はい、元バイク屋のフォアグラさんです、こんにちは。今回はずっと気になってはいたのですが、実は使ったことがなかった潤滑剤「ベルハンマー」の紹介です。
この「LSベルハンマー」と「LSベルハンマーゴールド」というのはいわゆる防錆潤滑剤で、KURE 5-56の競合品といえば多くの方にわかっていただけるかと思います。
ただ5-56は安い店だとワンコインでお釣りが来ますが、この「LSベルハンマー」は現在アマゾン価格で約3000円、「LSベルハンマーゴールド」は4000円ほどになります。
何がそんなに違うのか?今日はそんな高級潤滑剤である「LSベルハンマー」の驚異的な性能と特性について紹介していきたいと思います。
防錆潤滑剤ってなに?
ではそもそもまず防錆潤滑剤とはなんぞやという話です。皆さんのイメージは固着したネジやナットを外すときに使うものというイメージでしょうか?
はい、その通りです。ただ、それだけではないのですね。
固着したものを外しやすくするだけではなく、「防錆潤滑剤」とあるように同時に金属の表面に油膜を作ることでサビの再発も防いでくれます。また金属が擦れる各部の軋みも解消することができます。
動きが渋い部分にスプレーしてコキコキするだけで、軋みが取れてスムーズに動くようになるので、バイクの整備だけでなく日常生活の中でもたいへん身近で使用頻度が高い油脂類であると言えます。
しかし、この防錆潤滑剤を何にでも使える万能選手だと勘違いしている方が少なくありません。実はバイクの車体には防錆潤滑剤が向いていないところや、使ってはいけないところがあります。
例えばアクセルやクラッチなどのワイヤー。
これらに使ってはいけないというわけではないのですが、この防錆潤滑剤の多くは粘度が比較的低くサラサラしているので、わりとすぐに流れ出てしまいます。
特に5-56は結構サラサラしているので、ワイヤーの注油には自分はお勧めしていません。もう少し粘度の高いグリススプレーのほうが良さそうです。
そしてバイクのドライブチェーン。
現代のバイクの多くはシールチェーンと呼ばれる種類のものが使用されていて、ゴムのリングでチェーンの中にオイルが封入されています。しかし一般的な防錆潤滑剤はこれらのゴムへの攻撃性が高くて傷めてしまったり、粘度が低いのですぐに吹き飛んでしまったりします。
ただ先に結論を言ってしまうと、ベルハンマーはワイヤーにもお勧めできますし、チェーンに対しては、むしろ今まで自分が使っていたチェーンルブよりも良いと思います。これは後ほどその理由と驚きのデータを紹介します。
シールチェーンには使用できない一般的な防錆潤滑剤であったとしても、使用頻度が高く、バイクの整備をする上で最も身近なケミカルと言えるでしょう。自分はもはや防錆潤滑剤は工具の一つだと思っています。それくらいこの防錆潤滑剤の良し悪しは、整備品質や作業効率、バイクのコンディションに大きな影響を与えます。
例えば昔から自分がバイク屋時代から20年近く愛用しているワコーズのラスペネ業務用は、浸透力に非常に優れているという印象を持っています。ネジを緩めるということが目的であれば、このラスペネが特に優れたケミカルだと考えてます。
対して今回紹介するベルハンマーやベルハンマーゴールドは、潤滑力と滞留性がとてつもなく優れています。特にベルハンマーゴールドは使う部位によっては危険と言えるくらいの潤滑力を持っているので、例えば先程言ったチェーン、そしてベアリングやレバーなど、動きが渋くなると性能が低下するという部位にもってこいです。
ですので自分は緩め剤としては今後もラスペネを使い、追加してベルハンマーも使う予定です。すでに556やラスペネを持っているから不要ということではなく、ベルハンマーや特にベルハンマーゴールドは違った用途目的に使用できるので、追加して持っておくことをお勧めします。
防錆潤滑剤の良し悪しとは?
