今回はサスペンションに関して、その中でもダンパーについてのお話です。
純正であれこれ調整できる車種もありますが、これどうやって使うの?そもそもこれってなにを調整するもの?というライダーも実は多いのではないかと思います。
今回も例によって理解のしやすさ、覚えやすさを優先しているため、厳密には工学的に正しくない(説明が足りない)部分もあります。ご了承ください。
ダンピング?減衰力?それってなに?
現代のバイクにはほぼ全て、前後にサスペンションが装備されています。前後のサスペンションを構成するフロントフォークとリヤショックユニットにはそれぞれスプリングとダンパーから構成されており、そのダンパーはほとんどの車種がオイルダンパーを採用しています。
長くなるので今回は割愛させていただきますが、基本的にはダンパーはユニット内のオイルが通過する通路を狭くすることによって抵抗を発生させる構造のものが一般的です。抵抗をかけて動作スピードを落とす、つまりサスペンションのブレーキだと思ってもらえれば理解しやすいのではないでしょうか。このブレーキの強さをダンピングとか減衰力と言います。日常生活で聞きなれない言葉を使うから難しく感じるんですよね。
サスペンションにスプリングとダンパーが必要な理由は、たとえば大きな段差を通り過ぎた後、スプリングだけだとしばらくのあいだ車体が上下に揺れ続けてしまいますが、ダンパーが採用されていれば、サスペンションの動作にブレーキをかけることで上下の揺れを少ない回数で収めることができます。これがダンパーの第一の機能、衝撃吸収の役割です。
さらに、例えば急ブレーキをかけた場合、ダンパーが無いとフロントフォークが一気に沈んでしまいますが、ダンパーがあればフロントフォークをじわっとゆっくり沈めることができ、急な車体姿勢の変化でバランスを崩したり、急激な荷重の増加によってタイヤがロックすることを防ぐことができます。これがダンパーの第二の機能、姿勢制御の役割です。
かたい=減衰力が高い?
フロントフォークやリヤショックユニットは多数の部品で構成され、様々な要素からそのかたさが決まります。
まず大きいのはスプリングのかたさです。そしてもうひとつはダンパーのかたさ。他にも空気ばねの反力などの要素もありますが、大きな要素はこのふたつです。
このふたつの役割の違いは、
どれくらいの荷重がかかったときにどこまでストロークするか
を決めるのがスプリングの役割、
どれくらいの速度でストロークしたときにどれだけ動作にブレーキをかけるか
がダンパーの役割です。
このかたさの種類の違いが正確に把握できればサスペンションの基本は理解できたといってしまってもいいでしょう。
ストロークした後の戻る速度にはスプリングのかたさも影響しますが、こちらはどれだけストロークするスプリングを使用するかによって自動的に決まってしまいます。
ダンパーの特性は次のようなグラフで表されます。
ちょっとわかりづらいので説明すると、Compression(コンプレッション)というのは縮むときのグラフ、コンプ側なんて言われたりします。Rebound(リバウンド)は伸びるときのグラフです。
そしてそれぞれの動作速度(ピストンスピード)の違いによってどれくらいの減衰力を発生させるか(動作に対するブレーキをどれくらい強くかけるか)を表しています。
つまり、サスペンションが縮むときと伸びるとき、速く動くときと遅く動くときで減衰力が変化する(ブレーキの強さが変化する)ようにつくられています。
調整機能はこのグラフを全体的に上下させる装置、この特性自体が純正品と違うものが社外品だと思ってください。
ベストなダンパーのセッティングとは?
