り回し時の利便性向上が図られています。WALKモードでは、アクセル操作のみで前後への移動が可能となり、通常のアクセル操作(スロットルを手前側に捻る)では前進、逆側のアクセル操作(スロットルを奥側へ捻る)では後進となります。
個人的な感想としては、微速と記載されていた割には意外と速度があり、安全性の面では、”跨った状態での移動用のアシスト機能”と捉えた方が良いように感じました。
ポジションについて
身長:162cm、体重:60kg、股下:76cmの筆者で、乗車姿勢は以下の写真のような感じです。
ハンドルの高さも、シート高さに比べて十分に高く、かつハンドルがシートに近いため、非常にコンパクトな乗車姿勢に感じました。一方で、車格に対してコンパクトな乗車姿勢であるため、フロントカウルまでの距離が長く、そこから張り出したミラーは、若干遠く感じました。このため、運転時にミラーの角度を変えるという操作は、ちょっと大変かもしれません(ミラーの視認性自体は良好でした)。
操作系・その他について
ハンドル周りは、比較的シンプルです。アクセル側は、ブレーキレバーにON・OFFスイッチ、そして、噂のeブーストボタンがあります。eブーストボタンは、アクセル操作しながらでも押しやすい形状とされていました。
左側(乗車時)グリップのスイッチボックスには、ライトの切替スイッチ、ウィンカー、ホーン、ウォークモードと走行モードの切り替えスイッチがありました。ギア操作が無いため、クラッチレバーがありません。
ウォークモードへの切り替えは、ボタン上側を長押しとなります。ボタン下側を押すと、通常の走行モードに戻ります。
通常、チェンジペダルが存在する乗車左側のステップには、当然チェンジペダルがありません。このあたりからも、このバイクがオートマ仕様である事を知る事ができますね。
キーをONにすると、この画面が表示されます。走行モードに移行するには、車両のサイドスタンドを上げる(払う)必要があります。
走行モードにおけるECOモードの画面です。RANGEの表示に書かれている数字(59km)が、航続可能距離の目安となります。加速やパワーを抑えて航続距離を伸ばす事ができます。
走行モードにおけるROADモードの画面です。加速力が向上し、上り坂なども苦も無く登っていきます。
ECOモードとROADモードの切り替えは、停車時に行う必要があります。このため、走行モードの切り替えはプログラムによる電力制御で行われているのでは無く、モーターを構成しているコイルの接続切替で行われているのではないかと推察できました。ECOモードでは、コイルを並列接続、ROADモードでは、コイルを直列接続することで、両者の特性をパワー特性として出しているイメージです。コイルの接続切替は、スイッチ(半導体を含む)で行われているため、加負荷通電時には、スイッチ切替のタイミングで放電が生じる場合があるため、安全対策として、停車時限定となっているのではないかと思われます。
eブースト作動画面フラッシュパターン形状のバーが青色になります。車両説明では、15秒間との事だったのですが、実際に乗ってみた感覚では、15秒より長い感覚でした。技術的に詳しい事は公表されていませんが、コンデンサーと遅延回路などを用いて、モーターに供給する電力を一時的に増加させるシステムなのではないかと思われます。
走りについて
実際に走ってみた感想としては、静かで、”タウンユースに丁度良い”という印象でした。
乗る前は、一般的な電動スクーターなどに比べて腰高感があるNinja e-1は、アイドリング中のジャイロ(エンジン回転に伴うもの)が無いため、発進・停止時にフラツキなどもあるのかな?などと考えていたのですが、そんな事は全く無く、アクセルを捻った瞬間から安定して走り出してました。出足から力強さを感じられるのは、0回転域から最高トルクを発揮する事ができるモーターならではの事だと感じました。
また、エンジン音や排気音が無く、ヒューンという加速音と、アクセルを戻した際にシャーっとチェーンの音?が聞こえるという、不思議な感覚も楽しかったです。
ECOモードとROADモードの違いはかなりあり、個人的な感覚では、ROADモードが普段使い、ECOモードは航続距離が短くなってしまった際の緊急対応という使い方が良いかと感じました。具体的には、ROADモードの走行性能は、一般的な125ccモデルのバイクと遜色無く、特に発進時の加速は、”流石電動バイク!”といった感じでした。一方で、ECOモードでは、ROADモードに比べて明らかにパワー不足を感じたため、登坂などにはストレスを感じる可能性があると思われました。
車重の軽さもあり、ブレーキは良く効き、ハンドリングも非常に軽いです。一方で、回生制動、いわゆるエンジンブレーキは殆ど効かないため、エンジンブレーキを多用する方の場合には、違和感を覚えるかもしれません。このように、エンジンブレーキが効かないという点から、勾配のある峠道などの走行は、ちょっと厳しいかなと感じた事も”タウンユースに丁度良い”と感じた一因です。
また、航続距離は、約60kmとの事ですから、この点からも、通勤、通学等、ある程度決まったルートや行動範囲での利用に適していると感じました。
明日話せる豆知識
Ninja e-1とZ e-1の心臓部には、”ブラシレスモーター”が使われていると公表されていますが、この”ブラシレス”て、あまり聞きなれない方もいらっしゃるかと思いますが、どのようなものかご存知ですか?