では、防錆潤滑剤の良し悪しはどこで判断すればいいのでしょうか?バイクに関して言えば水置換性、浸透力、潤滑力、そして滞留性だと自分は考えます。
ただしこれらの性能は、その銘柄によって重きを置いているポイントが大きく異なります。先ほど述べたようにラスペネは浸透力に優れていると感じますし、ベルハンマーは潤滑力と滞留性に優れてると感じます。
水置換性があるというのは、読んで字のごとく水に置き換わります。ネジやボルトナットの金属表面に付着した水や湿気を押しのけて、金属表面に到達付着できるということ。
その水置換性と密接に関係しているのは浸透力。サビやゴミで固着していても、しっかり分離してくれます。水置換性も含めての浸透力といってもいいかもしれません。
そしてもっとも重要と言えるのが、当たり前ですが潤滑力です。そもそも潤滑力が弱ければ、せっかく金属表面に到達してもあまり意味がありませんよね。
さらに言うとバイクに関してはその油が滞留してくれることや、油が吹き飛んでしまっても潤滑性能はしっかり残るという機能があることがとても大事です。
こういった点でとても優れているのがLSベルハンマーゴールドという商品なのです。
ベルハンマーの驚異の性能
ではベルハンマーの優れた作用について解説します。
水置換性
ベルハンマーは先ほど述べた水置換性というものを持っています。ですので、雨にさらされるような場所でも安心して使えます。
浸透力
実は金属の表面体人間の目にはなめらかツルツルに見えても、分子レベルでは細かい凹凸があります。その凹凸には一般的なモリブデンやフッ素といったものは分子の大きさから入り込めないのですが、ベルハンマーの場合はその隙間に入り込むことができます。さらにモリブデン等に比べて表面に付着しやすいという性質もあります。
これらのことからベルハンマーは浸透力も高く、つまり届いてほしいところにしっかりと成分が届いてくれるといえるかと思います。
潤滑力
肝心の潤滑力ですが、ここが一番優れているところだと思います。
前述のように、金属の表面というのは実は凸凹です。そして金属同士が接触するということは、そこに摩擦や圧が生じ、そうすると熱が生じます。
この熱によって極圧剤が金属と反応します。そうすることで滑らかな面と潤滑性をもった皮膜を形成します。
この時点でベルハンマーは非常に高い潤滑性を得ることができます。
さらにベルハンマーはなんとこの皮膜がなくなったとしても、目には見えませんが金属表面に滞留し続けて潤滑性が持続するのです。
このように潤滑性が持続するので、潤滑剤でありながらクラッチやアクセルなどのワイヤー類への使用もお勧めすることができるのです。
また高速で回転するため強い遠心力がかかるチェーンにも使えるということもこれらの理由によるものです。さらにこれは第4石油類で、シールチェーンへの攻撃性(ケミカルアタック)も低いのです。実際このケミカルアタックの報告は今のところありません。
ベルハンマーでパワーアップ?
チェーンに関してはこのグラフをご覧下さい。
これはLSベルハンマーとLSベルハンマーゴールドという上位グレードを、新品のドライブチェーンにそれぞれを塗布した後に、後輪での出力を計測したものです。
LSベルハンマーを塗布したものが赤、LSベルハンマーゴールドを塗布したものが青です。ベルハンマーゴールドを使用した青い曲線は、通常のベルハンマーよりも馬力が上がっているということが見て取れます。
LSベルハンマーの潤滑力がそもそも高いのですが、さらにそれを上回るのがLSベルハンマーゴールドの潤滑力!
