今回は、ハーレーダビッドソン初の普通二輪免許で公道を走る事ができるバイク!X350を3日間お借りする事ができたため、合計で約300kmの長距離試乗をしてみました。また、今回の試乗にあたり、コンポーネントを共通とするベネリのTNT249Sにも試乗させていただいて来たので、2つの車両の比較などを踏まえながらX350がどんなバイクに感じたかという点を紹介していきたいと思います。
実際に乗ってみた!
事前にTNT249Sの試乗をしていた事もあり、正直なところX350を試乗する際には、”こんな感じのバイクだろうな”という予想が出来上がっていたんです!しかし、実際にX350に乗ってみたところ、正に”良い意味で”予想を裏切る感覚を味わう事ができました。
写真で比較してみると、フレームやエンジン外観、足回りなどを共有化している事がはっきりと解るだけに、試乗した際の印象の違いが結構不思議に感じました。
取り回しについて
車両重量は195kgと、400ccクラスとしてはやや重い部類に入る車両ですが、重心が低めに定められていることと、ハンドル幅が狭い事などにより、取り回しに関しては、クラス相応か、やや軽いという印象でした。具体的には、サイドスタンドから車体を立てるのに多少重さを感じるものの、直立させた状態であれば、押し引きに苦労するという事はありませんでした。また、フロントタイヤの幅が120と、このクラスでは少し太目ですが、キャスター角が立っているので、アメリカンタイプのような”取り回し時におけるハンドルの切れ込み”も無く、取り回し時にしっかりハンドルを支えなければならないといった事も有りませんでした。
ポジションについて
身長:162cm、体重:60kg(TNT249S乗車時は62kg)、股下:76cmの筆者で、X350とTNT249Sとにおける乗車姿勢は以下の写真のような感じです。
両車両ともに乗車姿勢はコンパクトだったのですが、X350に比べてTNT249Sの方がタンクの盛り上がりが大きく、ややタンクが長いような気がしました。X350のシート高(777mm)は、TNT249Sのシート高(795mm)に比べて2cm弱(18mm)低いため、座面とステップとの距離が短くなり、膝の曲がりの違いに関しては、写真の見た目以上に大きく感じました。実質的には”慣れの問題”程度の差ではありますが、乗車姿勢に関しては、TNT249Sの方が自然に感じました。
X350のステップ位置に関しては、他のレビューなどで”バックステップ気味”という意見を聞いていたのですが、ステップの位置自体は普通なのですが、座面とステップとの距離が短く、膝の曲がりが大きくなるために、”バックステップ気味”に感じる事があるのではないかと思いました。
ハンドル幅に関しては、コンパクトです。切れ角も割とあるので、Uターンなども比較的楽にできるのではないかと感じました。ハンドルスイッチ系統もグリップから近く、レバーにも純正でアジャスターが装備されているため、比較的手が小さい方でも乗りやすく、操作もしやすいのではないかと感じました。
角ばったタンクは大きく見えますが、高さと長さが抑えられているため、ボリューミーな雰囲気を出しつつ、車重の増加やハンドルが遠くなるといった事を避ける事ができています。
カッコいいデザインで、乗り心地が良さそうだと思ってシートを触ってみたら、予想に反して反発力が強いシートでした。しっかりした座面パターンが施されているため、滑りなどによる疲労感は無いと思いますが、長時間乗車の場合には、お尻が痛くなってくる可能性があります。なお、一日100km程度の下道移動ではお尻の痛みを感じる事はありませんでした。
操作系・その他について
メーターは、シンプルなアナログメーターで、夜間でも非常に見易かったです。内部の液晶部分には、距離計(ODO、Trip1、Trip2)、時計、回転計が表示可能となっています。写真の1600という数字は、回転計(rpm)の表示状態です。液晶表示の切り替えは、メーター下端側にあるボタンを押す事で成され、Tripの表示の際に長押しする事で、カウンターがリセットされます。
ハンドル周りは非常にシンプルです。ハンドル右側は、アクセルとセルボタン、ハザードスイッチ、キルスイッチ、及びフロントブレーキレバーが配置されています。左側に比べてグリップからスイッチボックスまでの距離が長いですが、基本的には走行中に右側スイッチを触る機会は少ないため、グリップを握った状態では指が届かないという場合でも問題ありません。
ハンドル左側には、ホーンスイッチとウィンカースイッチ、ヘッドライトのロー、ハイ切替スイッチ、パッシングスイッチ、及びクラッチレバーが配置されています。右側に比べてグリップからスイッチボックスのスイッチ群までの距離が短い事が判りますね。とても操作しやすいです。
