MotoGP&WSBK直系のスーパーバイクが第7世代へ進化
ドゥカティのパニガーレV4は、WSBK(スーパーバイク世界選手権)を戦うために生まれた市販車。MotoGPで圧倒的な強さを誇るドゥカティのレース部門であるドゥカティコルセが全面的に開発に携わり、WSBKホモロゲーション用の排気量998ccのパニガーレV4Rと、一般的な市販車である排気量1103ccのパニガーレV4SとパニガーレV4のスタンダードモデルを用意する。
今回、2025年モデルとして生まれ変わったのは、パニガーレV4SとパニガーレV4のスタンダードモデル。1988年の851からスタートしたドゥカティのスーパーバイクシリーズの第7世代のマシンとして進化した。7月にイタリアのミザノサーキットで開催されたWDW(ワールド・ドゥカティ・ウィーク)というイベントで発表され、9月にはさっそくイタリアのヴァレルンガサーキットで試乗会が開催されたので、参加してきた。
モデルチェンジの大きなトピックは、パニガーレらしさを昇華させたデザインと、大胆な肉抜きが特徴のメインフレームと両持ちになったスイングアーム、そして最新の予測型電子制御だ。
超軽量フレーム&スイングアームが216psを支える
試乗会場であるヴァレルンガサーキットに到着すると、新しくなったフレームとスイングアームが目に飛び込んできた。「これが216ps、レースキット装着時は228psを支えるのか…」とやや疑ってしまうほど肉抜きされ、どちらも持ってみるとたまらなく軽い。
このフレームとスイングアームは、エンジンから生える形で車体を構成し、それはライバル全車のアルミツインスパーフレームとは明らかに異なる思想。この独創的な車体構成がWSBKで数々の勝利を上げ、タイトルを獲得してきた。ドゥカティは0から1を生み出すものづくりが上手で、ライバルたちは1を5や10にする開発をしているようなイメージ。ドゥカティはMotoGPマシンもそうだが、発想や発明をカタチにする力を持っている。
ピットに行くとスリックタイヤを履いたNEWパニガーレV4Sがずらりと並んでいた。パニガーレV4Sは、イタリアンレッド一色。グラフィックはないのにとても精悍だ。このあたりもライバルと異なるドゥカティらしさ。スーパーバイク第2世代の916のデザインをオマージュし、伝統を大切にしつつ、新しいことにチャレンジしていることがよくわかる。
ハイパフォーマンスを味方にできる最新の電子制御
予測型の電子制御は、ドゥカティ・ビークル・オブザーバー(DVO)というアルゴリズムを使った機能で、ライダーやバイクの様々な挙動を予測。ライディングモードは、「レースA」「レースB」「スポーツ」「ロード」「ウェット」が用意され、各モードによってトラクション、ウィリー、スライド、エンジンブレーキコントロールなどの介入度が変化。電子制御式サスペンション3.0も含め、すべてにデフォルトの設定があるものの、それぞれをピックアップして自分に合わせることが可能。さらにそれぞれが予測しながら機能するというのだから驚くしかない。
ライディングモードは「レースA」「レースB」「スポーツ」「ロード」「ウェット」を用意。パワーモードは「フル」「ハイ」「ミディアム」「ロー」の4つが設定される。
ヴァレルンガサーキットでは「レースA」「レースB」をテスト。もちろん僕がこのコースを走るのは初めて。1本目は先導付きでコースイン。初めてのコースなのに、パニガーレV4Sはとてもリズムを取りやすい。今までのパニガーレにはない、馴染みやすさを感じる。
パニガーレV4Sはモデルチェンジの度に難しさを消し、ハイスペックを身近にしてきた。2025年モデルも同様で、走り始めた瞬間からラインのトレース性能が高い。久しぶりに味わうMotoGPマシンと同じ爆発間隔を持つV4エンジンは、速く、官能的で、とても滑らか。エキゾーストノートもトラクションする感じもたまらなく良い。
MotoGPマシン譲りのスペックは凄まじく、これまでは常に車体や制御よりもエンジンが勝っていたような印象だが、今回のパニガーレV4Sはかつてないほどスロットルを開けやすい。
ピットに戻ると走行毎にエンジニアのフランチェスコさんがオプションのデータロガーを見ながら様々なアドバイスをくれる。ライン取り、ギヤの選択、スロットルの開け方など、僕の走りは全て筒抜け。「バックストレートエンドは、あと3〜5mブレーキングを我慢してみようか。最終コーナはスロットルを2回開けてるね。もう少し我慢しないと。ライン取りもアウトから入りすぎ。でもインに寄りすぎてもダメなんだ」とフランチェスコさん。走行を重ねるにつれ、そのアドバイスはどんどん具体的になっていく。
「走りの見える化」はタイムアップやライテク向上に必須の装備。走行後に自分の走りを見直すことで次のチャレンジが明確になる。
自分の走りを新たなるステージに引き上げるバイク、それがNEWパニガーレV4だ
確実に止まれる自信を与えてくれるから、しっかりと加速できる。市販車初となるレースeCBSは、フロントブレーキをかけるとリヤブレーキも自動でコントロールしてくれる制御。驚きなのはフロントをリリースしても状況によっては一定時間リヤブレーキをかけてくれるということ。僕にはこれがいちばんわかりやすい予測型の制御だった。
フルバンク中はもちろん、ブレーキペダルから足の離れやすい左コーナーやイン側の足を出しての進入にも対応。最新のライディングスタイルをこの制御がより身近にしているというわけだ。
かつて感じたことのないほどの減速率をそれほど苦労することなく手に入れ、その後の向き変えや旋回中も電子制御式サスペンションとの連動で理想的な姿勢に導いてくれるようなイメージだ。とにかく常に連続的に様々な電子制御が作用し、それが僕の走りをサポートしてくれている。でもそこに嫌な感じや違和感はまるでなく、どちらかというと感謝の気持ちが強くなるほど。
もちろんフレキシブルなシャシーとスイングアームもこの走りに貢献。ブレーキをコーナーの奥まで握り、フロントフォークがストロークしたところでもフレームとスイングアームが路面追従性を上げ、それが旋回速度の向上などに繋がっている。
ライダーに寄り添いつつ、ハイスペックをきちんと解放させるという進化を達成するには相当の走りこみが必要だったはず。聞けば欧州の多様なMotoGP開催コースで、さまざまなライダーを使ってテストしたとのこと。
新しいライディングスタイルに対応するためにエンジニアリングを磨き続けるドゥカティ。いま、ドゥカティが考える最先端がここにある。
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投稿者プロフィール
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1974年、東京都生まれ。18歳からバイクライフをスタート。出版社に入社後、 20年以上バイク雑誌一筋で編集者生活を送り、バイク誌の編集長を8年ほど
経験。編集人生のモットーは、「自分自身がバイクに乗り、伝える」「バイクは長く乗るほど楽しい!」。過去 には、鈴鹿4耐などの様々なイベ
ントレースにも参戦。海外のサーキットで開催される発表会に招待いただくことも 多く、現地で試乗して感じたことをダイレクトに誌面やWEBに展開してきた。
2022年、フリーランスのモーターサイクルジャーナリストとして始動。