ただしこれは通常のベルハンマーの方が浸透力は優れていて、ゴールドの方は潤滑力により優れているという特性の違いです。ネジなどを緩める場合はベルハンマーの方がゴールドよりもむしろ優れていて、あくまでゴールドは潤滑力に特化していると考えてください。
話を戻しますと、バイクというものはエンジンの出力がリアタイヤに伝わって推進力を得るわけですが、その間にはクラッチやギヤ・スプロケット・チェーンなどのパーツがあり、それら間の摩擦よる馬力の減少「フリクション(摩擦)ロス」が生じます。
つまりバイクのパワーを上げたい、燃費を良くしたいと考えるなら、摩擦を減らしてエンジンのパワーを効率よく伝えるということがとても大事です。
マフラーを変えたり、カムを変えたり、ボアアップまでしてみたりと、構造から変更してエンジンの出力そのものを上げたがる人が多いのですが、その前にまずこの摩擦による抵抗を減らすという選択肢が先ではないでしょうか?
なぜならチェーンのオイルを変えるだけでパワーアップできるのですからね。特別なパーツも技術も工賃もいりません。
逆に言うと、せっかくボアアップしてエンジンの出力をアップさせたとしても、摩擦によってそのパワーがたくさん奪われてしまっていては、本末転倒と言わざるを得ません。
ただでさえ潤滑性能が高すぎて、使用する部位によっては危険なLSベルハンマーという商品ですが、さらに上回る潤滑性能を持つLSベルハンマーゴールドは恐ろしい。そう、恐ろしいのです。
ベルハンマーのデメリット
ここまではベルハンマーのメリットを中心にお伝えしてきましたけれども、ここからはデメリットを解説していきます。
使い方を誤ると大変危険であり、大事故にもつながり命にも関わることなので、ベルハンマーに興味があるという方は絶対に読んでください。
そのデメリットはメリットの裏返しでもあり、潤滑力が強すぎること、持続しすぎることです。性能が高すぎる反面、誤った場所に使用してしまうと大変なことになります。
例えばブレーキディスクに付着してしまいますと、当たり前ですが止まりません。しかもその作用が持続します。そうなったら命に関わりますからね。
また、スクーターのプーリーやベルトといった駆動系のパーツに付着すると、当たり前ですが滑ってしまって前に進めません。
また4輪では、エンジンオイルに入れると潤滑性が上がってエンジンに良いなんて言われていますけれども、バイクに関しては絶対にダメです!
なぜなら、ほぼすべてのバイクは湿式クラッチを採用していて、エンジンオイルがギヤオイルも兼ねています。そんなギヤオイルに潤滑力の強い物を入れたら、クラッチが滑ってしまいます。
逆に言うと車種はかなり限られますが、乾式クラッチを採用している車種やスクーターに関しては、エンジンオイルに添加することが可能です。
まとめ
ブレーキしかりクラッチしかり、自分のバイクの構造をしっかり理解した上で使用するのであれば、こんなに素晴らしいケミカルはないと言えます。しかし理解が足りずに、あらゆるところで使用してしまうと、バイクを台無しにしてしまったり、重大な交通事故につながってしまう可能性があります。
ですので自分のバイクの構造を理解していない人、潤滑すべきところと潤滑させてはいけないところの判断ができない人にとっては、とてもオススメできるものではありません。その潤滑性能が強く素晴らしい商品であるが故、デメリットもその裏返しであると言えます。
必ずパーツの役割と仕組みを考えて理解をした上で使用できる判断できるという方はぜひ購入してください。手に入れられるバイク用に使える最高のケミカルの一つであることに疑いの余地はありません。
今回の記事はこちらの動画でも詳しく説明していますので、是非ご視聴ください。
では今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました。
投稿者プロフィール
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元バイク屋のYouTuber。
バイクライフに役立つ情報を毎週配信。
メカの話やバイク購入アドバイスはもちろん、用品レビューやバイク屋裏話まで、バイク乗りなら誰もが気になるテーマばかり。
ちなみに中身はアラフォーのおっさん。
好物はサッポロ黒ラベルとキャベツ太郎だが、子どもができて以来、ふるさと納税で貰った無糖レモンサワーで節約している。
最近、血糖値と血圧を気にしているらしい。