はい!元バイク屋のフォアグラさんです、こんにちは。
さて今回は、わかってそうでわかってない馬力とトルクについて解説をします。
「このバイク200馬力もあるんだ。めちゃくちゃ速いんだね」とか「馬力よりもトルクの方が重要なんだよ」なんていう話をよく聞きますよね。
「馬力がある車やバイクは速いものだってことはなんとなくわかるけど、そもそも馬力って何だろう?」 また「トルクが太いなんて言われるけど、トルクってそもそも何なの?」この質問に答えられない車好きやバイク好きの皆さんは、ぜひ最後までこの記事を読んでください。バッチリ理解できるようになるはずです。
また、最後の章ではターボとスーパーチャージャーについても解説しています。なぜこれが付いているとパワーアップするのか?その理由や仕組みの違いを説明しますので楽しみにしていてください。
「馬力」と「トルク」の関係
最初はまず「馬力とは何か?」「トルクとは何か?」と、その馬力とトルクの関係を説明します。
なんとなく最高出力つまり馬力が高いエンジンは最高速が高い、最大トルクが大きいエンジンは加速が良い、こんなイメージありませんか?実はこれ、だいたい正解です。
馬力というものを瞬発的なエネルギーの大きさのように考えている人が少なくないのですけれども、馬力というのは仕事率のことなのですね。
仕事率と言われたところで、なんかよくわかりませんよね?もう結論から言ってしまいましょう。こう言えば分かりやすいはず。
自転車を思い浮かべてみてください。ペダルを漕いで進みますよね。
このペダルを回そうとする足の力がトルクです。
ですのでこの踏み込む力が強ければ強いほど加速が良くなりますよね。でも1回踏み込んだだけでは、すぐ自転車は止まってしまいますから、ペダルは漕ぎ続けなければいけません。その漕ぎ続ける足を回す回数、これが回転数。
そしてこの回転数が増えるほど速度も乗ってきますよね?
この自分(+自転車)の重さをある速度で走らせる能力が馬力です。つまりトルクと馬力というのは密接な関係にあって、トルクが大きければ大きいほど馬力も出しやすいのですね。
さて、こちらのグラフをご覧ください。
車やバイクのカタログを見るとこんなグラフが記載されていますよね。これは性能曲線といって、それぞれトルクと馬力を示しています。
トルクも馬力もある程度の回転数に達するまでは上がっていきますね。そしてこのグラフの場合、トルクはだいたいこの7,500回転あたりで最大値に達します。これがそのエンジンの最大トルクであり、この場合は5.5kg・mですよね。ですので「5.5kg・m/7500rpm」と記載されます。
この最大トルクを発生している回転数を超えてしまうと、ご覧のようにトルクは逆にダウンしていきます。しかし回転数は増えているので、馬力はまだ上がっていきます。そのトルク×回転数の数値が最大に達したところがこのエンジンの最高出力ということになり、この場合は9300回転でピークの68馬力に達しています。ですので最高出力は「68PS/9300rpm」と表記されます。
これがよく皆さんが言っているところの、この車は280馬力だ、このバイクは180馬力だなんていう、アレのことです。
そしてこの最高出力を発生させる回転数を超えてしまうと、回転数の上昇よりもトルクの低下の方が大きくなってしまうため、出力つまり馬力も低下してしまいます。ですのでパワーカーブは最高出力を超えると垂れ下がってしまうってわけなのですね。ご理解いただけましたか?