ヘッドライトは、上下2段に分かれたLEDタイプです。キーをオンにする事で、中央の仕切り部分に”HARLEY-DAVIDSON”の文字が浮かび上がると共に、下側外周部のポジションランプも点灯します。
クランクケースのクラッチカバー部分には、”HARLEY-DAVIDSON MOTOR COMPANY”の文字と共にバー&シールドのマークがあしらわれています。ハーレーといえば、このカバー部分のカスタムが定番になっていますが、TNT249Sでは、ここの部分に異なる意匠が施されている事から、この丸いカバー部分だけを交換する事も可能だと思われます。
フロントブレーキは、φ260mmのダブルディスクタイプ&4ポットキャリパーで、TNT249Sと共通です。このクラスだと、ローター径は小さめですね。絶対的な制動力という面では、同クラスの他車種に一歩譲るものの、ローター自体のジャイロ効果が少なくなる分、クイックなハンドリングが期待できるような気がします。
フロントフォークは、インナーチューブがφ41mmの倒立タイプです。乗車基準で右側のフォークトップに減衰(ダンピング)調整用のアジャスターがあります。左側のフォークトップにはアジャスターが存在しません(左右共にプリロード調整機能は無し)。右側にのみダンピングの調整機能を持たせている事から推測すると、右側にダンパー、左側にスプリングを配置する事でそれぞれ別々の機能を持たせる、いわゆる”セパレート・ファンクション”型のフロントフォークを採用しているのかもしれませんね。コストダウンと、軽量化といったメリットがあり、近年では割と多くの車種に採用されています。
リアサスペンションは、モノショックで配置がアシンメトリーという、珍しい取り付け形式が採られています。リアサスペンションは、ダブルナットによる無段階のプリロード調整と、ダイヤルによるダンピング調整が可能になっています。
リアのブレーキは、φ240mmのシングルディスクで、1ポットの片押しキャリパーが採用されています。スイングアームは、フレームと同じチューブを2本重ねる事により構成されている面白い構造となっています。
補足と考察:X350では、メーター表示として燃料計やシフトインジケーターが無かったのですが、TNT249Sのメーター表示には、それらの表示も存在していました。このため、メインハーネスまで共通である場合には、オプションでシフトインジケーターを装着できるようになる可能性もあるように思えました。一方、燃料計に関しては、燃料タンク内に残量を計測する機構が必要なため、後付けは難しいと思われます(燃料に関する残量警告灯はあります)。
走りについて
まず、ベース車両であるTNT249Sと乗り比べた第1印象は、予想に反して全く別の乗り物というものでした。TNT249Sを基準として約40%の排気量アップが図られていれば当然ではあるものの、”フレームや足回り、及びエンジンの基礎が同じ”という事から、変わり映えの無い乗り心地なのではないかという印象を持っている方も多いですよね。実は私も、X350を試乗するまでは、ここまで違うとは思っていませんでした。
360度クランクのパラレルツインという事で、ではあるものの、事前にTNT249Sを試乗していた事から、かなりの高回転型のエンジンである事は認識していました。一方で、TNT249Sは、かなり振動の少ない高回転エンジンであったのに対し、X350は、適度な振動を持つ高回転型エンジンで、アクセルを開けるのが楽しくなるエンジンでした。
アクセル開度に対するレスポンスも良好で良く回り、トルクフルで楽しいバイクに仕上げられています。出足から常用速度域のトルクが太いので、加速感が鋭く、車重を感じさせません。TNT249Sでは、アクセル開度に伴う回転上昇に対してやや速度の乗りに遅れを感じたのに対して、X350ではそれが無く、回転上昇と速度上昇の感覚が一致しているように感じました(あくまで、400cc以下における加速感の印象)。車体の切り返しの特性も良好で運動性能が高く、ワインディングを楽しく走る事もできました。高速道路も走行してみたところ、合流や追い越しに関しても全く問題が無いといった印象でした。
ちなみに、低速トルクがどの程度あるのかというのを検証するために、何速のギアまで発進が可能なのか?という点を試してみたところ、6速発進まで可能でした。しかも、発進してからアクセルオンで、殆どノッキングせずに加速していったのには驚きました。発進時のエンストやノッキングの恐れが少ないという点については、初心者にもやさしい面を持つバイクであると言う事もできますね。
ブレーキ特性に関しては、TNT249Sに試乗した際には、”あれ?ブレーキ甘いなぁ”という印象を受けたのですが、同じシステムを採用しているはずのX350では、握れば握っただけ効くといった”程よい効きを持つブレーキ”といった印象を受けました。キャリパーを覗いてみた所、ブレーキパッドも同じ物が使われているようでしたので、上記のような感じ方の違いは、いわゆるアタリが出た状態(X350)と、出ていない状態(TNT249S)の違いによるものだったのかもしれません。
