はい!元バイク屋のフォアグラさんです、こんにちは。
今回は、空冷エンジンのバイクはなぜ激減してしまったのか?ということについて解説をしていきたいと思います。
ここ数年新しく発売されるバイクって水冷ばかりですよね。なんとなく水冷の方が高性能で、空冷のバイクは味があるものが多い、その程度のイメージの方が多いと思います。
確かにそれは正解と言えるでしょう。ただ、なぜ空冷よりも水冷の方が高性能と言えるのでしょうか? 「冷却効率が高いから」? あ~、惜しいですが必ずしもそうではありません。その理由をきちんと説明できる方ほとんどいないのではないかと思います。
今回はまず空冷とはどういうものか、次に空冷のメリットとデメリット、そして最後には空冷エンジンはなぜ規制に対応できないのかという点について解説していきます。
空冷と水冷の冷却方法の違い
空冷って何?
まず、そもそも空冷とはなんぞや?というところから入りましょう。
空冷というのは読んで字のごとく、空気を使ってエンジンを冷やす仕組みのことです。当然ですがバイクは前に向かって進むものです。進むということは前から風を受けます。この風をエンジンに当てて、エンジンの熱を下げる仕組みが空冷です。
ですので空冷のエンジンには表面積を大きくして、より多くの空気と接触させるために、このようなフィンという放熱板があります。このフィンのないつるんとした水冷エンジンも無骨でかっこいいのですが、空冷エンジンもまだ美しい機能ってやつですよね。ちなみに水冷でもフィンのあるエンジンがありますが、これはダミーで空冷っぽく見せかけているっていうものなので、効果はほとんどありません。
「空冷エンジンは走行風でエンジンを冷やすもの」という理屈は分かります。でもあんなに熱いエンジンが、走行風だけで本当に冷やせるのでしょうか?はい、ここで出てくるのがオイルクーラー。排気量の大きいものや気筒数が多いものは発熱量も大きくなりがちですので、このオイルクーラーというパーツが付いていたり、後付けしたりします。
水冷のラジエーターとよく似ていますよね?(ラジエーターが分からないという方に向けて、ラジエーターについてもこの後すぐ水冷エンジンの解説の中で説明します。)
実はこのオイルクーラーは見た目だけではなく、仕組みもラジエーターとよく似ていて、水を冷やすラジエーターに対して、オイルクーラーはオイルを冷やします。その冷えたオイルがエンジンを循環することで、エンジンの冷却効果を高めることができるのです。
ですので、あまり熱を持たないSHOCの短気筒であるSRなどはオイルクーラーが付いていませんが、XJRのようなDOHCの4気筒であれば発熱量が大きいのでオイルクーラーが標準装備されています。
ちなみに空冷と水冷の他にも油冷という設計もあります。この油冷の基本的な考え方としては、オイルクーラーがついた空冷とよく似ているので、空油冷と呼ぶメーカーもあります。違いといえば、冷却に使うエンジンオイルを、ピストンやシリンダヘッドなど熱を持ちやすい部位を中心に噴射して、オイルをより積極的に冷却に使うという考え方です。スズキが有名なのですが、BMWや韓国のヒョースンでも油冷を名乗るエンジンのバイクがあります。ホンダもCB1100(SC65)でも油冷的な考え方を持った空冷エンジンを搭載させています。
水冷エンジンの冷やし方
では現在主流となっている水冷エンジンについて解説をします。これは冷却水と呼ばれる冷却用の液体をエンジンの中を循環させることでエンジンを冷却するという構造で、空冷よりも冷却効率が高いのが特徴です。
ではなぜ空冷よりも水冷の方が冷却効率が高いのか?答えは簡単、空気と水では熱の伝達率が違うからです。
皆さん、80℃のサウナに入ることはできても、80℃の熱湯風呂に入ることはできませんよね?それは熱いお湯に触ると皮膚の表面もすぐにその温度に達しますが、空気だと長い時間がかかります。これと同じことがエンジンでも起きているのです。
ですので水冷の方が冷却率が高く、すぐにエンジンの温度を下げることができ、温度を安定させやすいというメリットがあるのです。
この水冷で大事なパーツが先ほど出てきたラジエーターで、オイルクーラー同様にエンジンの前方に設置してあり冷却水が通っています。走行風を受けて冷却水を冷やし、その冷えた冷却水がエンジンを冷やすという仕組みです。
渋滞時など走行風を受けられない時は、ラジエーターに取り付けられたファンが作動して、強制的に冷却を開始します。また温度の安定という観点から、サーモスタットというパーツも一役かっています。エンジンが冷えている時はバルブが閉じて温まりやすくし、熱くなりすぎるとバルブが開いて温度を下げます。
これらの仕組みにより、水冷は空冷に比べて冷却効率が良く、温度も安定させやすいという利点があるのです。
空冷エンジンのメリットとデメリット
ここまでの解説だけ聞くと「空冷にメリットなんてあるの?」と思われるかもしれませんが、あるのです。
まず構造がシンプルだということ。
このことは製造コストを引き下げることにもつながります。今は後ほど解説する規制をクリアするために水冷にせざるを得なくなっていることが多いのですが、新車価格が安く設定されているバイクは大体空冷ですよね?