ちなみにこのトルクカーブがフラット、つまり回転数で大きく変動しないエンジンの方が扱いやすいエンジンといえます。
逆に回転数が上がるにつれて大きくトルクが盛り上がって、突然パワーが湧き上がってくるエンジン、パワーが出る回転域が限られるようなエンジンを、ピーキーなエンジンと表現することがあります。そのようなエンジンを性能曲線に書くと、傾斜が急な山のようなカーブになります。
昔の2ストロークのスポーツバイクなどが代表例ですね。
馬力の高いエンジンの共通点
同程度の排気量で、かつターボやスーパーチャージャーが付いていなくても、全然馬力が違うエンジンというのがありますよね?ここではバイクを例に上げますが、これは車のエンジンであっても考え方は全く同じです。
例えば自分の愛車であるスズキのハヤブサというバイクは、1300ccで188馬力です。対してホンダのVT1300というバイクは、ほぼ排気量が同じでありながら54馬力しかありません。
確かに見た目からしていかに速そうなバイクと、ゆったり走れそうなバイクということは分かりますが、なぜ3.5倍近い差が生じているのでしょうか?
その理由はいくつかあるのですが、ざっくりお伝えすると、一般的にこれらの違いがあります。
トルクに影響する「圧縮比」
前述のように、最高出力つまり馬力というのはトルク×回転数です。あくまで最大トルクの値ではありますが、はやぶさは149N・mでVT1300は103N・m。ハヤブサの方が約1.5倍の大きなトルクを発生させています。この差はどこから来るのかというと、理由の一つに圧縮比の違いが挙げられます。
エンジンはガソリンと空気の混ざった混合機という気体をピストンで圧縮し、そこに着火させて爆発燃焼を起こします。この爆発力によってピストンが押され、その力を動力として引き出しています。
圧縮比というのは、この混合気を何分の1までの体積に圧縮するかという数値です。小さく圧縮すればするほど、1回の爆発で得られる力、つまりトルクにつながる力が大きくなる傾向にあります。
そこで圧縮比を比べると、はやぶさは12.5、つまり元の1/12.5の体積までギューっと圧縮するわけです。それに対してVT1300の圧縮比は9.2です。
トルクに対して大きな影響を与えるものの一つの圧縮比はハヤブサの方が高いことが分かりました。とはいえ、確かにハヤブサのトルクが高くはなっていますが、最高出力の3.5倍近い差ではありません。ということはトルクだけではなく、回転数の方にも大きな差があるはずです。
回転数を高くする要素
ハヤブサの最高出力の発生回転数は9700回転、VT1300は4250回転なので、2倍以上違います。主にこの回転数を高くすることに影響する要素を、一つ一つを簡単に説明していきます。
まず気筒数。この気筒数はピストンの数のことであり、ハヤブサは1300ccで4気筒。なので1300÷4で1気筒当たり約325cc。対してVT1300は2気筒なので1300÷2で1気筒当たり約650cc。往復運動するピストンの質量が小さいほど慣性質量も小さくなり、回転数を上げやすくなります。
次にカムバルブの駆動方式。ハヤブサはDOHC、VTはSOHCです。何が違うのかというと、DOHCはダブルオーバーヘッドカムシャフト、SOHCはシングルオーバーヘッドカメシャフト。要するにヘッド一つにつきカムシャフトが2つか1つかという違いですね。カムシャフトが2つあることによって、燃焼室の形やバルブの角度などの設計の自由度が上がり、より理想的で効率的な燃焼を行うことができるようになります。
そして1気筒あたりのバルブ数は、ハヤブサは吸排気それぞれ2本ずつの計4バルブであるのに対し、VT1300は吸気2本+排気1本の3バルブ。基本的にはこのバルブ数が多いほど混合気の充填効率が上がる上、1本あたりのバルブも軽くなりより、高回転型となります。
最後に、ボア/ストローク比というもの。シリンダーのボアつまり内径と、ピストンのストロークつまり上下する行程の比率のことです。
ボアよりもストロークが短いものをショートストローク、長いものをロングストロークと言い、一般的にショートストロークの方が回転型で高出力、ロングストロークの方がトルク型で低燃費と言われています。
ハヤブサはボアが81mmでストロークが65mmとストロークの方が短いのに対し、VT1300はボア89.5mmに対しストロークが104.3mmとストロークの方が長くなっています。
今紹介したポイント以外にも理由はあるのですが、主にこのような構造上の違いによって最高出力、つまり馬力に大きな差が生じているという事なのです。
ターボとスーパーチャージャーの違いとその仕組み
皆さんはターボって、「なんだか良くわからないけど、エンジンがパワーアップするヤツ」くらいの認識だったりしませんか?