一般的なモーターとの構造的な違いとして簡単に説明すると、一般的なモーターは、永久磁石が固定されていて、電磁石となるコイルが磁石の周りを回る構造なんですね。このため、動いているコイルに電気を送る手段として、回転していても電気を伝えられる金属製の”ブラシ”が必要なんです。
これに対して”ブラシレスモーター”は、コイルが固定されていて、永久磁石が回転する構造なんです。この場合、コイルが固定されているから、電気を送るための配線も固定できて”ブラシが不要”になるんです。このため、“ブラシレス”と呼ばれるようになっているんです。
”ブラシレスモーター”のメリットとしては、ブラシの摩耗が無いため長寿命であったり、静かである、その他、小型化に有利と言われています。
15秒間の別世界【e-boost機能】
eブーストは、確かに楽しい機能でした。アクセル全開での加速時から、さらに一段加速したり、登坂路での頭打ちから加速したりとパワーアシスト機能として、利便性が高いと感じました。
足つき性
Ninja e-1のシート高は785mmで、着座時の沈み込みは普通で、シート幅も狭めです。ちなみに、上にも書きましたが、筆者の身長は162cm、体重60kg、股下76cmです。このような状態での足つきは、両足の母指球までつき、かかとが少し浮くといった感じでした。当然、片足であれば、お尻をずらす事無くかかとまでしっかり着きます。
車重が軽い事に加え、WALKモードでのアシストも使えるため、跨った状態での車両移動は非常に簡単です。
諸元・その他
全長×全幅×全高(mm) | 1,980×685×1,105 |
シート高(mm) | 785 |
車両重量(kg) | 140 |
定格出力(kW) | 0.98 |
最高出力(kW/rpm) | 9.0/2,600-4,000 |
最大トルク(N・m/rpm) | 40/0-1,600 |
電力消費率(Wh/km) | 52 |
一充電走行距離(km) | 55 |
バッテリー充電時間(時間) | 3.7×2 |
バッテリーと充電器
バッテリーは、原動機型バイクの燃料タンク部分に収容されています。バッテリーは、11.5kgのものが2つ搭載されており、車両重量(140kg)は、この2つのバッテリーを含めた重さとなっています。バッテリーの充電は、3つのパターンで行う事ができるそうです。
具体的には、①バッテリーを外して、写真の充電器を直接繋ぐパターン、②別売りのバッテリードックに充電器を接続し、バッテリードックにバッテリーを差し込むパターン、③バイクにバッテリーを搭載したまま、バイクに設けられたプラグに充電器を接続するパターン、の3つです。
ちなみに、バッテリーの充電時間は、1つのバッテリーをフル充電するのに約3.7時間、部分充電するのに約1.6時間かかるそう。
まとめ
全体として、良く作り込まれていて、普通のバイクの感覚で乗ったとしてもさほど違和感が無いと感じました。アイドリングや走行音が殆ど無い事などからも、密集した住宅地などでも、近隣住民に迷惑をかける事が無いでしょう。
また、メーカー小売希望価格は1,067,000円との事ですが、購入後に申請を行う事で、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)として12万円を受け取ることができます。また、各地方自治体からも補助金の交付を受ける事ができる場合があり、東京都の場合、46万円の補助金を受ける事ができるそうです。
車両紹介&試乗動画も作成しましたので、雨の中の走行の様子などもご覧ください。
投稿者プロフィール
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BMW F900XRとDucati MonsterS2Rでチョイノリからロングツーリング、サーキット走行まで楽しむリターンライダー。
リターン後のツーリングは首都圏内での日帰りをメインとして、美味しい物や良い景色を堪能している。
ご当地"グルメ調査隊"と称してマスツーリングの企画運営なども手掛けることから、バイクの様々な楽しみ方を伝えて行く事を目標としている。
若い頃は、日帰りで埼玉-青森間を往復したことがある、 "自称"やれば出来る男。
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