シンプルということは部品点数も少なく、修理も比較的簡単であり、構造的に頑丈と言えるでしょう。当然重量も軽く設計しやすいので、出力を求めるタイプではないオフロードバイクにも向いています。そもそも冷却水がないので、冷却水のメンテナンスの必要もなく、冷却水が漏れるというトラブルも起こり得ませんよね。暖気する時間も短くて済みます。特にバイクの音って近所迷惑になりますから、これは結構ありがたいことかもしれません。
さらに言うと調整次第ではありますが、レスポンスもマイルドで、味のある乗り味と言えます。
ハーレー乗りの中では「水冷なんかハーレーじゃねえ」という方も少なくありません。
トライアンフも雰囲気重視のモデルでは空冷が多く、ドゥカティの空冷スポーツモデルも根強いファンが多くいますね。国産車でもヤマハのSRやカワサのWといった味のあるバイクは大概空冷です。
どうですか?空冷のメリット実はたくさんありますよね。逆にデメリットといえば、先ほどお伝えしたように温度を安定させることが難しいことや、走行していないとエンジンが冷えてくれないことくらいなのです。
正直なところ、自分個人の考えとしては、そもそもバイクという乗り物は空冷でも全然問題ないのですよ。それこそ200馬力近くを絞り出すスーパースポーツやメガスポーツであれば話は別ですけどね。
空冷エンジンが廃れる理由
ではなぜこんなメリットの多い空冷エンジンは廃れつつあるのでしょうか?その理由の1つは騒音規制、もう1つは排ガス規制という2つの規制のせいです。
実は空冷ンジンではこの2つの規制をクリアすることが構造的に難しいのです。
なぜ騒音規制をクリアできないのか?
なぜ空冷は水冷のバイクよりも大きな音が出てしまうのでしょうか?
バイクの音というのはマフラーからの排気音を想像する人が多いと思いますが、実はそこは大した問題ではないのです。サイレンサーの消音性能を上げることは決して難しくありません。
問題はエンジンそのものの音なのです。空冷ならではの騒音というのは、エンジンフィンの共鳴音、シリンダヘッドの放射音、燃焼そのものの音の3つがあると言われています。
というのも、水冷ばエンジン全体が冷却水で囲まれている、いわゆるウォータージャケットと呼ばれる状態です。冷却水そのものに防音効果があるのです。
空冷の場合は、その防音する冷却水がないので、大きな音が出てしまい、さらにフィンによる共鳴音もあるので、どうしても水冷よりも構造的に騒音が大きくなってしまうのです。
なぜ排ガス規制をクリアできないのか?
空冷エンジン最大の問題とも言える排ガス規制。よく空冷だから排ガス規制に対応できないなんて言われますよね。実際、40年も続いた名車SRもそのために生産終了に追い込まれてしまいました。
では最後に、なぜ水冷エンジンは排ガス規制に対応できて、空冷エンジンはできないのかという構造的な理由を解説しましょう。
その理由は大きく2つあり、まず1つは温度の管理能力が低いことです。これは冷却効率が悪いのではなく、温度を安定させる能力が低いということなのです。
エンジンは温度をある程度の範囲内にしておかないと、有害物質が発生してしまいます。温度が高くなりすぎてしまうと排ガス規制の対象である窒素酸化物が多くなってしまいます。しかしその逆で温度が低すぎても、同じく排ガス規制の対象である炭化水素が多くなってしまいます。
エンジンは熱すぎても冷えすぎていてもダメなのです。ですので大事なのは単なる冷却性能の高さではなく、温度を一定の範囲内に収める温度管理能力なのです。
水冷であれば、温度が上がりすぎたらラジエーターに付いたファンが作動したり、サーモスタットが働いて温度を素早く強制的に下げることができますが、空冷だと構造的にそういったことができないので、規制対象物質を発生させてしまうというわけです。
そしてもう1つの理由、熱膨張を考慮した設計になっているということです。
前述のように空冷エンジンは温度管理能力が低いため、熱くなりすぎてしまうことが想定されます。エンジンというものは金属でできていますから、熱により膨張してしまいます。そのためピストンとシリンダーのクリアランスは、水冷のエンジンよりも余裕を持って設計せざるを得ません。
その余裕を持たせたクリアランスから、エンジンオイルが燃焼室に進入してしまうことがあります。燃焼室で混合気と一緒に燃やされてしまったエンジンオイルの中には硫黄などが含まれており、排ガスを浄化させする触媒の性能を落としてしまい、そのことにより窒素酸化物などの有害物質を浄化できなくなってしまうのです。
この2つの理由から空冷エンジンは排ガス規制に対応させることが難しいと言われています。油冷に近いメカニズムで設計し、空冷であっても冷却効率をより高めたエンジンも開発されましたが、やはり水冷の圧倒的な温度管理能力には叶いません。今後さらなる改良を加えて目先の排ガス規制に対応できたとしても、どんどん規制は厳しくなっていきますし、開発を続けるには資金も人的資本も必要です。そこまでして空冷エンジンを延命させるくらいなら「もう水冷エンジンでいいじゃん」というのが今の流れです。
まとめ
これらの理由で空冷エンジンを搭載したバイクというのはどんどん減っています。ちなみに日本の4輪では、1960年代から70年代に生産されていたホンダのTNという軽トラが最後と言われています。それを考えたら、よくここまで空冷エンジンを残せていたなと関心するレベルです。
おそらく空冷や油冷のエンジンは今後さらに減っていくでしょう。ちょっと寂しい気もしますが、こればかりは抗うことが難しいかもしれませんね。
今回の記事は下記の動画でも詳しく解説していますので、こちらもご視聴いただけると嬉しいです。
では今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました。
投稿者プロフィール
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元バイク屋のYouTuber。
バイクライフに役立つ情報を毎週配信。
メカの話やバイク購入アドバイスはもちろん、用品レビューやバイク屋裏話まで、バイク乗りなら誰もが気になるテーマばかり。
ちなみに中身はアラフォーのおっさん。
好物はサッポロ黒ラベルとキャベツ太郎だが、子どもができて以来、ふるさと納税で貰った無糖レモンサワーで節約している。
最近、血糖値と血圧を気にしているらしい。
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