もちろん間違ってはいないのですが、どんな仕組みで馬力がアップするのか。またスーパーチャージャーとの違いも、これから解説をしていきましょう。
ターボでなぜパワーアップするのか?
まずこのターボやスーパーチャージャーというものは、広いくくりで過給機と呼ばれるものですが、そもそもこの過給機とはどういうものかを一言で言うと、エンジンが燃焼させるために必要な空気を、圧力をかけて送り込むというものなのです。
圧力をかけて送り込むということは、空気が圧縮されて、密度の高い空気を送り込むことになります。つまり燃焼に必要な酸素もより多く送り込むことになり、燃焼のエネルギーをより多く得ることができるというものなのです。
過給機の仕組み、理屈をザックリと理解でしょうか?
この過給機を用いるということは燃焼エネルギーが増える、つまり1回1回の爆発力が上がるのでトルクが上がる、だから馬力が上がるという理屈ですね。
ターボの仕組み
ではターボとスーパーチャージャーは何が違うのか?その解説をしましょう。まずターボの仕組みから。
ターボはエンジン内で混合気を燃焼させた際に発生する排気ガスを利用して、排気ガスでタービンを回転させます。するとそのタービンと対になっている吸気用タービンが動いて空気を圧縮します。
このターボのメリットは、どうせ捨てるはずだった排気ガスを利用してタービンを回すことができるので、エネルギーの回収効率が良い、つまり無駄がないということですね。
デメリットとしては、排気ガスが一定量を発生しないとタービンを動かすことができないので、低回転域ではその恩恵を受けられないということです。ただし近年主流となっている燃費重視のターボは、低回転でも作動する小さいターボを用いています。
スーパーチャージャーの仕組み
ではスーパーチャージャーはターボとどう違うのか?
ターボは排気ガスを動力源としていたのに対し、スーパーチャージャーはクランクシャフトの回転を利用しています。ですので低回転であったとしても過給されるということが最大のメリット。そのため、回転数によって効果が変わってくるターボに比べると扱いやすいとも言えます。
反面デメリットとしては、ある程度の出力に達するとコンプレッサーの効率が低下して、ターボに比べると絶対的なパワーでは劣ること。さらに言うと、エンジンの回転数は上がりすぎると、そもそもエンジンの出力が低下してしまうため、最大出力には限界があるという事ですね。そのためある程度の回転数に達すると、エンジンからスーパーチャージャーを切り離すというものも存在します。
というわけでターボとスーパーチャージャーの違いをご理解いただけたでしょうか。
まとめ
馬力とは?トルクとは?という長年のモヤモヤがこれでスッキリ晴れたでしょうか?
馬力が高いエンジンが優れているというわけではなくて、気筒数が少ないエンジンには独特の味わいもありますし、重さも軽いです。「過剰な馬力なんか必要ない」といういう人もいます。
これは好みの問題ですので、自分の好きな乗り味性能のエンジンを見つけたいところですね。
また、ターボやスーパーチャージャーは4輪の世界では当たり前で、前述のそれぞれの弱点を克服する色々な方法も取られているので、メカ好きの方はそちらも調べてみると面白いですよ。
今回の記事も下の動画で詳しく解説していますので、こちらも是非ご視聴ください。
それでは今回も最後までご視聴いただきありがとうございました。
投稿者プロフィール
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元バイク屋のYouTuber。
バイクライフに役立つ情報を毎週配信。
メカの話やバイク購入アドバイスはもちろん、用品レビューやバイク屋裏話まで、バイク乗りなら誰もが気になるテーマばかり。
ちなみに中身はアラフォーのおっさん。
好物はサッポロ黒ラベルとキャベツ太郎だが、子どもができて以来、ふるさと納税で貰った無糖レモンサワーで節約している。
最近、血糖値と血圧を気にしているらしい。
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