サスペンションは、事前リサーチでは”硬い”という意見も”柔らかい”という意見もあったのですが、実際に乗ってみたところ、プリロードは低めで”バネ自体は柔らかい”という印象を受けました。一方で、”ダンピング(減衰)は高め”に設定されているようで、初期設定では段差で跳ねるような衝撃がありました。このため、”硬い”と感じる方が居るのも納得いたしました。よって、ダンピングを弱めてやると、フロントタイヤの路面追従性を増加させる事ができ、ソフトな足回りに感じるようになるかもしれません。
なお、TNT249については、試乗距離も短く、殆どが幹線道路だったため、詳しい事は書けないのですが、X350よりもさらに高回転、かつ振動の少ないリニアな乗り心地でした。X350よりもさらに高回転域で楽しむバイクといった印象でしたが、常用速度域では、3速、あるいは4速あたりで事足りていたため、シティーユースには必要十分で、高速走行も難なくこなせると感じました。また、ベースがX350と共通で、250ccクラスとしては大柄な車体であるため、長距離ツーリングなどでも疲れにくいのではないかという印象を受けました。そして何より、唯一無二感のある外観は、所有欲を掻き立てるのではないでしょうか。いずれにせよ、TNT249SとX350は、ベースを共通としながらも、それぞれの個性を持ったバイクであると感じました。
走行時に感じた懸念
走りに関しては、非常に優等生に感じられるバイクであるX350でしたが、不安を感じた部分もありました。それが、”排熱”です。
TNT249Sと比較して約40%の排気量アップが図られているので、熱量が増加するのは当然なのですが、渋滞していない停車時に頻繁に冷却ファンが回っていたのです。これが気温35度を超える炎天下などであれば、仕方ないかと思うのですが、試乗日は12月半ば、しかも1桁気温の日だったのです。このため、夏場のオーバーヒートが心配になりました。よって、コスト増になってしまうのは確かですが、オイルクーラーの増設や、コアを1段増やした大型のラジエーターへの入れ替えなどがあった方が、年間を通して安心して乗れるように感じました。
足つき性
筆者(身長体重等は、ポジションについての項目参照)による足つき性は、以下のような感じです。足つき性に関しては、X350も、TNT249Sも殆ど変わらず、両足の母指球が着く程度です。片足の場合には、かかとまで着く事ができました。X350の方が約2cm(18mm)シート高が低いのですが、座面の平らな部分が増えているため、脚の広がりが少し大きくなり、結果として足つき性に違いが出なかったものと思われます。
諸元
公表されている諸元は、次のようになっています。上記のように、シート高による足つき性の違いは、殆ど感じる事ができませんでした。X350の方が車両重量が軽いのは、燃料タンクの容量の差(車両重量は、燃料等込みの重量)と、排気量アップのためにシリンダー部分を削った事によるところが大きいのかなと思いました。
まとめ
従来の”ハーレー”をイメージして乗車すると、”コレじゃない”という印象を受けると思いますが、バイクとしては、非常に優秀で楽しいバイクです。多少語弊のある表現ですが、常用速度域では、HondaのCB400SFをさらに軽快にしたような印象を受けました。
近年のハーレーは、パンアメリカなどのアドベンチャー系や、レボリューションマックスなどの水冷エンジンといった、既成概念を打ち破る方向にも力を入れてきているように感じられます。そうした側面からすると、今回試乗させていただいたX350は、正に、”ハーレーの既成概念を打ち破る、新しい側面を垣間見る事ができるバイク”になるのではないでしょうか。
X350とTNT249Sについて、それぞれ紹介動画も作成しましたので、走行音等の違いなど聞き比べてみてください。
投稿者プロフィール
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BMW F900XRとDucati MonsterS2Rでチョイノリからロングツーリング、サーキット走行まで楽しむリターンライダー。
リターン後のツーリングは首都圏内での日帰りをメインとして、美味しい物や良い景色を堪能している。
ご当地"グルメ調査隊"と称してマスツーリングの企画運営なども手掛けることから、バイクの様々な楽しみ方を伝えて行く事を目標としている。
若い頃は、日帰りで埼玉-青森間を往復したことがある、 "自称"やれば出来る男。
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