結論から言うと、競技車両の場合はタイムがでるセッティング、公道を走る車両なら安全に気持ち良く走れるセッティングがベストということになります。
この気持ち良いという感覚は人によって千差万別ですから、公道車両のセッティングは明確に判断できる数値がある競技車両より難解だということになります。
さらに気持ち良いと感じるかどうかは同じセッティングでもライダーのスキルによっても変わってきます。
ライディングスキルが高いライダーはバイクに無駄な挙動を与えない丁寧な運転操作が可能です。
しかしライディングスキルが低いライダーは全ての動作が荒くなりがちで、バイクに無駄な挙動を与えやすくなります。
その結果、ライディングスキルが高いライダーが気持ち良いと感じたセッティングでは姿勢変化が激しいため不安感が強く、スキルの低いライダーは気持ち良く走れないということになったりもします。
他人が素晴らしいと評したセッティングが自分にとってベストだとは限らないところが難しいところではありますが、これは逆に言えば他人の意見に惑わされずに自分の感覚だけを信じれば正解にたどり着けるということでもあります。
衝撃吸収に関しても、凹凸を完全に吸収し、ライダーに路面状況の変化を感じさせないレベルの衝撃吸収が可能であれば機械としては完璧な完成度といえます。
しかしあまりにも路面の状況とライダーに伝わる感触がかけ離れてしまうとライダーは路面の状態がわからず、気をつけて走らなければならない状況なのかどうかが判断できなくなってしまいます。
路面が悪いところではある程度バタバタ車体が暴れてくれたほうが結果として安心感を持てるバイクだと判断されることが多く、どれくらいドタバタしてくれれば安心できるかというのは人によって違いますから、ベストは自分の感覚で判断するしかありません。
さらにダンパーには衝撃緩衝と車体姿勢の制御の役割があることを説明しましたが、この2つは全く違う種類の能力ですので、それぞれのベストを狙っていくとまるで違った方向にセッティングが進んでいくことが多くなります。
結果、あちらを立てればこちらが立たない、という状況になりがちですので、どこで妥協するかが重要になってきます。バイクメーカーは過去の実績からこの妥協するポイントを上手く調整して車両を市販しています。
妥協するポイントをできる限り少なくできるよう、細かく調整することが可能なように、コンプ側をハイスピードとロースピードで別々に調整できる機構が採用されたダンパーもあります。
調整項目が増えることによってセッティングの難易度が上がるという面もあるので上級者向けではありますね。
最近は電子制御で走行中にサスセッティングを変更するシステムを搭載した車種も増えています。基本的にはIMUからの情報をもとに、常にダンパーの調整ダイヤルをモーターで動かして減衰特性を最適な状況に維持し続けるというシステムで、まさにあちらを立てた上でこちらも立てるという夢のようなシステムです。
しかしシステムが複雑なだけに、プリセットされたセッティングが万一好みに合わなかった場合にはどうにも合わせ込みようが無くなるシステムでもあります。まず滅多にそんなことにならないとは思いますけどね。
サスペンションセッティングの落とし穴
少しだけ調整機能が備わっている車種や、社外品に交換した場合のセッティングに関してのお話です。
一番よく聞かれるのは、例えばCBR1000RR-Rに乗っていて、YZF-R1みたいに曲がりたいんだけどどうすればいい?といった種類の質問。そもそも不可能な悩みなのですが、意外とこんな悩みを持っているライダーは多いです。
サスセッティングはあくまでも微調整、根本的な特性を変えてしまう魔法ではありませんから、違う車種に造り変えてしまうことはできません。
あと、まれに目にする情報で明確に間違っていて危険なものとしては、調整範囲内であれば危険な状態になることはないので調整機能はどんどんいじってみましょう、と言った解説。
調整範囲というのはバイクメーカー推奨のセッティングが調整範囲ぎりぎりにならないよう設定した上で、構造的に調整が可能な範囲が設定されているだけです。
結果的に調整範囲内であれば危険な状態になるような車種は少ないのも事実ですが、絶対ではありません。
推奨セッティング以外の状態で走行することは自己責任、というのがメーカーのスタンスですので、場合によっては危険なこともあります。意味も無く極端なセッティングで走行することは避けてください。
そもそも最初にどうしたいのかを明確にイメージできていないと、どんな変更をしたところで良くなったのか、悪くなったのかの判断はできません。と考えると、いきなり極端なセッティングにすることは有り得ないということがおわかりいただけると思います。バイクメーカーがそんな使い方を想定していないのは当然と言えば当然です。
まとめ
今回はダンパーに関して基本的な部分に絞ってお話をさせていただきました。突っ込んだセッティング方法などに関してはご要望があればまたの機会に。
サスペンションには色々と調整機能があったりしますが、スプリングのイニシャル調整さえできていればそれほど不満を感じることは無いと思います。
調整機能があるとなんか使いこなせるようにならないといけないのかな、と思ってしまいがちですが、通常はメーカー推奨セッティングのままでまず問題はありません。
調整機能を使いこなせないとまともに走ることができないとなると、調整機能のない車種は乗れたものではないと言うことになってしまいますからね。
まずはたくさん走ってそのバイクを上手く乗りこなす技術を磨き、それでもどうしてもここだけは不満、と言う部分をセッティングで解決する、という考え方でないと収拾がつかなくなります。まずは不満な点がはっきりするまではメーカー推奨セッティングで走り込むことをお勧めします。
投稿者プロフィール
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長年オートバイ業界を裏側から支えてきた、元、車両開発関係者。
バイク便ライダーの経験や、多数のレース参戦経験もあり。
ライダー・設計者、両方の視点を駆使して、メカニズムの解説などを中心に記事を執筆していきます。
実は元、某社のMotoGP用ワークスマシンを組める世界で数人のうちの一人だったりもします。
あなたが乗っているオートバイの開発にも、私が携わっているかもしれませんよ。
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